(安寧)22
☆
私は居館の庭先で宴席の用意をしていた。
陣幕を張り巡らし、椅子を並べ、仮設の竈を置き、水を運ぶ、等々。
それは大名が行う仕事ではない。
しかし、ここは足軽の国、私はその総大将。
我儘放題に・・・。
ではなかった。
側仕え達がそれ以上に立ち働くのだ。
私の仕事を奪って行く。
私が手を伸ばすと、それを近藤勇史郎が奪う。
別の物に手を付けると、それを沖田蒼次郎が奪う。
手の空いた誰かが私を監視し、必ず仕事を奪って行く。
むっ、空しい。
私は諦めて椅子に腰を下ろした。
そこへ知らせが来た。
「三好様方が来られました」
三好慶興一行が到着したのは夕刻前。
それを大人衆が出迎え、将兵の多くを城下町の寺社に分宿させ、
慶興と主立った者達のみを居館に受け入れた。
その慶興達には旅の垢を落して貰おうと、大人衆は入浴を勧めた。
風呂でゆっくりして欲しかったのだが、早々に出て来た。
着替えるや、こちらに向かって来ているという。
私は出迎えていないので、その顔は知らない。
でも一目で分かった。
先頭の若者だ。
良い笑顔をする。
先方も直感で私が分かったらしい。
真っ直ぐに向かって来た。
間違っていたなら謝罪ものだが、平然と口にした。
「光国殿ですね」
「はい、貴殿が慶興殿。
思っていた通りの方ですね」
「どの様に思われていたのでしょうか」
「文の遣り取りだけですが、優れた方だと思っていました」
「ほう、それは嬉しいですね」
一行の案内をしていた土方敏三郎が会話に割り込んだ。
「お話し中ですが、宜しいですか」
私は土方の次の言葉が分かった。
「そうだな、立ち話は止めよう。
慶興殿、席を用意しましたので、こちらへ」
私は彼を庭先の端の陣卓子に案内した。
竈の煙が届かぬ位置。
互いに椅子に腰を下ろした。
そこへ側仕えのお蝶がお茶を運んで来た。
犬達が寄って来た。
彼等は空気を読まぬから面白い。
予想通り、私と慶興に餌を要求した。
猪鹿の爺さんが気配りを発揮した。
指笛で犬達を自分の方に誘導した。
巧みなものだ。
お茶している私達の周りを互いの家来達が囲んでいた。
私は慌てた。
急いで私の側仕え達を紹介した。
近藤勇史郎、沖田蒼次郎、長倉金八、斎藤一葉。
慌てたのは慶興も同様。
彼も家来達を紹介した。
三好長虎、松永久秀、松永久通、岩成友通。
空気を読まぬ男が声を上げた。
「上がりました」
賄い方兼任の山南敬太郎だ。
今夕の料理は海老餃子、焼肉、そして拉麺。
山南の組下の者達が私達の方へ膳を運んで来た。
良い匂い。
毒見しようとする松永久通を慶興が制した。
「よさぬか、光国殿を信用せよ」
私は提案した。
「それでは私の膳と交換いたしましょう」
「それは」困った顔の慶興。
私は沖田に命じて膳を交換した。
恐縮しきりの慶興。
私は久通を見た。
「彼も職務ですから致し方ないでしょう。
怒らないで下さい」
海老餃子を食して慶興が一言。
「旨いですね」
「賄い方の腕でしょうね」
慶興が山南に視線を転じた。
「当家に譲ってくれませんか」遠慮がない。
「山南は譲れません」
「そうですか」
「当家と親しい尾張の織田家や、
越後の長尾家は敦賀津の唐人町に賄い方の者を送っています。
それに倣ったらどうですか」
「唐人町ですか」
慶興は隣の陣卓子で拉麺を食っている松永久秀に尋ねた。
「どう思う、できるか」
久秀は一拍子置いて答えた。
「戻ってから御当主様に相談いたしましょう。
良い答えが聞けると思います。
しかし、もしですが、三好家として出来なければ、
某の家来を出しましょう」
そこへ女達の姦しい声が届いた。
正室のお絹やお市が侍女達を従えていた。
度々の誤字脱字のご報告、有難うございます。
大感謝です。
今後とも宜しくお願いします。




