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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
133/248

(安寧)21

     ☆


 出雲の国、月山富田城。

その居館、尼子晴久は布団から上半身を起こし、お茶した。

一口飲み、愚痴った。

「苦いな」

 見舞いに訪れていた一人が応じた。

「これは苦いと言うより、不味いでしょう、特に病人には」

「本当の病人ならな。

義久、お主はどう思う」

 もう一人が茶碗を手元に置いた。

飲んでいない。

「その前に熱いです」

「兄上は温いのが好きですからな」

 晴久は息子二人をここへ呼び出した。

次男ではあるが、長男が幼児期に亡くなった為、嫡男に繰り上がった義久。

そして三男の倫久。


 晴久が病と称して人前には出なくなって半年。

その晴久が義久に含み笑い。

「ところで、昨日の使者は如何した」

「少々、小賢しいかと」

「そうか、政所からの者であるのなら、それが伊勢風なのであろう」

「取次役が申すには、伊勢貞孝殿からの書状の花押は本物であると。

それで父上、どう計らいますか」

 晴久を、幕府政所の執事・伊勢貞孝からの使者が訪れた。

困った。

伊勢は能吏ではあるが、小煩い。

その者が選んで寄越したのだ、これも小煩いだろう。

幸いと言うか、今は病と称していた。

そこで自らは会わず、義久に投げた。

義久の義は亡き足利義輝様から頂いた物なので、間違いではない。

「書状には何と」

「上洛の兵を望まれています。

義輝様のご舎弟、覚慶様のお力になって欲しいと」


 足利義輝が討ち死にしたので、その後継を巡り、

幕閣の有力者二人が対立していた。

伊勢貞孝と細川晴元。

幕政を統括する政所執事と管領。

伊勢が覚慶を担ぎ、細川が阿波公方を担いでいた。

双方共に地縁血縁の輩が足利という大木に絡み付いているので、

軽々しく片方に味方する訳には行かない。


 晴久は倫久を見た。

「お前はどう思う」

 倫久にも同席させていた。

「確かに使者も書状も小賢しい。

関わりたくないの一言です。

私なら籠城を選びます」

「この城に引き籠るか、それも良いな」

 義久が二人を交互に見た。

軽蔑の目色。

「三好殿が手切れした今、擁する兵で悠々と上洛できるのは当家のみ。

招きに応じませぬか、父上、愚弟」

 晴久は上を向いて思考に入った。

愚弟と言われた倫久は憤慨。

「酷いな兄上。

他人様の争いに関わるのは止めませんか。

そもそも旨味がないでしょう。

外から見ているのが一番ですよ」

「そう思うか、弟よ。

管領の細川をどう思う。

三管領のうちの二つ、畠山、斯波、この二つは力を失った。

残るは細川のみ。

それも家柄のみの力だ。

細川家自体の兵は無きに等しい。

奴を蹴落として、父上を管領に祭り上げようと思わんか」


 晴久は二人を見て考えた。

同じ育ち方なのに、色々と面白い。

ここにいないもう一人は幼いが、

元服すれば彼もきっと家の力になってくれるだろう。

三本の矢で尼子家は安泰だ。

 幸い、家族なので人払いして置いた。

通常いる筈の側仕えもいない。

ここでの話が外に漏れる心配は無い。

晴久は隣の部屋に問いかけた。

「十兵衛、いるか」


 十兵衛は尼子家の忍び集団・鉢屋衆の頭。

その十兵衛から、この城の賄い方に妙な奴が入ったと聞かされた。

慎重に調べさせたところ、毛利家の忍びだと判明した。

世鬼衆の一人。

 其奴がある日、晴久の食事に毒を仕込んだ。

即効性ではなく遅効性。

ジワジワと弱らせ、死に至らせるのを目的にしていた。

流石の毛利元就も、毒殺する奴と言われるのは嫌ったらしい。

それを逆手に取った。

毒が効いたと思わせ、人前に出ない様にした。


「ここに」

 十兵衛が入って来た。

「吉田郡山城へ入っている者に命じよ。

仕事をして引き上げろと」

 吉田郡山城は毛利元就の居城である。

そこへ鉢屋衆の者を入れていた。

それは、この日の為であった。

奴が名声を維持する為に遅効性なら、こちらは即効性。

名声なんて欲しくない。

欲しいのは花より団子。


 聞いて驚く二人に指示した。

「義久、その方は嫡男だ。

遠くへは出せない。

ここにて毛利の相手をせよ。

・・・。

倫久、初陣だ。

お主は東へ向かえ。

大将は牛尾幸清とする。

これは、上洛ではない。

播磨と丹波の国境までだ。

毛利の目を引き付け、ついでに三好の出方を見る。

・・・。

ワシはもう暫く病だ。

ワシの代わりに差配せよ」


     ☆

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