(平穏な日々)4
信長に説明していると、湖上に船影が見えて来た。
一艘、二艘、三艘、四艘。
軍船二艘が兵員輸送船二艘を警護していた。
船首の向きはこちら。
近くに控えていた伊吹浜の足軽百人頭が報告した。
「旗印は当家の物です。
堅田から新観音寺に回され、
三好様御一行を乗せて来たものと思われます」
三好家は新観音寺から主立った者達を乗船させ、
伊吹浜に到着する予定であった。
それであろう。
船の数も合う。
軍船二艘は河岸には近付かない。
船首を反転させた。
警戒に当たる様だ。
輸送船がスルスルと河岸に寄せて来た。
まず一艘目から三好家の兵員が下船して来た。
真っ先に侍大将らしき人物が、
河岸を警備していた当家の足軽の元に駆け寄った。
言葉を幾つか交わし、こちらの存在を教えられたらしい。
頷いて視線をこちらに向けて来た。
私は相手を見知っていた。
松永久秀だ。
松永は私に目礼を送りつ、後事を別の者に任せ、
こちらに駆け寄って来た。
軽快な動きだ。
「お出迎え、御礼申し上げます。
拙者は松永久秀で御座います。
慶興様の守役で御座います」
口も相変わらず良く回るようだ。
「松永殿、見知りであろう、楽に喋ってくれ」
松永は頷かない。
「そうは申されますが、些か難しい事で御座います」
硬そうな表情だが、目色はそうではない。
油断なく私の周囲に視線を走らせる余裕振り。
松永から指揮を委ねられた者が声を上げた。
「若殿をお出迎えする」
一艘目から下船した兵員に隊列を組ませ、
接岸する二艘目に向かった。
それを見ながら松永が私に頭を下げた。
「前以てお知らせ出来なかった事を謝罪します」
「何の事だ」
「実は・・・、当家に断り切れぬ賓客が参りまして、
こちらへの同行を望まれたのです」
三好家で断れないとなると、武家なら守護か管領。
公家なら、参議かあるいは公卿。
どちらにしても面倒臭い。
「それはそれは」
「戦の方が楽に思えました」
「で、その者は今は若殿のお側に」
「はい、意地でも離れぬおつもりの様です」
私は考えた末、尋ねた。
「幸い船の上。
誰も見ていません。
魚の餌にしたらどうですか」
「生憎、そうも参りません。
乗船する前に観音寺から各地へ書状を送られました。
主に大名衆や商家の旦那衆宛てで御座います」
「用意周到ですね」
後ろから信長が松永に尋ねた。
「心当たりがある。
もしかすると山科卿か」
松永が姿勢を正した。
「これは失礼しました。
貴方様は尾張の織田信長様で御座いますな」
「如何にも、分かるのか」
「お市の方様にようく似てらっしゃいますから。
まるで観音様が二つ」
途端、お市が火を噴いた。
顔を赤らめて、照れ隠し気味に言う。
「松永殿、貴方には人をにゃー目が御座いよーる。
でも観音様だがやんて、分かる人には分かるのきゃ」
片手で兄の背中を叩いた。
信長はお市を無視した。
「それで、山科卿か」
松永は頷いた。
「その通りで御座います」
松永は信長に頷き、私に尋ねた。
「明智様、如何致しますか」
山科卿は多彩な人だ。
家業の薬師で知られているが、それだけではない。
朝廷や公家、武家の行事や儀式から装束に通じのみならず、
和歌や蹴鞠等にも造詣が深い。
力を失った朝廷にあっては第一人者かも知れない。
そういう人物を如何扱うのか。
私は辺りを見回した。
側仕えの長倉金八では聞くだけ無駄。
折よく大人衆の一人がいた。
片岡源太郎。
手が空いたので立ち寄ったそうだ。
彼は参謀の一人でもある。
彼を手招きして、事の次第を語り、意見を聞いた。
「三好様の面子を潰すのは拙いでしょう。
ここはこちらが譲って、山科様を城に入れるしか御座いませんな。
かと言って、公卿様ではこちらが迷惑します。
・・・。
肩書抜きで、三好様のご友人として招かれては如何ですか」




