(近江戦の戦後処理)2
私は使番を服部党に走らせた。
指示の変更なので急がせた。
「神隠しを取り消す。
六角親子とそれに従う者達の首を塩漬けにして、本陣に届けよ」
間に合えば良いが。
彼等は伊賀で襲撃する手筈。
なので、届くのに時間は要さないのだが、気を揉んだ。
間に合った。
服部党は、首桶に入れて持ち帰る、と了承した。
三日後に服部党が本陣に多数の首桶を持ち帰った。
国人衆よりも名のある甲賀者が多かった。
三雲、山中、青木、隠岐、池田、和田の六家の者達だ。
彼等は最後まで六角親子に付き従い、討ち死にしたそうだ。
首桶に意外な者が混じっていた。
浅井久政の嫡男・義政の首であった。
狙わせてはなかったが、これはこれで喜ばしいこと。
面倒が一つ消えた。
美濃の近江の方に知らせれば小躍りして喜ぶだろう。
当然だが、六角親子、六角義賢と六角義治の首もあった。
初対面だ。
こういう形で会う事になろうとは。
首桶の二人をジッと見詰めた。
私はこうはなりたくない。
勝ち続けよう。
私は使番を蓬莱屋仁左衛門に走らせた。
六角の親子の始末がついたので、それを知らせた。
私財で買い取り、弔うか、否か。
彼は前回かなりの私財を注ぎ込んだ。
果たして今回、買い取る余裕があるのか。
私は、ない、そう踏んだ。
「買います、是非ともお譲り下さい」
使番の戻りと共に蓬莱屋仁左衛門が現れた。
疲れ切った顔をしていた。
それが深くひれ伏して懇願した。
私は六角親子を羨ましく思った。
「だが、買い取る銭はもう残ってないのだろう」
「はい、ございません」
きっぱり言ってのけた。
そして顔を上げた。
私をまじまじと見詰め、言葉を続けた。
「それでも何としても工面します。
足りなければ、何年かかろうと必ず全額支払います。
ご不満でしたら、足りない分はこの命で補いましょう」
私は呆れた。
こやつの言動は商人道にも悖るものなのか、それとも別の何かか。
「六角家と心中するつもりか」
「恩義がありますので」
「命で支払う程のものか」
「はい」
「お主の言い分は相分かった。
ただし、首は晒さねばならぬ。
六角家が滅びた事を周知する必要があるからな。
それには晒し首が一番手っ取り早い。
分かってくれるか」
「はい」
「三日間、城下に晒した後、お主に払い下げよう」
「ありがとうございます」
「お主一人では重たかろう。
他の商人や寺社と談合いたせ」
新見金之助が報告に現れた。
「襲撃した者達の顔改めが終わりました」
今回の本陣襲撃の一件だ。
襲撃は二組に分けて行われた。
陽動で小荷駄隊を襲った組。
その隙に本陣そのものに斬り込んだ組。
彼等の半数近くが討ち死にした。
残りは重軽傷の者達ばかり。
無傷で捕らえた者は一人としていなかった。
生き残りの多くは何も知らなかった。
上の指示に従って行動しただけ。
そこで生き死に関係なく、顔を改めさせた。
指揮を執ったのが新見だ。
「ここでも遠藤隆明の手の者がおりました。
配下の足軽ではなく、妻方の縁戚の者でした」
遠藤隆明は美濃与力衆の足軽頭の一人だ。
前回の一件でも名前が出ていたので私も覚えていた。
「疑いはあるが、弱いな。
当人に忍びを貼り付けていたのだろう」
新見には、忍び衆役方から根来党が回されていた。
人数的には不足はない筈だ。
「そちらからは、何も不審な動きはない、そう報告が参りました」
「もう一人、あれ、お陸だったな。
あれはどうした」
前回の一件で疑われた一人だ。
今は、関ケ原城の勝手方で働かせていた。
「あちらも不審な動きはありません」
「だとすると、先方は人を変えたか」
「だと思われます」
「周到な奴だな。
で、顔改めの結果を聞かせてくれ」
「長井道利の家来の縁戚の者が二名。
死亡が一名、重症が一名。
これまた氏家直元の家来の縁戚の者が三名。
一名死亡、残り二名が軽傷で捕らえられています。
只今、彼等を尋問させています。
思いもせぬ名前が一つございました。
土岐家です。
その縁戚の者二名。
共に死亡しています」
土岐家は今は力はないが、かつては美濃の守護家であった。




