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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
129/248

(安寧)17

     ☆


 三好家の本貫地は四国の阿波であった。

それが今代の三好長慶になると阿波から讃岐、淡路、和泉、河内、

摂津、山城、丹波、播磨辺りにまで勢力を伸ばした。

そうなると阿波に引き籠もってもいられない。

勢力圏掌握の為に居城を移さざるを得なかった。

三好長慶は河内の飯盛山城に入り、嫡男には芥川山城を任せた。


 芥川山城から軍勢が発った。

戦ではないので、そこまで大軍ではない。

ただ、戦慣れした将兵で構成されていた。

一糸乱れぬ行軍で、その練度を見せつけた。

先頭で指揮を執っているのは副将・松永久秀。

そこへ満足気な表情で大将・三好慶興が傍に馬を寄せて来た。

「久秀、お主は私の兵をも使い熟す様だな」

「いいえ、若の鍛え方が良いのです」

「お世辞はいらぬぞ」

「いいえ、お世辞ではございません」

 慶興は行軍する者達と久秀を交互に見た。

「そうか、そういう事にしておくか」


 三好慶興は山城への立ち寄りは避けた。

立ち寄ると国人や地侍のみならず、幕府や朝廷の要職に就く者、

寺社衆から面会を求められる。

それでは父が京を放棄した意味がない。

厄介事に付きまとわれたくない。

摂津へ迂回し、丹波へ抜けた。


 丹波で松永長頼が出迎えてくれた。

久秀の実弟だ。

兄に似ていない。

兄には愛嬌があるが、その弟にはその欠片も見出せない。

「若様、暫くご逗留なさいますか」

「その方は忙しいと聞いた。

さっさと抜けさせてもらう」

 彼は武力で丹波の実権を奪ったが、

今もって抵抗勢力が存在していた。

既存の血縁・地縁に絡め取られた連中だ。

連中は面従腹背で機を窺っていた。

そこへ三好家の嫡男が来た。

家来達には箝口令を敷いたが、完全に守られるとは思えない。

「明朝、国境までご案内いたします」

「頼むぞ」


 深夜、叫び声が聞こえた。

三好慶興の影武者が泊まっていた辺りだ。

側仕えの松永久通が足音も立てずに、板戸を開けた。

「若様、襲撃です」

「聞こえた。

影は大丈夫か」

「それは分かりません。

しかし、あれの剣の腕は確かです。

討ち死には有り得ません」

「迎え撃たずに逃げてくれぬものか」

「あれの性格からして敵に背は見せますまい」


 慶興の周りを旗本達が固めた。

そこへ松永久秀が現れた。

「若、じきに終わります」

「そうか、それにしても早い手配りだな」

「長頼も何度か狙われたそうです。

その経験が活きているのでしょう」

 

 血塗れの影武者が来た。

愛刀の血を拭いながら、廊下にドンと腰を下ろした。

「若様、ご無事ですか」

「おい、私よりその方だろう。

で、その方、無事か、怪我はないか」

「某はこの様な有様で」

 着ている物のあちらこちらが切れていた。

しかし、見た感じ、何時もの影武者だ。

脇から久秀が言う。

「流石は柳生家の者だな、全て掠り傷か。

しかし、血を失い過ぎると危うい。

誰か手当てしろ」

 

 何人かが駆けて行く。

傷の手当てに用いる酒と軟膏、布切れを持ち寄って来た。

一人が傷口に酒を吹きかけた。

「ぎゃー」影武者が悲鳴を上げ、「呑ませてくれ」叫ぶ。


 久秀は影武者が持っていた刀の血を拭い取り、ジッと検分した。

「刃毀れが酷いな」

 影武者が応じた。

「当家の里にはご内聞で」

「柳生の里に知られると拙いのか」

「ご当主様が煩いのです。

刃毀れは刃筋が立っていない証と怒られます」

「しかしこれでは何ればれるだろう」

 影武者がきりっとした顔で言う。

「里に戻る前に何とかします」

「どうする」

「これから行く明智家の刀は逸品揃いと聞いております。

それを買い求めます」

「そうか、高いぞ」

 影武者の目が走った。

懐を探る。

そんな様子を見て、慶興が口を開いた。

「私が買い与えよう」

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