(美濃)5
私が大人達から開放されると、
待ち兼ねたようにお園とお宮がそそそっと歩み寄って来た。
二人とも近年、稀に見る笑顔。
「生まれましたよ」
その一言で私は自分の顔が崩れるのが分かった。
急いだ。
城内を駆けるのは厳禁なので、早足で居館に戻った。
居館の奥の寝所とは別に、
渡り廊下の先の建屋にもう一つの寝所がある。
庭先からそちらに回った。
寝所の外に側仕えの者達の姿があった。
彼等の目が私にではなく、寝所下の犬小屋に向けられていた。
花子の傍らで横になっている子犬が四匹。
太郎がそれを愛おしそうに見守っていた。
暫くして私に声がかけられた。
「殿、いくら嬉しいからと言って、女子を置き去りにするは許せませんね」
息せき切ったお園に怒られた。
その後ろではお宮が深呼吸していた。
暖かくになるに連れて私の旗下にある軍勢が拡充された。
これまで一部隊五百であったものが定員千に倍増。
旗本隊から六番隊までの七部隊三千五百が七千になった。
各隊に鉄砲足軽百も配備された。
それとは別に増える鉄砲に合わせて鉄砲隊が設けられた。
兵は千だが、現在所持する鉄砲は二百丁。
これを予備役扱いとした。
番号を飛ばして十番隊。
銃番隊とも。
増員に伴い番役方の階級も上げられた。
五百人頭から千人頭へ。
旗本隊千名、隊長は近藤勇史郎。
一番隊千名、隊長は松原忠助。
二番隊千名、隊長は武田貫太郎。
三番隊千名、隊長は井上源次郎。
四番隊千名、隊長は谷三太郎。
五番隊千名、隊長は藤堂平太。
六番隊千名、隊長は鈴木幹之助。
十番隊千名、隊長は原田佐太郎。
お披露目代わりに私は最大兵力で西濃に出撃した。
参謀は芹沢。
部隊は旗本隊から五番隊まで、六千。
普通、軍勢の動きは傍目にも分かる。
農民を徴用し、兵糧を集積するからだ。
ところが我が方は違う。
兵は銭雇いの常備兵。
兵糧は屯田の村に備蓄されていた。
号令一下、六千が即座に動いた。
西濃の国人衆にとっては晴天の霹靂だったのだろう。
為す術なく城や砦、館に籠城するばかり。
余勢を駆れば西濃三人衆を討伐できた。
それを押し止めたのが参謀・芹沢。
「五分の勝ちで収めましょう。
勝ち過ぎると国境が近江に接してしまいます。
今は六角や浅井とは距離を置くのが得策です。
適当なところで西進を止め、砦か城を築くべきです」
揖斐川を渡河した先の高台の古びた社を土地の者達が占拠し、
当方に激しく抵抗した。
立て籠るのは一所懸命に拘る地侍とその地縁血縁に繋がる古き者達。
既に彼等を従える筈の国人は逃れたと言うのに、
時世が見えぬとは何とも愚かなものだ、
だからと言って手加減はできない。
このような手合いに味方を擦り減らされるのは業腹だが、やる。
私は芹沢に尋ねた。
「焙烙玉を持って来ていたな」
「はい、試作品を二十ほど」
「金属の破片が飛び散るようになっているんだな」
「試しました、よく飛び散ります」
「使用を許可する。
味方の損傷を減らしたいから、効率的に使ってくれ」
「朝駆けで甲賀衆に焙烙玉を投げ込ませます。
爆発次第、恭順を示した者や投降した者、
これらの手勢を先頭に押し立てて攻め込みます」
辺りを見回すと、高台はいい場所に位置していた。
小川や湿地帯が外堀の役割を果たしていて攻め難い。
実際、敵は小勢にて頑強に抵抗していた。
ここに決めた。
ここを西に備える城を築こう。
私は忙しいから芹沢に縄張りから普請まで丸投げしよう。
彼なら出来る。
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