(斎藤義龍)1
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斎藤義龍は大桑城を居城としていたが、
厄介事が生じたので急遽、鷺山城へ移動した。
率いた兵は大桑城から選び抜いた五百。
この時期に領民から徴用するのは難しい上、国人衆にも頼み難い。
そこで旗本を柱として軍勢を編成した。
直臣の旗本に陪臣の地侍を与力させ、足軽を率いらせた。
大桑城の守りもあるので、これ以上は出せない。
到着を見澄ましたかのように、厄介事が現れた。
稲葉山明智家の軍勢だ。
このところ、しきりと出没して荒らしまわる。
西濃に現れたかと思えば、次の日は中濃、さらには東濃。
田畑を焼き、水路を壊し、橋を落とす。
余裕があれば在地の領主の屋敷を焼き払う。
あくどいことに、その領地の兵が駆け付ける前に退却する。
困った国人衆が長良川沿いに物見を放って警戒しているのだが、
その網にかからない。
小勢なので、捕捉し難い。
たまたま、退却する敵勢に遭遇した領軍も幾つかあった。
これ幸いと襲いかかった。
慌てて退却の足を速める敵勢。
嵩にかかって追撃に転じる領軍。
ところがこれが罠だった。
伏兵が置かれていた。
側面から槍足軽隊の突撃を喰らった。
指揮官を含めて殲滅の憂き目に遭った。
稲葉山明智家への報復に動いた国人領主も数人いた。
怒りに駆られていたが、略奪目的もあったので、他の領主と連携せず、独り占めせんとして軍勢を進めた。
村の一つか二つを制圧し、物資を奪い、
村人を奴隷として売り払おうと皮算用した。
意気込んで奇襲せんと長良川を渡河した。
これが間違いだった。
一向に稲葉山明智の物見に遭遇せぬ事を疑うべきだった。
突如、法螺貝が吹かれた。
一斉に弦音、上に向けて矢が放たれた。
丈の高い草地の中に稲葉山明智軍が待ち構えていた。
立て続けに鉄砲の轟音が鳴り響いた。
上からは矢の雨が降り注ぐところに、正面からは鉄砲の弾。
隊列が崩れたところを側面から槍足軽隊に襲われた。
いずれの国人領主も奇襲せんとしたが、
逆に待ち伏せに遭ってしまった。
這う這うの体で逃げるのが精一杯だった。
義龍は自ら軍勢を率いて城を飛び出した。
物見の報告では村を襲っている敵勢は五百。
こちらは鷺山城の兵五百、大桑城からの兵五百、合わせて千。
数ではこちらが上回っていた。
敵勢の行動は読めていた。
これまでの数々の行為は焼くか壊す。
そして素早く退却する。
略奪行為はしない。
鉄砲隊は帯同しない。
それは退却の足を考慮してのことだろう。
義龍は敵の退路を予想した。
追撃した領軍は必ず伏兵に遭っていた。
つまり敵勢は焼き討ち部隊と伏兵部隊で編成されている証。
退路は幾つか考えられるが、伏兵を置き易いところ一択。
予想される地点に鷺山城兵を向かわせた。
伏兵がいれば排除せよ、いなければ村へ急げと命じた。
そして自らは襲われている村へ急いだ。
一番いい解決策は退却前に潰す。
気が急いた。
小川に架けられていた橋が壊されていた。
問題はない。
下流の浅瀬を渡河した。
雑木林の向こうで煙が上がっていた。
声が聞こえた。
怒号、奇声、悲鳴。
戦場が近い。
雑木林で馬を止めた。
ここからでは村は見えない。
後続の徒士や足軽を待つ間に物見を走らせた。
あらかた手勢が揃った頃合いに物見も戻って来た。
物見がへし折った枝で地面に村と周辺道路を描いた。
「この道の先を曲がると村が見えます。
田畑が焼かれ、現在は庄屋の屋敷が襲われております」
村へ通じる道は三つ。
一つは敵が伏兵を置くと予想した林道。
残り二つは畦道を広げた悪路。
義龍は軍勢を二つに分けた。
右に向かう軍勢を見送ると、左の悪路へ馬を進めた。
焼かれる臭いが鼻をつくが平常心を保ち、
徒士や足軽の足を考慮しながら村へ急いだ。
右手から鬨の声が上がった。
別手組だ。
突入したらしい。
☆
お知らせです。
思っていたよりも物語の進行速度が上がってしまいました。
このままですと、今年中にこの太陽系を統治し兼ねません、たぶん。
この速度を続けると中身がガバガバ、薄味になる懸念もあります。
ついては更新速度をちょっと落とします。
素人解釈の小説とは言え、信憑性も大切なので、
見直す余裕がほしいのです。
そんな訳で、スローな文芸にしてくれ~♪でした。
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