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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
113/248

(安寧)1

     ☆


 ここは東濃城の大広間。

主要な家臣が左右に居並んでいる中で、沖田蒼次郎が私に平伏した。

「まことに申し訳ございませんでした」

 私は先ごろ彼を使者として尾張に遣わした。

美濃に侵攻して来た甲斐・武田軍との戦いの結果を信長殿に知らせた。

その際に騎馬五十騎を預けた。

「だいぶ減らしたそうですね」

「はい、戦死十二名、負傷十一名、言い訳は致しません。

全て某の責任であります」

 五十騎のうちで無事に戻って来れたのは二十七名。

負傷した十一名は尾張方で治療療養中。

戦死した十二名の遺体は先に近江に帰還させた。

これは部隊の壊滅に等しい。


 事情は同行させた戦目付に聞いた。

また信長殿より送られて来た礼状でも触れていた。

折から在城していた参謀や大人衆に聞くと、

彼等も止むなき判断であったと同情した。

それでも沖田蒼次郎は己に厳罰を求めた。

どうしても自分が許せないらしい。

私は彼に告げた。

「蒼次郎、少ない犠牲で勝利を目指すのが当家の方針です。

けれど、如何ともし難い事は起こるのです。

我等は普通の人間ですからね。

それをいちいち罰していては、将がいなくなります。

それに、ここで貴方を罰すれば桶狭間の戦いを汚すことになります。

分かってくれますね」


 桶狭間で信長殿は今川義元の首を得た。

信長殿にとってそれは渇望していた首であった。

当家は甲斐の武田信玄を撃退したが、首には拘っていなかった。

何故なら国力が違っていた。

当家はあの武田家であれば、何度でも撃退できた。

最終的には磨り潰して居城に追い込めた。

 対して信長殿は違った。

国力から一度しか機会がなかった。

失敗すれば義元に警戒される。

警戒されて方針を磨り潰しに変更されれば、打つ手がなくなる。

そこに首を得た。

驕った義元の首を得た。

望外の勝利であった。


 信長殿は今川義元を討ち、勢いのまま沓掛城を落した。

余勢で三河の岡崎城をも落し、三河を掌握した。

城だけではない。

尾張からの退却を許さず、数多の今川方の将を討ち取った。

朝比奈泰朝、岡部元信、松平元康、三浦義就、蒲原氏徳、井伊直盛、

松井宗信、由比正信、一宮宗是、久野元宗、久野氏忠、長谷川元長、

庵原元政、松平政忠、松平忠良、近藤景春。


 翌日も大広間で平伏している者がいた。

商人の恰好をしていた。

何やら胡散臭そうな雰囲気。

奴隷商人が近いかな・・・。

私からは友達になれそうにない男だ。

腰を下ろして男に声をかけた。

「そこでは遠い、もう少し近くに寄れ。

でなけば話ができん」

 男が少し顔を上げた。

私にではなく、近くの付き添いに小声で尋ねた。

「よろしいので」

「よい、殿もああ仰っていらっしゃる。

もう少し前に進め」

 男が膝でスリスリ。

ちょっと前に出た。

用心しているのが見て取れた。

私は催促した。

「もう少し前だ。

お主の手裏剣が届かぬ範囲まで進め」

 男が身体をビクッとさせた。

私は声をかけた。

「化けの皮は剥がれている。

修羅場には慣れているのだろう、飛加藤殿」


 飛加藤は都の商人・三ツ橋屋徳兵衛の手代として、偽名で現れた。

「甲斐の守護・武田様のご依頼で、

甲斐の将の方々の首を買い戻しに参りました」

 本来であれば取次役方で済ませられるのだが、

私は飛加藤に興味を覚えた。

一も二もなく、直に面会する事にした。


 飛加藤が真顔になった。

スリスリと器用に後ろに下がった。

私は思わず尋ねた。

「そこが手裏剣が届かぬ範囲か」

「はい」

 至極当然の顔。

列席していた者達が堪らずに失笑を漏らした。

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