(安寧)19
三好慶興が土方敏三郎の挨拶に応じた。
「出迎えかたじけない、土方敏三郎殿。
私が三好慶興だ、良しなにな」
続けて周りの面々を紹介した。
それを終えると改めて土方を見た。
「済まぬな、こちらの都合で渡河する場所を変えてしまった」
深夜の襲撃を受けて、急遽、渡河する場所を変更した。
当初は最寄りの浅瀬であったのだが、襲撃を受けかねぬと判断し、
こちらへ迂回したのだ。
「事情は松永長頼殿からの書状で理解しております。
これより先はご安心頂きたい。
我らがしっかりと警護の任に当たります」
慶興は警護にしては少ないと思った。
それを察してか松永久秀が対岸を指し示した。
よくよく見ると、藪や木立の陰に武装した者達が潜んでいた。
見慣れぬ軍装、全員が足軽ではある様だが・・・。
土方が説明した。
「長頼殿の許しを得て、対岸にこちらの手の者を入れています。
後ろの森や山中にも入れています。
襲撃されたら我等は逃げるだけです。
彼の者達が後始末いたしますので、ご安心なさって下さい」
平気で逃げると口にした。
それを聞いて久秀が慶興に言う。
「慶興様の命が最優先という事ですな」
「他にはございません」
街道を何事もなく進むと、前方に関所らしき構えの建物が見えた。
「あれが関所か」
「そうです」
「にしては他に行き交う者が見えぬ。
旅商人や土地の農夫が」
「この街道への立ち入りは禁じています。
急ぐ者には迂回させ、急がぬ者には宿の手配をいたしております」
「某の為か」
「いいえ、こちらの都合です」
関所の後方には村があった。
真新しい建屋が多く、所狭しと軒先が並んでいた。
二階建てもあり、農村風景にしては違和感があった。
「ここは・・・」
「屯田の村と申します」
「屯田・・・」
「流民を最初に受け入れる村です。
ここで簡単な読み書き算術を学ばせているのです」
「読み書き算術ですか」
「読み書き算術が出来なければ明智家の領地では生きて行けません」
「そうなのか」
「ええ、そうです。
足軽になるにしろ、職人や商人になるにしろ、何かの職に就くには、
村や町の広場の掲示板を読む必要があるのです」言い切った土方。
「そうは言うが、出来ぬ者もいるだろう」
「はい、そういう場合は家族が助けます。
代わりに読み、書き、計算をするという具合です」
「家族がいない者は」
「足軽の組に入れ、何がしかの仕事を与えます」
屯田の村から離れた箇所に砦が築かれていた。
掘も櫓も備えていた。
「あの砦でどれくらい持ちこたえられる」
「それは申せません」土方が口を閉じた。
代わりという訳ではないが、松永久秀が口を開いた。
「この整備された街道であれば味方が一両日中には間に合いますな」
「それでは敵を足止めした次の日には味方と合流して反撃できるのか」
黙っていた土方は苦笑い。
仕方がないので慶興は話題を変えた。
「我等は関税を支払わなくて済んだが、商人は如何ほど支払うのだ」
土方が丁寧に教えてくれた。
商人で幾ら、旅人で幾ら、旅僧で幾ら。
聞いた慶興が呆れた。
「雲水からも貰うのか、恐ろしいな。
「そうです。
支払いを拒否された雲水は余所に流れて頂きます」
「はっはっは、しかし安いな。
関所は国境の出入りの際だけだろう」
国境の関所では支払う必要はあるが、
領地内の関所は人改めだけなので、関税は支払わずに済むそうだ。
他国にはない仕組みだ。
広々とした平地に出た。
そこで慶興は我が目を疑った。
見る限り一面が水田。
整備された水路と畦道が縦横に走り、
大勢の農夫が額に汗して働いていた。
見慣れぬ物もあった。
「あれは」右の物を指差した。
「水車ですな」
「あれは」左の物を指差した。
「風車ですな」
「光国殿の手紙や、出入りの商人からの噂では聞き知っていたが、
あの様な物とはな」




