表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
184/248

(平穏な日々)31

     ☆


 執務していた私に声が掛けられた。

「殿、根の詰め過ぎです。

そろそろ珈琲にしましょうね」

 幼い頃からの付き合い。

お園の言は的を得ていた。

目にしょぼしょぼ感。

「庭を見るか」

 私は筆を置いて、縁側に足を向けた。

お園と同じ側仕えの長倉金八が障子戸を開けた。

途端、初夏を思わせる風が入って来た。

私は縁側に腰を下ろし、踏み石に足を乗せた。

日当たりが良いせいか、踏み石がちょっと暖かい。

疲れた身には心地好い。


 お園の指示で侍女がお盆に珈琲とお菓子を載せて来た。

私の傍にそっと置いて下がる。

私は珈琲に砂糖を入れて掻き混ぜた。

仕上げに麦焼酎を少し垂らした。

この瞬間を待っていたかの様に、庭先から猪鹿小熊に声を掛けられた。

「殿、宜しいですか」

 猪鹿蝶の兄、猪鹿家の嫡男だ。

忍びだが、この居館の慣例に従い、足音を立てて現れた。

庭で警護に従事していた者達が動かないという事は、

それなりの手続きを踏んだ証。

「聞こうか」

「尾張からの文が届きました」

「一向一揆の件か」

「はい、織田方が長島にて服部友貞を討ち果たし、

一揆勢を輪中に押し込めました。

ただし、織田方は勝ったものの、被害も大きく、

掃討には至っておりませんとのこと」

「戦線は膠着か」

「はい、信長様は佐久間信盛殿に包囲網構築を命じられ、

ご自身は沓掛城に入られました」


 沓掛城は長島の一揆と南三河の一揆を両睨み出来る位置にあった。

柴田勝家と佐々成政により、旗頭の石川康正を討ち果たし、

南三河の一揆勢を掃討したのだが、それでも沓掛城に拘るのは、

それなりの疑念があるのだろう。

おそらくは一向一揆の再興。

信徒は雑草と同じで、踏んでも踏んでも、

雨後のタケノコの様に生えて来る。

 義兄には同情してしまう。

宗教を相手にするには、鬼に成切らねばならない。

でなければ、こちらが喰われるか、飲み込まれる。

頑張れ、信長殿。

願いを込めて珈琲を飲み干した。

うっ、苦い。


 私は話題を変えた。

「ところで、お蝶や蒼次郎からの文はないのか」

 猪鹿蝶と沖田蒼次郎。

縁づけた序に、畿内巡りを申し付けた。

山城、大和、河内、和泉、摂津。

旅人にとって然程、危なくない所だ。

野盗より何より、怖いのは関所。

関所が多いので、払う通行料が嵩むのだ。

なので祝いとして銭金を余分に持たせた。

なのに届く文が少ない。

小熊が困った顔をした。

「実家への文も少ないのです。

申し訳ありません」

 近江から伊賀を抜け、大和に入るとは聞いていた。

ところが伊賀と大和からの文が届いたっきり。

どこで何をしているのやら。

まあ、公務として派遣した訳ではない。

遊び心で派遣しただけのこと。

目くじらを立てるほど私は野暮ではない。


 二人の身に危険が及ぶ事は少ないだろう。

何しろ二人は腕利き。

加えて、忍び衆役方が畿内各地に出先を置いていた。

その多くは商家。

何か問題が発生したら、そこへ駆け込み、助けを求めれば良い。


 長倉金八の小さな声が聞こえた。

「なんて羨ましい」

 お園が注意した。

「あの二人は良いのですよ」

「でもですね」

「でもは野暮ですよ。

悔しければ今の奥様を離縁し、新しい奥様を貰いなさい。

さすれば祝い金を弾みますよ。

出来ますか、おっほっほほ」

 長倉の奥方は一男二女を産んだ。

その三人の子を長倉は溺愛していた。

非番の日は三人を連れ回しての可愛がりよう、との噂。

今さら、離縁はない。


 この所、うちの側仕え達のボヤキが多い。

もしかすると、暇なの。

平穏続きで心身共にだるいの。


 そんな所へお蝶から文が届いた。

管領と京兆家に提携する動きが見られると。

管領は細川晴元。

京兆家は細川宗家で、当代は細川氏綱。

暗闘を繰り広げていた管領家と京兆家が手を携える、・・・か。

甚だ疑問だが、仕入れたのはお蝶。

信頼に値する。

でも、何してるのお蝶。

畿内漫遊を堪能して欲しかったのだが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ