(平穏な日々)1
誤字脱字のご報告、大感謝しています。
暑さ、台風に負ける事無く、これからも宜しくお願いします。
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私は朝早いにも関わらず、母子の部屋に向かった。
私の気持ちが分かるのか、側仕えは誰も反対しない。
先導しながらお宮が言う。
「寝ているお二人を起こしてはいけませんよ。
勿論、お絹様もですよ」
付き従う沖田も言う。
「子供は寝るのが仕事です」
斎藤も言う。
「直ぐに仕事に戻って頂きましょうか」
正室・お絹の部屋に近付くに連れ、声が聞こえて来た。
赤子だ。
それも二人。
どれが男の子で、どれが女の子か、さっぱり分からないが、
間違いなく私の子。
自然、足が早くなった。
部屋は女達で一杯だった。
お絹と赤子二人が起きているので、侍女や乳母達が付き添っていた。
早朝からお市の顔もあった。
「まあ、貴方様、こんな朝ちゃっとから、いらっしゃいませ」
「そういうお前も」
「甥姪だがやから当然だがや」
お市の侍女達もいるので、広い部屋が狭く感じた。
私はその中に入った。
お市とお絹の間に座った。
赤子二人を上から眺めた。
前世でも双子は忌諱された。
産んだ母親は畜生腹と卑しめられ、双子は忌み子として蔑まれた。
私は当時でもそれは間違いだと思っていた。
生まれたばかりの赤子に何の罪があるというのか。
忌み子でなくとも悪事には走る。
この世の中には騙す者、盗む者、殺す者がいて、
牢獄はそんな奴等で溢れている。
そう口にした事も一度や二度ではない。
だけど、ただの魔法使いの言葉が受け入れられる事はなかった。
当時の私は無力だった。
私に忌み子を否定する場が与えられた。
全力で双子を庇護し、世に送り出そう。
そう考えていると、お絹に尋ねられた。
「幼名は如何いたしましたやーた」
「それなら決めて来た」
私は側仕えを探した。
沖田と斎藤は女だらけの部屋に入るのを躊躇い、廊下に控えていた。
その沖田が廊下から紙を二枚、近くの侍女に差し出した。
侍女はチラ見すると、慌ててお絹の前に膝を進めた。
その二枚を差し出した。
受け取ったお絹が皆にも見える様に二枚を畳の上に広げた。
松千代。
桜。
お絹やお市の二人だけでなく、ほぼ全員が幼名を口にした。
首を傾げる者はいない。
韻を楽しんでいる雰囲気、幼名を舌の先で何度も転がした。
双子を目で慈しんでいるとお宮に急かされた。
「そろそろ仕事の時間ですよ、戻りましょう」
お市も言う。
「そうだがやよ貴方様、しっかり仕事に励んで下さいませ」
お絹が泣き始めた桜を抱き上げ、私を見た。
「旦那様、お茶の時間にでもいらっしゃいませ」
松千代がぐずり始めた。
桜に釣られたらしい。
乳母の一人が慌てて抱き上げた。
それを見て、私は思い出した。
「桜を姉にしよう。
松千代は弟だ」
お絹が首を傾げた。
「何か理由が」
「一姫二太郎、男には頭を押さえてくれる者が必要だ。
そう思い、桜を姉として扱う事にした。
どうだろう、浅慮か」
お絹はまずお市を見て、それからお宮に目を転じた。
二人に異存はなさそうだ。
「分かりました、そう致します」
執務室は別の意味で人いきれがした。
向こうは女と赤子の匂いで充満していた。
一方、こちらは男と書類、墨汁で充満していた。
上座に腰を下ろすと、早番の者が書類を差し出して来た。
まずは急ぎ決裁を必要とする物から。
何れも各部署の承諾を得てから手元に届く。
齟齬は無いと思うが、詳細に確認した。
取次役方筆頭が面会約束の刻限に訪れた。
「こちらがお三方の日時になります」
初子の祝いに織田家、長尾家、三好家から訪問すると先触れが来た。
その中の織田家から長尾家、三好家とも面談したいので、
訪問する期日を合わせたい。
ついては明智家で仕切って欲しい、そう依頼された。
私としては異存はない。
三河を併合したばかりの織田家は、
色々と思うところもあるのだろう。
祝いの場とは別に外交の場を必要とするその気持ちを察した。
これは織田家だけでなく、長尾家にも、
三好家にとっても利があるかも知れない。
当然、我が明智家にも。
そこでそれを大人衆に諮り、取次役方に丸投げした。
その答えが一枚の書面に記されていた。




