(安寧)7
話が当家の問題から三河の情勢に切り替わった。
ついでに飲み物も珈琲からお茶に切り替わった。
猪鹿の爺さんが言う。
「口直しに丁度いい」
「そうですな」伊東が同意した。
芹沢が仕切り直した。
「方々も三河の事情についてはご存知でしょう」
私は疎かったが、皆はそうではなかった。
それぞれが事情に通じていた。
互いに手札を出し合ってから検討した。
基本方針が纏まった。
彼等が足軽として仕えるかどうかは知らないが、当家の門を叩けば、
まず拒否はしない。
領内通過を許可する。
短期でも長期でも滞在を認める。
そして、単身者が雇用を望めば、屯田の村で受け入れる。
一族郎党で望めば、当主を足軽頭として受け入れ、
付き従った者達はその配下として遇する。
稲葉山城を発った。
途中に、私の治世下で築いた加納城や西濃城があるのだが、
そちらには寄らない。
加納城は尾張対策で築いたが、縁戚となった今、重要度が減じた。
西濃城は近江対策で築いたが、こちらも重要度が減じた。
共に廃城にしても構わないのだが、先行きは不透明。
念の為に、与力の足軽頭達に輪番での留守居を命じた。
近江を目の前にして関ケ原城に入った。
こちらは南近江の六角家を牽制する城。
今も重要度が高い。
この城の西方には美濃の国人衆や地侍衆の飛び地があった。
彼等が六角家浅井家の連合軍と戦って得た領地だ。
細切れの様にあり、それぞれが代官を派遣していた。
その彼等を後方から支援するのも関ケ原城の役目だ。
ここでは代官達の目通りを許し、現状を聞き取った。
彼等によると、六角家は日増しに力を落していると言う。
主因は当主と先代の不仲だ。
何事につけ、健在な先代が口出しして来るので、仲が拗れているそうだ。
各城に私の執務室が設けられていた。
この戦国時代、いつなんどき事が起きるか分からない。
そこで私が駆け付けて指揮が執れるように、一室が確保されていた。
その執務室に私は入った。
いつもの顔触れが集まって来た。
大人衆筆頭・伊東康介。
参謀・芹沢嘉門。
忍び衆・猪鹿虎永。
大人衆と旗本隊の隊長、側仕えをも兼任している近藤勇史郎。
側仕えの土方敏三郎、沖田蒼次郎、長倉金八、斎藤一葉、
山南敬太郎。
山南が珈琲とお茶を入れてくれた。
お茶菓子も用意してある。
一息入れてから芹沢が口を開いた。
「六角家が熟して参りました。
そろそろ落しましょうか」
伊東が異を唱えた。
「そうしたいのは山々だが、銭が足りない」
日ノ本での銭の鋳造は絶えていた。
そこで代用されたのは渡来銭、ないしは私鋳銭。
商いでは大陸から仕入れた宋銭や明銭が使われていた。
広く日ノ本全体で使われていたので、絶対的な数が足りなかった。
力で南近江を落しても完全に領国化するには銭も必要だった。
商家の力の強い南近江は米や塩では維持できないのだ。
銭を回して米や塩で補完するのが最善手。
その銭の絶対数が足りない。
私は伊東に尋ねた。
「敵から奪った刀槍や鎧を鋳造に回す様に伝えた筈だが」
私鋳銭の鋳造、所謂ところの贋金造り。
宋銭や明銭を真似ろと指示した。
当家の技術力からすると本物以上の銭が出来上がる筈だ。
「はい、仕上がっておりますが、余りにも立派過ぎて・・・。
少し汚さねば商いに回せません」
「綺麗すぎるのか」
「その通りです。
私鋳銭として足下を見られます。
もしくは、当家の悪評に・・・。
ですので、大陸から仕入れる銭並みに汚すつもりです」
「どのくらい掛かる」
「もう一年ほど、それで初年分が使えると思います。
待ってもらえますか」
私は返事代わりに芹沢を見た。
「どうだ」
「仕方ないでしょう。
ただし、三好家が先に動くかも知れません。
その場合はこちらも動きませんと」
「分かった。
三好家に南近江を譲る気はない。
気配が見えたら先に動く。
ようく見張っていてくれ」
私鋳銭は難しくはない。
公的な鋳造ではないので気楽に着手できる。
まず粗銅から金や銀を取り出す。
捕獲した刀槍を鋳潰し、銅に混ぜる。
鉄混じりの銅貨を造り、銅メッキでお化粧する。
それを畑に埋め、塩梅を見て、ここ掘れワンワン。
あらあら不思議、畑からお宝が出る。




