表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
187/248

(平穏な日々)34

 三好長慶は松永久秀と問うた。

「それで長頼は如何にすると」

「両細川家に断りを入れるつもりでおりました。

ところがご存知の様に、波多野元秀が管領方へ寝返りました。

お陰で仕切り直しです」

 かつての波多野元秀は管領方として三好家と対立していた。

それが三好勢の猛攻を受けて居城・八上城を奪われるや、

三好家の傘下に入らざるを得なくなった。

入ったものの、居城・八上城が返還される事はなかった。

不満を燻らせている所へ、今回の管領方からの誘い。

一も二もなく承諾した。

波多野一族挙げて平島公方・足利義栄に与する事を表明した。

波多野は内藤と共に丹波を二分する氏族。

この影響は大きく、他の丹波国人衆へも波及した。


 三好長慶がお茶を手にした。

「尼子勢は丹波から京に入る。

その丹波が二つに割れた、そうなると足止めさえ難しい。

が、その前に問題は長頼と孫六だ、どうする」

 久秀の弟・長頼と甥・孫六が丹波にいた。

長頼が八木城、孫六が八上城。

共に丹波の堅城ではあったが、波多野一族が離反した今、

尼子勢に抵抗できるとは思えない。

「先が読め難くなりました。

それでも長頼と孫六が何とかしてくれるでしょう」

 血縁の一大事なのに冷静な口調。


 長慶はお茶を飲んだ。

「弟と甥に冷たいな」

「尼子勢の弱点は分かってます。

それなりに戦ってくれるでしょう」

 尼子勢の多くは賦役の雑兵。

彼等は戦ではなく田植えが本職。

年貢と兵糧の作り手。

彼等を田植えに帰さねば、領地も兵站も立ち行かなくなる。

だから尼子勢はその前に上洛を果たさねばならない。 


 長慶は去就を明らかにせぬが、主立った者達には密かに告げていた。

「尼子を奥へ招く。

皆もようく持て成す様に」

 それで歴戦の強者達には充分に通じた。

主戦場は丹波から山城にかけて。

尼子勢の兵站を長くし、遅滞戦術でジワジワ締め上げると。

その戦域地図は書き上げていたが、それに染みを付けたのが管領。

小さな一石であったが、細川宗家が加わった事により、大きく広がった。

無視できぬ存在になった。


 長慶は久秀を見た。

「長頼と孫六に伝えよ。

まだ充分に奉公して貰っておらん。

よって、城と共に死ぬのは許さん。

生きて奉公を続けよ、とな」

 久秀が鼻を鳴らした。

「ふっ、無茶を仰いますな」

「慶興を通じて明智家へ話を通す。

否はない筈だ。

二人には、機を見て琵琶湖沿いに大和へ逃れよと伝えよ」

 逃れた兵を追って近江へ越境すれば、明智家との戦端が開かれる。

越境するか、しないか、尼子の覚悟が問われる。

逃がすにしても面白い一手だ。

久秀は頭を下げた。

「感服いたしました」

「お前の頭は下げる為の物じゃない。

ワシのもう一つの頭だ。

尼子はワシがやる。

お前には細川を任せる、存分にな」


     ☆


 忍び衆役方より参謀役方へ、尼子勢の動きが細大漏らさず報告され、

検討に検討を重ねた結果が大人衆へ上げられた。

同じ物が私の手元にも届けられた。

 特に目を惹いたのは、尼子晴久の交渉の仕方。

弱者は大軍で囲み、譲歩を大きく引き出して上洛の供奉を命じた。

被害に遭った代表例が安芸の毛利家。

供奉と共に転封をも飲み込まされた。

備中の三村家親もそう。

 強者も大軍で囲んだが、交渉では足利覚慶様を前面に押し立てた。

但馬と因幡に大きな影響力を持つ山名祐豊。

備前の浦上宗景。

播磨の赤松晴政。

これら腐っても守護や守護代にある者達を権威で呼び付け、

好餌で誘い、上洛への供奉を命じた。

 

 私は大きな溜息を付いた。

久々に顔を出した側仕えの近藤勇史郎がお茶を差し出した。

「如何されました」

「これだよ」

 表紙に見て、近藤が頷いた。

同情の目色。

「某も読ませて頂きました」

 彼は大人衆の第三席にあるので、真っ先に読む一人。

「兵を損なわずに来るのだから大したものだよ」

「ですが、別の見方も」

「ほお、教えてくれ」

「まず一つ、彼等は実戦から遠ざかっております。

寄り集まりですから、連携が肝心です。

その意味から、少なくとも二戦か三戦は欲しかったかなと」

「二つ目は」

「兵が多過ぎます。

兵糧がどのくらいなのか、そこが気になります」

「三つめは」

 近藤がニヤリとした。

「殿のお考えも聞かせて下さい」

 ええっ、そう来たか。

その答えは今度なと言いたい。

あれ、目は笑ってない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ