(西から迫る兵火)7
大物見の第二隊がドッと動いた。
先頭を切ったのは右田隆量率いる騎馬三百余騎。
馬足が遅い事を理由に、第二隊に組み込まれた者達だ。
その鬱憤を晴らそうと意気込んでいた。
続いて南条宗勝率いる徒士二千余。
足自慢の徒士衆が馬を追い越さんばかりに駆けて行く。
敵鉄砲隊の脇腹を突かんとした。
とっ、新たな敵が出現した。
この時を待ち構えていた、と言わんばかり。
第二隊の側面に敵鉄砲隊。
ここでも草地に擬態していた。
厚い横隊が一斉に火を噴いた。
ここでも鳴り止まぬ斉射の轟音、白煙。
バタバタと倒される味方兵。
大物見の第一隊を撃ち崩した敵鉄砲隊で新たな動き。
その背後から徒士衆が湧き出した。
第一隊目掛けて駆けて行く。
大物見の第二隊に対してもそう。
そちらからも徒士衆が湧き出した。
てんでばらばらではない。
完全に統制が取れていた。
小笠原は焦った。
このままでは大物見が二つとも壊滅してしまう。
兵糧が届かぬ事態から、兵力を積極的に削ったが、これは計算外。
これを許すと、自分の責が問われる。
「太鼓を打て、攻太鼓だ」
敵味方にこちらの存在を誇示し、味方を力付けし、敵を威嚇する。
太鼓が打たれる中、矢継ぎ早に指示を下した。
与力衆を含めた手勢に、次々と隊列を組ませた。
この際、頭同士の仲など知った事ではない。
何よりも数を優先させた。
下りなので間隔の保持も、くどく説いた。
「この丘を駆け下り、その勢いで味方を助けるぞ。
乱太鼓を打たせろ。
その後に法螺貝だ」
法螺貝と共に鬨の声を上げて手勢が丘を駆け下って行く。
それを見たのか、大物見の第二隊が息を吹き返した。
無様な動きだが、必死になって隊列を組み直して行く。
対して、攻め手側が後退した。
それも戦線を維持しながらの後退で、付け入る隙を与えない。
熟れた指揮だ。
小笠原の手元に残った供回りの者達の顔が綻ぶが、
小笠原は素直に喜べない。
まるでこちらの動きを事前に察知していたかの様な後退。
これは、読まれている、・・・。
慌てて左右を見回した。
時すでに遅し。
後方と左右から敵兵が湧いて来た。
少数ではあったが殿軍を置いていた。
それは物音一つ立てずに壊滅したのだろう。
左右の見張りも同様なのだろう。
小笠原の供回りの者達もそれに気付くが、なす術なし。
敵は慎重だった。
後方には鉄砲隊。
左右には槍を手にした徒士衆。
それがジリジリに迫って来て、距離を置いて停止した。
数は小笠原方が五百余。
敵方は、三方にそれぞれ千余、合わせて三千余。
動けば真っ先に鉄砲が放たれる。
次に左右から圧し潰される。
敵鉄砲隊から五名が進み出て来た。
装いから何れも上級者である様だ。
それが中間点で止まった。
旗が振られた。
交渉を求められた。
小笠原は応じた。
腕の立つ者を選び、交渉点に向かった。
真ん中の若い将が開口一番。
「止太鼓を打って貰いたい。
それでそちらの被害が減る」
尤もだ。
小笠原は共の一人を後方に走らせた。
直ちに止太鼓が打たれ、触れの旗が振られた。
暫くすると戦火の喧騒が消えた。
若い将が再び口を開いた。
「ご賢明、感謝する。
某は美濃与力衆を率いる竹中半兵衛と申す」
「近江支配の明智殿の配下とお見受けするが」
「如何にも、明智家の足軽です」
「足軽とな」
うちの武将と変わりない装いだ。
疑問を察したのか、竹中が教えてくれた。
「当家の主が足軽大将で、我等はその下に付く足軽です。
足軽ですが、俸禄や装備品はどこにも負けません」
「相分かった。
それで我等はどうなる」
「どうもしません。
死傷者全員を連れて近江から退去して頂きたい」
「それは竹中殿の一存か」
「はい、私に任されています、が、他の方々も同意されてのこと。
手違いは起こらぬでしょう」
小笠原は敢えて訪ねた。
「明智家は、松永を見逃すのか」
「はて、・・・、あちらは顧客です」
「顧客とは」
「明智家の商品を、何時も大量に買って頂いております」
「それで見逃すと」
「それに礼儀を知っておられる。
事前に先触れがありました」
「我等も先触れをすれば」
「それはない」




