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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
123/248

(安寧)11

 私が机に積み上げられた書類と格闘してから一月。

ようやく先が見えて来た。

のんびりお茶してると、執務室に側仕えの近藤が顔を出した。

近藤は私の側仕え筆頭であり、旗本隊の隊長でもある。

「殿、よろしいですか」

「ああ、丁度区切りがついた」

「それでは」顔を上げて私をジッと見た。

 悪い顔をしていた。

うちの大人達特有の顔だ。

何か企んでいた。

聞きたくない。

でも聞かざるを得ない。

「どうした」

「獅子身中の虫が判明しました」

 私の暗殺を企てた件だ。


 近藤が先に立って私を案内した。

居館ではなく、幾つかの門を通り、城の北にある土蔵群に。

白壁の蔵が間隔をあけて六棟建てられていた。

ここに近付く者は限られていた。

 今日はやけに警戒が厳しい。

旗本隊の兵士が立哨するのみならず、周辺を巡回もしていた。

犬の太郎と花子も駆り出されていた。

指揮しているのは土方敏三郎。

 一つの蔵の前には馴染みの顔が勢揃いしていた。

大人衆からは伊東康介と武田観見。

参謀方からは芹沢嘉門と新見金之助。

忍び衆からは猪鹿の爺さん。


 蔵の扉が大きく開けられた。

中は明かりが煌々としていた。

何も置かれていない。

十分過ぎる灯りと、蔵の片隅に黒い影のみ。

 近藤が先導した。

続いて私と沖田蒼次郎。

そして馴染みの面々。

誰も何も発しない。

 入ると鼻をつく嫌な臭い。

大便に小便、血、嘔吐。

そしてそれを洗い流そうとした水の痕跡。

 一人の人間が片隅に放置されていた。

片隅の黒い影がそれだ。

近くまで歩を進めると馬鹿でも分かる。

衣服のまま拷問されたのだろう。

酷い有様だった。


 私は目を逸らした。

背中に沖田蒼次郎の手を感じた。

それとなく支えてくれた。

私は近藤に尋ねた。

「生きているのか」

「はい、取り敢えずは」

 新見が私の脇に立った。

「某が取り調べを行いました」

「苦し紛れに、取り調べた者に迎合した様子は」

「その者の家族を質にしております」

 容赦がない。

「取り調べで述べた事が事実でなかった場合は」

「家族に責めを負わせます」

「それを当人は承知なのだな」

「はい、きっちり言い聞かせておきました」


 私は覚悟を決めた。

「では聞かせてもらうか」

 新見が視線を芹沢に転じた。

促された芹沢が口を開いた。

「出た名は二つ。

一つは遠藤隆明。

一つはお陸」


 遠藤は美濃の国人であったが、今は美濃与力衆の足軽頭の一人。

足軽頭身分を選択し、銭雇いの家禄にて、

一族郎党を足軽として養っていた。

彼はその足軽組を率いて武田との戦いに従事した一人だ。


 お陸は明智本家に仕えていた者の縁者。

縁戚のお宮の伝手で当家を頼って来た。

器量良しで働き者とはお宮の弁。

その彼女は、今は関ケ原城の勝手方で働いていた。


 私は二人の組み合わせに疑問を抱いた。

「その二人の共謀なのか」

 芹沢が応じた。

「二人だけとは思えません。

あまりに人を雇い過ぎています。

それに見合う金銭が必要です」

 確かに二人の稼ぎでは無理がある。

前回は伏兵で、百人近い人数が動いた。

今回は暗殺で、人数こそ少ないが、それなりの手練れであった。

たぶん、どこぞの忍びであろう。

となると仲介者への謝礼も必要になる。

芹沢が続けた。

「その二人に共通する点を調べました。

すると長井道利殿に行き当たりました」

 美濃国人衆の代表格の一人。

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