(平穏な日々)23
尼子晴久は全員を見回した。
「方々、意見も出尽くしたようだ。
これまでにしよう。
落とし所はワシに預けてくれ。
・・・。
済まんが細川藤孝殿、そして辰敬、奥に来てくれ。
落とし所を詰める。
・・・。
他の方々は、腹も空いた頃合いであろう。
ここに酒肴を運ばせるゆえ、軽くやってから陣に戻ってくれ。
ただ、油断なき様にな。
戦では何が起きるか分らん。
特に相手は毛利だ。
まあ、ワシが言わぬでも方々は承知だろうがな」
晴久は覚慶様に声を掛けられた。
「晴久、我は如何する」
「陣にお戻りなされませ。
留守を預かる奉公衆の方が、万事揃えて待っておいでです」
酒肴女を取り揃えている筈だ。
意味を察してか、覚慶様の表情が緩んだ。
「そうかそうか、ではそうしよう。
晴久、落とし所は任せるぞ」
「委細承知いたしました」
晴久は同じく見送る細川藤孝の仕草に見惚れた。
流石は良家の血筋。
見習いたい所作だ。
が、チラリと見上げた細川の目元が綻んでいた。
これは、・・・覚慶様を貴む色とは思えない。
蔑む色、・・・か。
奥にて晴久は細川に尋ねた。
「細川本家は良いのか」
藤孝は澄ました顔。
「どちらが本家やら。
あっ、これは内緒で願います」
酒が入ったのか、軽口が出た。
多胡辰敬が嬉しそうに藤孝の盃に酌をした。
「もう一つ如何ですかな」
「これはこれは、某こどき若輩に。
それではこちらも」
藤孝が辰敬に酌をした。
二人で酒を酌み交わし、笑い顔。
齢の差はあるが、馬が合うのかも知れない。
晴久は藤孝に落とし所を尋ねた。
すると藤孝は疑問を口にした。
「族滅ですかな、それとも追放ですかな」
平然と言い難い事を口にした。
酒が回ったというより、本音を口にして良い場と認識しているのだろう。
明智光秀と少し色合いが違う様で感心した。
「族滅した方が後の憂いがない。
しかし、それだと差し障りがある」
「評判ですかな」
色々な陰口を叩かれていた。
特に、藩屏であった叔父の新宮党を粛清してからが酷かった。
血も涙もないと貶される様になった。
藤孝が言い放った。
「もしかすると、あれですかな」
晴久は苦虫を嚙み潰した様に頷いた。
「たぶん、それだな」
「羨ましいですな。
某は力がないので、そこまでは貶されません。
そこまで登り詰めたいものですな」
晴久は盃の酒を飲み干し、藤孝に差し出した。
藤孝は気軽に盃を満たした。
「飲み過ぎは身体に悪いですよ」
「ふん、戦はもっと身体に悪い」
晴久は再び飲み干して、空の盃を藤孝に差し出した。
「困りましたな。
それでは上洛の供を命じましょう」
言ってから盃を満たした。
晴久は盃を床に置いた。
藤孝をまじまじと見詰めた。
「お主、こちらの思惑は分っているのだろう」
「はて、何の事やら」
晴久は両腕を胸元で組んだ。
「惚けるか、無駄だ。
・・・。
供に加えてどうする」
「手柄を立てて頂きましょう」
「手柄を、・・・な。
・・・。
三十六計か」
辰敬も盃を床に置いた。
「お人が悪い。
上屋抽梯、屋に上げて梯を抽す、でしたかな」
藤孝は涼しい顔で盃を口に運んだ。
素知らぬ顔で軽く飲む。
辰敬が言う。
「要は安芸から毛利家を動かせば宜しいのでしょう。
手柄次第で他へ転封させる。
これで適いますな」
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