(近江戦の戦後処理)6
幸いと言うか、新見金之助が駆けて来た。
「ご無事で何よりです」
私の無事よりも、川原の騒ぎに興味津々の様子。
側仕え達に詳しい説明を求め、皆を辟易させた。
見兼ねた私は間に入る事にした。
私個人への襲撃の件を担当しているのは彼。
そこで彼に任せる事にした。
「あれを引き取ってくれるか。
このままでは殺し兼ねん」
新見は無駄な問いはしない。
それだけで理解したのだろう。
「承知」
川原に下りて近藤に何事か小声で言う。
それに沖田と蟹、原田が加わった。
少し問答があった。
三対一。
不満ながらも渋々頷く近藤。
その背をポンと叩き、新見は己の組下の者達に指示した。
「生かしたまま運べ」
小谷城に戻った私を皆が出迎えた。
ところが先触れで、襲撃の件を知っている筈なのに、
誰もそこには触れない。
その気遣いが嬉しくもあり、悲しくもある。
私は風呂で汗を流すと、執務室に寝転がった。
側仕え達が呆れた顔で私を見るが、
事情を知っているので諫めたりはしない。
襲撃の背後にいるのは誰か・・・。
考えなくても分る。
懐妊しているお絹が出産すれば、後継者はその子になる。
男子であれば良し。
女子でも婿で解決する。
だからその前に私を殺さねばならない。
その点から考えると、後継者は・・・。
私には実兄だけでなく、実弟と実妹がいる。
三人は共に実母の元にいる。
けれど、その三人が私の後継者になれる確率は低い。
家臣達の猛反発が予想されるからだ。
三人の誰も、火中の栗を拾おうとは思わないだろう。
残った可能性は斎藤家か土岐家・・・。
昔の権威で後継を強要するつもりかも知れない。
何時の間にか寝ていた。
それに気付いたのは、お市に起こされて。
「旦那様、起きてちょーがゃあ」
疲れが溜まっていたらしい。
体力というより精神が削られていた、そう確信した。
私を覗き込むお市の膝に触れた。
「お市か、すまない」
お市が私の手に自分の手を重ねた。
「寝ると仰にゃ、私の膝を貸しましたのに」
「次はそうする」
お市の案内でお絹の部屋に向かった。
出産用の新しい部屋だ。
ここ小谷の冬は厳しい寒さだ。
そこで私は熱を逃がし難い部屋を考案した。
お絹の出産の一助となれば、そう願ってのこと。
実際に組み立てたのは職工達なのだが、手柄は私のもの・・・。
お絹が縁側に腰を下ろしていた。
私の足音に気付いたのだろう。
姿勢を正そうとした。
それを私は押し止めた。
「無理をするな。
お腹の子に障る」
お絹が明るい笑顔で応じた。
「旦那様は相変わらずだがやわね」
お市も重ねた。
「だがやわね。
旦那様はいつまでも甘いお人だがや。
だがやから大好きだがや」
二人の正室との甘い語らいの日々に現実が割り込んで来た。
新見金之助だ。
大人衆の伊東と武田、猪鹿の爺さんを帯同していた。
「霧谷の悪太夫の怪我が癒えたので、尋問を開始しました」
根来衆出自の傭兵狙撃手だ。
「口を割らせたのか」
「はい、割らせましたが、どうやら仲介人のようです」
「間に人を挟んでいるのか。
どうやら周到な相手らしいな」
「はい、ですから、少々手荒な事になります。
それらしい相手方に罠を仕掛けます。
宜しいですか」
おそらくは、金か女を絡ませる。
或いは、殺してから所持品を調べる。
「私は話を聞くだけ、口は挟まない。
一切を大人衆に委ねる方針に変わりはない」
相手は自分を狙っているが、私はそこには拘らない。
拘ると拙い方向に走る自信がある。
そこで大人衆の衆議に委ねたのだ。




