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oh! 銭ぜに銭 ぜに銭ぜに。  作者: 渡良瀬ワタル
106/248

(桶狭間)1

     ☆


 私の下に朗報が届けられた。

当方勝利、武田軍敗走。

同時に戦場から死傷者が続々と搬送されて来た。

重傷者は現地に残されたが、他は荷車に乗せられて来た。

軽傷者や死者だ。

 表門で出迎えていると、意外な顔を見つけた。

美濃衆与力を預かっていた竹中重元だ。

荷車に乗せられていた。

彼が死傷者に含まれているとは聞いていない。

思わず走り寄った。

「竹中、傷は重いのか」

 驚いた顔で竹中が上半身を起こした。

「これは殿・・・」

 荷車に付き添っていた竹中の嫡子が応じた。

「殿、父は腰を痛めただけで命に別条はありません。

動けないでは、陣頭に立てません。

邪魔になるだけです。

それで近藤隊長の許可を得て、こちらに下がらせました。

・・・。

与力衆は近江の藤堂殿に預かって頂いております」

 嫡子から大蒜と酒の入り混じった匂いがした。

餃子と酒を好んでいるのだろう。


 重元が顔を下げた。

「申し訳御座いません」

 私は彼を見た。

白い髪に、皺々な皮膚。

高齢だ。

六十を超えたか、超えないか、その辺りだろう。

「重元、これを機に身体は労わるようにしろ、いいな」

「はい」

 私は嫡子に視線を向けた。

「半兵衛、酒はほどほどにな」


 私は沖田蒼次郎を呼んだ。

「尾張へ使番として向かえ。

信長殿とは面識があろう。

その信長殿にこの勝利を伝えろ。

急ぎだから騎馬数は五十。

清洲に当家の兵が留守居で入っている。

足りぬ糧食はそれに頼れ」

「某が抜けても大丈夫ですか」

 傍にいた参謀・大石蔵人が説明した。

「さっきの使番によると、武田軍は飛騨に退いたそうです。

もう戻って来る事はないでしょう」

「そうですか」

「この勝利を知らせれば織田様の戦術の幅が広がります」

 合点したのか、沖田が深く頷いた。


     ☆


 その日は朝から晴天であった。

雲一つない絶好の戦日和。


 前日、沓掛城の今川義元に前線から吉報がもたらされた。

今川方の大高城を囲む織田方の丸根砦と鷲津砦、

その二つを落としたと言うのだ。

「よくやった。

それで織田の小僧はどこにいる」

「鳴海城を囲む砦の一つ、善照寺砦に入りました」

「その兵力は」

「およそ三千」

「明智家からの援軍は」

「清洲城の留守を預かるそうです」


 今川方の鳴海城を囲む砦は三つ。

丹下砦、中島砦、そして善照寺砦。

その三つを占領すれば清洲城までは僅かな距離。

邪魔する城も砦もない。

清洲城の明智家の援軍は目障りだが、攻略する手立てはある。

一番手っ取り早いのは織田家の小僧を捕え、交渉する。

明智家の当主の義兄とあれば、身柄と城の交換に応じる筈だ。

「明智勢の動向を見張らせておるか」

「はい、物見を付けました」

「あい分かった」


 明智家の加勢は三千。

それは想定内だ。

事前の細工が利いたらしい。

笑みを浮かべて義元は広間の諸将を見回した。

「我等は明日、大高城に入る。

大高城より鳴海城を囲む砦を落とし、しかる後に清洲城へ向かう。

ただしだ、織田の小僧は殺すな。

清洲城と交換する。

多少の傷は仕方ないが、けっして殺すな、皆に徹底しておけ」

「おう」諸将が一斉に応じた。


 予定通り、沓掛城から今川軍が出立した。

総勢で三万近い軍勢も、各地の織田家の砦攻略へ向かわせたので、

本隊は一万そこそこ。

小荷駄隊を差し引くと実働部隊は半数を超えるくらい。

それでも織田全軍を合わせたよりも多い。


     ☆

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