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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
107/248

(桶狭間)2

     ☆


 織田信長は鳴海城を囲む砦の一つ、善照寺砦で、

次々に戻って来る物見からの報告を検討していた。

どう考えても天秤は今川家に傾いていた。

織田家の目はない。

けれど信長は諦めない。

付け入る隙はどこに・・・。

 そこへ清洲城から使番が来た。

「明智家からの使者様を案内して参りました」

 傍に控えていた馬廻りの一人が呟いた。

「こんな忙しい時にか」

 使番はそちらには目もくれない。

信長一人を見ていた。

「はい、ご当主様の代理で、大事な話だそうです」

「であるか。

仕方がない、通せ」


 顔に見覚えがあった。

元は光国の側仕え。

今は旗本隊の武将、名は沖田蒼次郎、何度か顔を会わせていた。

「どうした、武田との戦には出ぬのか」

「それが終わりましたので、報告に参りました」

 予想よりも早い。

「ほう、それはそれは。

で、どうなった、勝ったか、負けたか」

 沖田は焦らすように一呼吸置いた。

傍にいる者達を見回し、再び信長に視線を戻した。

「勝ちました。

美濃より追い払いました」

 信長は疑いを持った。

「追い払った。

信玄公の誘いの手ではないのか」

「いいえ、鉄砲隊で半数近くを削りましたので、余力は御座いません。

信玄公は別動隊と合流し、飛騨口より信濃へ引き返したそうです」


 詳しく聞いている暇はない。

目の前に戦が迫っていた。

「あい分かった。

こちらは東濃の心配はせずとも良いのだな」

「はい、東濃勢は壊滅させました。

今頃は当家の兵が入り、平定している筈です」

 それなら動き易い。

「使者殿、ご苦労であった。

この砦で休むが良い。

ワシらはちょっと戦して来る。

戻って来るまで、ゆっくりなされよ」

「拙者もその戦に同行をお願いしたいのですが」

「それは出来ぬ。

お主に何かあったら困る」

 沖田が平伏した。

「是非ともお願いいたします。

信長様の戦振りを見ずに近江に戻ると、お二方に叱られます」

「お二方・・・。

お犬、いや、今はお絹か、それとお市の二人か」

「はい」

 信長は理解した。

確かにあの二人なら、戦を見ずに戻れば確実に叱るだろう。

「であるか。

念を押して置くが、手柄は立てるな。

ワシの馬廻り衆が迷惑する」


 信長は武田の脅威が消えたので手立てを変えた。

使番六名を呼び寄せ、それぞれに口頭で指示を与え、

急ぎ各所に走らせた。

彼等が立ち去った頃合いに、新たな物見が戻って来た。

「今川の本隊が沓掛城から出立しました。

道筋から、大高城に向かっているものと見受けました」

 信長は陣卓子の地図を見た。

あの辺りの地理は手に取るように分かった。

「出陣する」


 善照寺砦から信長率いる本軍三千が出立した。

これに途次、使番の知らせを受けて駆け付けた地侍達が加わって行く。

彼等の手勢もいるので、兵力が次第に膨れ上がる。

信長は振り返ってその長い隊列を見た。

どう見ても五千。

隣で馬を並べている森可成に零した。

「増えるのは歓迎するが、兵糧は如何したものか。

森よ、どうしたら良い」

「今川の小荷駄隊を襲わせれば宜しいかと」

「誰に任せる」

「前田では」

「利久か」

 前田利久、前田家の当主だ。

「いいえ、利家です」

 利久の弟の名が出た。

人を殺して出仕停止中の前田利家とは・・・。

信長は顔を歪めた。

殺されたのは坊主だが、ただの坊主ではない。

芸事を好む信長のお気に入りの一人だ。

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