(安寧)10
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
誤字脱字、度々のご報告、ありがとうございました。
大感謝しています。
私は女達に囲まれて居館の大広間に入った。
お園とお宮が私を解放した。
「ささ、上座へ」
私は不承不承ながら上座に腰を下ろした。
目の前にはお絹の方とお市の方。
その後方には側仕えの奥女中達が控えるように並んでいた。
皆が皆、笑顔。
意味が分からないので怖い。
私は尋ねた。
「どうした」
お園が進み出て言上した。
「お絹の方様がご懐妊なさいました」
途端、女達が一斉に祝ってくれた。
「殿、おめでとうございます」
私は狐につままれた気分。
ボーッとしてると、お宮に言われた。
「殿、お絹の方に何かお言葉を」
私は慌ててお絹の方を見た。
ニコヤカに頷くお絹の方。
私は素直に口にした。
「いや、すまん。
驚いて言葉にならなかった。
ありがとう」頭を下げた。
お絹の方が言う。
「何をおっしゃいます。
これは女の務め。
私の方こそ、ありがとうごぜゃ~ました、そう申し上げます」
「身体に異常はないか」
「大丈夫です、皆が労わってくれます」
「何時頃生まれるのだ」
「春前かと」
「寒さの真っ只中だな」
私はお園とお宮に視線を転じた。
「冬の出産用の家を建てられないか。
隙間風を防ぐ小さな家だ。
そこに小さな部屋を設け、暖を取れるようにするのはどうだ」
お園が首を縦にした。
「承りました。
この屋敷の一角に建てましょう。
直ちに職工の村に使いを出します」
お園が奥女中の一人を職工の村に走らせた。
お宮が口を開いた。
「暫くの間、お絹の方には閨を控えて頂きます。
代わりにお市の方に閨を共にして頂きます。
よろしいですね」
お市の方は大歓迎の表情。
お絹の方がそれを見て微笑み、深く頷いた。
私としてはお市はまだ早いと思う。
お絹の方は私の二才下の十六才。
対してお市の方は五才下の十三才。
そんな私の考えが分かったのか、お市の方が言う。
「十三でも子はなせます。
私に任せてちょ」
考え込む私にお絹の方が頭を下げた。
「お市の願いを聞き届けてちょう」
お市が頭を深々と下げた。
お園とお宮も頭を下げた。
それを見て、他の奥女中達も倣った。
女達に押し切られてしまった。
当家の当主は私なんだが・・・。
それでも不思議と怒りは湧かない。
流される自分を甘いと自覚するが、今さら覆そうとは思わない。
それはそれとして今の私は忙しい。
戦の後始末に、留守の間に溜まっていた書類の山。
それらを処理せねばならない。
その合間合間に新規の書類も入る。
これでは当分、楽はさせて貰えない。
溜息を付いていたら、猪鹿の爺さんが執務室に入って来た。
「殿、少しよろしいですか」
入って来ているのに、よろしいですかはないだろう。
「楽しい話、それとも重い話」
「三河の者達の話です」
三河から流れ出て来る者達がいる、そう聞いていた。
側仕えの沖田蒼次郎がお茶を淹れようとした。
それを爺さんが断った。
「お茶より、出来れば珈琲を」
苦笑いの沖田。
渋々ながら珈琲を淹れた。
その珈琲を手に、爺さんが私に尋ねた。
「殿は三河の服部党をご存知ですかな」
知らぬ私に沖田が教えてくれた。
「松平家に仕える伊賀者です。
伊賀の国では喰えぬので三河に移り住み、忍び働きをしております」
「そうそう、その服部党。
これもまた三河を出ました。
主君の仇の尾張には仕えられぬそうです」
私は先が読めた。
「伝手を頼って爺さんに声を掛けて来たのか」
「如何にも、それでどうしますかな」
「忍びは猪鹿家に任せている。
服部党も同様だ、一切を委ねる」




