(安寧)18
丹波と若狭の国境まで松永長頼が兵を率いて護衛した。
小川の手前で部隊を止めた。
「若様、某はここまでです」
三好慶興はにこやかに応じた。
「済まぬな、助かった」
「では某はここでお別れです」
長頼が馬上で頭を軽く下げた。
慶興は馬を少し進めたが、直ぐに止めて、長頼を振り返った。
「ときに長頼、私は少しは役に立ったかな」
轡を並べる松永久秀が爆笑した。
松永久通もだ。
二人して長頼を振り返った。
慶興は長頼の答えは待たない。
「私なら構わないが、父上にはするなよ」馬を走らせた。
長頼は慌てて馬から飛び降りた。
渡河地点に馬を走らせた慶興に呼び掛けた。
「若様っ」大声。
慶興は馬は止めない。
久秀と久通も続いた。
立ち往生した長頼の傍に彼の近習が馬を寄せて来た。
「殿、ばれた様ですな」
長頼は慶興を囮にした。
忍びを使い、領内の不穏分子に慶興の来訪を流した。
ついでに寝所の位置も流した。
正確には影武者を囮にした。
兄・久秀や甥・久通にも内密にしていた。
それが慶興に見抜かれた。
兄なら察するだろうが、それを慶興に告げるとは思わない。
慶興の洞察力なのだろう。
長頼は苦笑いした。
遠ざかる慶興に深く頭を下げた。
渡河地点の先は街道が整備されていた。
荷馬車が走り易いように均されていた。
慶興は久通に尋ねた。
「これが明智家のやり方なのか」
「はい、第一に商人を考えているそうです」
慶興は馬の足下の整地具合を見た。
「道端の石が組み合わせてある。
枝や網竹、雑草とも組み合わせて・・・。
そうか、雨で土が流れ出さない様に工夫している。
荷を扱う商人は金を生み出すから、手厚く講じる訳か」
「そうです。
付近の村々に日々の見回りを徹底させています。
小さな轍や崩れは村々にやらせるそうです」
慶興は疑問を口にした。
「しかし、それだと賦役で駆り出される者達から不満が出るだろう」
「違います。
賦役ではなく日当を支払うそうです」
「なんと、明智家はお金が唸っていると聞いたが、その通りか」
「いいえ、お金を回すのが目的だそうです。
お金は貯めるものではなく、
下々隅々にまで回すのが正しいのだそうです」
先頭の部隊を預かっていた武将が馬を寄せて来た。
「前方の木立にこちらの渡河を窺う者達がおりました。
その者達は直ぐに馬にて立ち去りました」
指し示されたのは、慶興等が向かう方向。
「何者だ、お主の考えは」
「軍装で、騎乗の者が三騎。
おそらく明智家の出迎えの物見ではないでしょうか」
「分かった、ここで待機していよう」
前方の街道に人影が見えた。
一人や二人ではない。
少しずつ人数が増えて行く。
騎乗の兵が百騎ほど。
掲げる旗印は明らかに明智家の物。
ゆっくりこちらに向かって来た。
それを見て久秀が言う。
「確かに明智家からのお出迎えだ」
久秀の合図で久通が少数の供回りを従えて、
明智家の方へ馬を走らせた。
その明智家からも小数の者が馬を走らせ、こちらに向かって来た。
中間点で両者が落ち合い、何事か話し合う。
短時間で済ませると両者は別れた。
久通が慶興に報告した。
「明智家から手紙を運んで来る取次役方の者がおりました。
明智家からの出迎えで間違いございません。
先方からの申し出で、我等の前後を五十騎、五十騎で、
挟んで警護するそうです。
よろしいですか。
了承なら某が返答に向かいます」
慶興にも久秀にも否はない。
久通は即座に馬を明智家の方へ走らせた。
そして明智家の者を一人連れて戻って来た。
「こちらが警護の長です」久通が言う。
明智家の者が素早く馬から降りた。
こちらに来る途中で観察していたのだろう。
慶興に片膝ついて挨拶した。
「某、主に皆様の警護を命ぜられました。
旗本隊の副長、土方敏三郎と申します」




