(関ケ原)2
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浅井久政は朝靄がかかった前方を見ていた。
美濃軍が布陣している辺りだ。
奥歯を噛み締めて、ギリギリと睨む。
返す返すも腹立たしい。
斎藤家へ妹を嫁がせたのは、この日の為ではなかった。
斎藤家と組んで六角家に対抗する、その期待から嫁がせた。
が、期待は裏切られた。
六角家に従属するしかなくなった。
正室と嫡男を質に差し出した。
どこで間違えた。
誰が間違えた。
法螺貝が吹かれた。
六角の本陣からだ。
陣鐘がつかれ、陣太鼓が打たれた。
六角軍の軍気がにわかに高まって行く。
ここ浅井軍にしてもそう。
従属しているとは言え、戦場を共にすれば共通目的に目が行く。
美濃衆を蹂躙せよ、蹂躙せよ。
軍議では、兵力差を考慮して正面から押して行く、そう決められた。
多勢で小勢を磨り潰す。
でも、この朝靄は想定していなかった。
だからと言って中止はない。
敵も同じ状況に置かれているからだ。
太鼓が攻太鼓に転じた。
浅井久政は軍配を揮った。
「押し出せ」
北国街道に布陣していた浅井軍が朝靄の中、整然と出撃した。
一万が五部隊に組み分けされ、適時交替しながら押して行く。
簡単すぎて間違えようのない戦術。
それは六角も同じ。
外様の一万を五部隊に組み分けた。
違うのは攻める持ち場だけ。
浅井は東山道の敵防御陣。
六角は伊勢街道の敵防御陣。
気懸かりは二つの防御陣が美濃軍総大将の持ち場であること。
普通、総大将が最前線に防御陣を構える事はない。
なのに、よりにもよって二つに分けて守備に徹していた。
幅が広い空堀と強固な馬防柵。
その防御陣の後方に美濃勢の旗がずらりと翻っていた。
何が狙いなのか。
鬨の声が上がった。
朝靄で確とはせぬが、第一陣が突入したのだろう。
奇声、掛け声が聞こえた。
弦音も多くなってきた。
敵弓隊の迎撃。
「盾を頭上に翳せ」と悲壮な声。
突然、雷鳴のような轟音が轟いた。
これが噂に聞く鉄砲だろう。
希少で高価なもの、何時までも撃ち続けられるものではない。
そう六角軍の諸将が言っていた。
浅井久政は腰を浮かして前方を見た。
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