表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
197/248

(西から迫る兵火)10

 飯母呂十兵衛が主・尼子晴久の言葉を余すことなく伝えた。

過不足の無い口上で、使者の域を越えぬ面白味の無いもの。

それでも、これが言葉の戦の入り口。

理解している竹中半兵衛は相手を試した。

「欲しい薬を聞かせてくれ」

「塗り薬と飲み薬、洗い薬でございます」

「購入する数は」

「手始めに、共に千。

如何でございますか」

「金額は」

 飯母呂は懐から新たな書状を取り出した。

「これに」

 供回りの兵の一人が受け取り、それを竹中へ差し出した。

読んだ竹中の目が大きく見開かれた。

「お主、これは」

「某は、内容は知らされておりません。

ただ、金額はそれに記してあるとだけ」


 竹中は呆れた様に言う。

「薬の代金が毒だとはな」

 竹中は書状を藤堂虎高に手渡して、諸将を見渡した。

「薬の対価として我が殿を管領の一人に押す、そう書かれている」

 真っ先に沖田蒼次郎が応じた。

「惚けた話だな」

 山南敬太郎も言う。

「将軍宣下もまだなのに、随分と気が早い」

 魚住景固が竹中を見返した。

「それを殿には」

 竹中がきっぱりと言い切った。

「取り次ぐ必要なし」


 飯母呂の表情が曇った。

「小谷城へは」

 竹中が睨み付けた。

「小谷の殿へお知らせする程の価値はない」

 藤堂虎高が読み終えた書状を隣に手渡して言う。

「これを殿に取り次ぐのは愚の骨頂だ。

・・・。

飯母呂十兵衛と申したか。

その方は知らぬのか。

誰が先代将軍を手に掛けたのか」

 藤堂が睨み付ける様に、視線を飯母呂にジッとくれた。

首を竦める飯母呂。

「承知しております。

ですが、それとこれとは」

「仮にも覚慶様は、先代様とは兄弟であろう。

仇を管領に就任させる事は有り得ぬ、違うか」

 飯母呂がそれでも言う。

「覚慶様は宣下を受ける為なら承知なされるでしょう」

 余りの言い様に場の雰囲気が凍った。


 ややあって、竹中が飯母呂に言う。

「大方、管領に任じて、招き寄せてから討つつもりであろう。

これが覚慶様のお考えなのか、尼子殿のお考えなのか、

その辺りは分からぬが、…。

ふざけんな、山城全域を焼き払って見せようか」

 酒井忠次が読み終えた書状を隣に手渡して言う。

「竹中殿、落ち着きなされ。

使者に怒っても致し方ない。

・・・。

使者殿、尋ねるが、本気で薬を買うつもりがあるのか。

まさか、もう一つ懐に書状があるとは言わぬよな」

 飯母呂が顔色を変えた。

「ございません。

ですが、某に交渉は一任されております」

 察するに、懐にもう一通あったらしい。

酒井がニヤニヤ顔。

「ほう、使者殿も苦労するな」


 供回りの兵を装っていた私は笑いを堪えるのに必死であった。

目の前の遣り取りが他人事にしか思えなかったからだ。

そんな私の苦境を尻目に、飯母呂が値段交渉に入った。

すると開口一番、長倉金八が駄目だし。

「その値段は馴染みの顧客用だ。

某は産物取締役方の手伝いをした事があるから分かるが、

一見の客でしかない尼子家にはそれでは売れぬ。

ようく考えてから申せ」

「ですが」

「ここは都が近い。

当然、商いも雅なものとなる。

そこら辺り、ようく承知願いたい」

 まさか長倉金八まで悪乗りするとは思わなかった。

私はこのままでは笑い死にする。

腹が破けて。


 斎藤一葉が私に助け船。

思い切り怒鳴った。

「ええーい、もうよいわ、終わりだ。

尼子殿も本気ではあるまい。

大方、使者殿にこちらの陣容を探らせるのが本筋。

だろう、飯母呂十兵衛殿、違うか」

 飯母呂が激しく首を横に振った。

「いいえ、決してその様な事はございません」

「そうか、それにしては生温い交渉の進め方だが」

 お陰で私は窮地から脱した。

槍をしっかり握り直した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ