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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
40/248

(関ケ原)2

     ☆


 浅井久政は朝靄がかかった前方を見ていた。

美濃軍が布陣している辺りだ。

奥歯を噛み締めて、ギリギリと睨む。

 返す返すも腹立たしい。

斎藤家へ妹を嫁がせたのは、この日の為ではなかった。

斎藤家と組んで六角家に対抗する、その期待から嫁がせた。

が、期待は裏切られた。

六角家に従属するしかなくなった。

正室と嫡男を質に差し出した。

どこで間違えた。

誰が間違えた。


 法螺貝が吹かれた。

六角の本陣からだ。

陣鐘がつかれ、陣太鼓が打たれた。

六角軍の軍気がにわかに高まって行く。

ここ浅井軍にしてもそう。

従属しているとは言え、戦場を共にすれば共通目的に目が行く。

美濃衆を蹂躙せよ、蹂躙せよ。

 軍議では、兵力差を考慮して正面から押して行く、そう決められた。

多勢で小勢を磨り潰す。

でも、この朝靄は想定していなかった。

だからと言って中止はない。

敵も同じ状況に置かれているからだ。

 

 太鼓が攻太鼓に転じた。

浅井久政は軍配を揮った。

「押し出せ」

 北国街道に布陣していた浅井軍が朝靄の中、整然と出撃した。

一万が五部隊に組み分けされ、適時交替しながら押して行く。

簡単すぎて間違えようのない戦術。

 それは六角も同じ。

外様の一万を五部隊に組み分けた。

違うのは攻める持ち場だけ。

浅井は東山道の敵防御陣。

六角は伊勢街道の敵防御陣。

 気懸かりは二つの防御陣が美濃軍総大将の持ち場であること。

普通、総大将が最前線に防御陣を構える事はない。

なのに、よりにもよって二つに分けて守備に徹していた。

幅が広い空堀と強固な馬防柵。

その防御陣の後方に美濃勢の旗がずらりと翻っていた。

何が狙いなのか。


 鬨の声が上がった。

朝靄で確とはせぬが、第一陣が突入したのだろう。

奇声、掛け声が聞こえた。

弦音も多くなってきた。

敵弓隊の迎撃。

「盾を頭上に翳せ」と悲壮な声。

 突然、雷鳴のような轟音が轟いた。

これが噂に聞く鉄砲だろう。

希少で高価なもの、何時までも撃ち続けられるものではない。

そう六角軍の諸将が言っていた。

浅井久政は腰を浮かして前方を見た。


     ☆

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