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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
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(平穏な日々)24

     ☆


 私の前に大人衆が勢揃いしていた。

皆の私に向ける視線が鋭い。

それを反映して、居館大広間の空気が緊迫していた。

筆頭・伊東康介が私に正対し、代表して提言した。

「飛騨と能登を当家で引き取りましょう」

 飛騨と能登は当家と長尾家に接していて、

他の勢力が手を伸ばす余地はなかった。

精々が口先で煽るのみ。

主に甲斐の武田がだ。

だから力で併合するのは難しくない。

 その飛騨と能登だが、相変わらず揺れていた。

飛騨は国人衆の主導権争いが激化し、田畑は荒れ、町は寂れる一方。

生じた流民が美濃に流れて来た。

能登は一向一揆が勢力を拡大し、惣国一揆にせんとして、

守護・畠山家と対峙していた。

お陰でこちらからも流民が発生し、当家や長尾家に流れていた。


 私は大人衆次席・武田観見を見た。

彼はこちらの意を察し、深く頷いた。

第三席・近藤勇史郎もそうだった。

そこで私は大人衆兼参謀方筆頭・芹沢嘉門に目を転じた。

彼も深く頷いた。

念の為、第二席・新見金之助は。

同じく頷いた。

 こうなると覆せない。

私は常日頃から、衆議に諮ると口にしていた。

全員で一致したとなれば、それを重んじなければならない。

奥の手、当主としての拒否権があるのだが、

それは衆議を軽んじる行為、この程度で行使したくはない。

私の表情で察したのだろう。

大広間の空気が緩んだ。


 私は衆議を受け入れる前提で尋ねた。

「足軽隊の隊数を増やしたのは、その為か」

 これまで足軽隊は定員六千名、隊数は八つだった。

旗本隊、一番隊、二番隊、三番隊、四番隊、五番隊、六番隊、十番隊。

これに新たに七番隊と八番隊が創設された。

一番隊の副隊長兼三千人頭・原源五郎が七番隊の隊長に就いた。

三番隊の副隊長兼三千人頭・吉田安兵衛が八番隊の隊長に就いた。

伊東康介が当然の様な顔で頷いた。

「足軽隊は戦だけではありません。

暇な折には田畑の仕事や街道保全、河川の整備等にも使えて、

とても重宝なのです。

除隊後にその技術を活かせば、どこでも働けます」

「それは分った。

では、どこにどの隊を差し向ける」

 手空きは六番隊と十番隊、そして新規の七番隊八番隊。

ただし、十番隊は遊撃の鉄砲隊なので、攻め手の主力とはなり得ない。

伊東が応じた。

「飛騨には七番隊、能登には八番隊を当てます」

「それだけで良いのか」

「飛騨も能登も中がガタガタですから支障はない、そう考えています。

しかし、念の為に美濃の一番隊に七番隊を支援させます。

八番隊の支援は加賀の三番隊です」


 私は別の疑念を呈した。

「国人衆が煩い、そちらは」

 領地持ちの国人衆が戦で手柄を立てたい、

そう武官の番役方に歎願していると聞いた。

足軽が彼等を尻目に活躍しているのが我慢ならぬらしい。

しかし、私は彼等を戦に駆り出す意味を見出せない。

第一に足軽隊との連携に不安がある。

第二に彼等の力量にも不安がある。

直臣は良いとしても多くは賦役の村人の兵・・・。

そして最も大きい訳は、彼等に手柄を立てさせたくない。

要するに、飼い殺しにしている意味がない。

「無視すれば問題ないでしょう。

まあ、出来れば暴発してくれれば、手間が省けます」

 伊東が悪い笑みを浮かべた。


 私は別の問を発した。

「長尾家は」

「使者を送りました。

お願い致す、でした」

「やはり、関東狙いか」

「はい、人材全てを関東に賭けている、そうとしか思えません」


 月日も経たぬのに、その長尾家で動きがあった。

忍び衆を新たに統括する事になった猪鹿熊久が執務室に入って来た。

前任の猪鹿の爺さんの嫡男だ。

正式には甲賀衆猪鹿家当主。

彼は当家の忍び衆役方と薬草役方の筆頭を兼任した。

入室した熊久に私の側仕え・お蝶が冷たい言葉を浴びせた。

「許可を取りましたか」

 実父に冷たい視線をくれた。

熊久がびくりとした。

娘の態度に目を白黒させながら応じた。

「急ぎですので」

 部屋の片隅から小さな笑い声が漏れた。

暇して相談役を自称している猪鹿の爺さんだ。

「許してやれ、まだ慣れてないんだ」

 今日の当番の沖田蒼次郎も同意した。

「余程の事なんだろう。

お蝶殿、聞かせて貰おう」

 私抜きで始まった。

なんてこったい。

私の存在をぞんざいに扱って良いのか。

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