14話 誓い
「君がルルを救ってくれたスグル君だね。ありがとう。私はルルの兄でアルデンヌ家の長男、ギーシュ・アルデンヌ。今は王国騎士団に所属しているんだ。よろしくね」
スグルがルルの兄からの好印象を手に入れようと頭を働かせているとルルが大声をだした。
「お兄様の名前はラインハルトでしょ! いつからギーシュという名前になったのよ!」
スグルもそれを聞いて思い返してみるとたしかにリトリアに亡命してきたときに王様から聞いた名前はラインハルトだった気がした。
「ああ、私はヴィルヘルム様に使えるにあたって名前を授けてもらったのだよ。忠誠の証にね」
ルルの兄であるギーシュはそう言うと、「わかってくれるね?」とルルに微笑んだ。そうするとルルは思い当たることでもあったのかあきらめた顔つきになると兄であるギーシュと同じ目を細めて同じようにほほ笑んだ。
スグルが貴族のなにかしらがあるのかな? と思っているとギルが説明してくれた。
「貴族の家は結婚などを除くと当主から名前を授かることで家の一員と認められるんだ。だから子供が生まれて名前を付けられてはじめて正式にその家の一員になれるし、名前を授けてその家の一員に加えることもできる。ラインハルト様、あ、もうギーシュ様か。はヴィルヘルム様から名前を授かることでリトリアでの貴族の待遇を手に入れたということだよ。つまり、正式にはルル様とギーシュ様は家族でないことになってしまう……」
スグルはルルは兄とまで引き離されてしまうのかと思い。なにもしてあげられない自分にどうしようもない悔しさを感じた。
「ルル様……」
スグルが言葉に詰まるとヴィルヘルムが独り言を言うようにつぶやいた。
「私は、家のものがどのようなものとどのような親交を持とうとも気にせぬ」
基本的にアホな子のスグルでも何が言いたいのかは分かった。兄弟としてかかわってもよいということであろう。
ルルとギーシュはハッとするとヴィルヘルムに向けて深々とお辞儀をした。
「深く感謝いたします」
スグルは話に聞くヴィルヘルムの尊敬される所以をを感じた。
しばらくするとルルは安心したというように言った。
「ギル、ここでの暮らしはお兄様にも頼んであるから安心して頂戴ね。会議では私の力不足でこんなことになってしまったけれど、きっとスグルたちと一緒にもっとよい領地にしてギルが安心して戻ってこられる領地にするわ」
ルルが力のない笑顔で言うと、ギルも「私も」と言い、言った。
「私もきっといまよりルル様の力になれる騎士になります」
このベルデ王国からの主従はお互いを信頼しているようにうなずくとお互いに微笑んだ。
すると、ギルは今度はスグルの方を向くと言った。
「ちょっとさっき言おうと思ってたことの続きを二人で話さないかい?」
スグルはうなずくと、少し離れたところへギルを右肩に乗せて行った。
「私は王国騎士団で学ぶことになる、そしたら経済学も、剣術も、毒から主人をまもる術だって学ぶことになると思う。だけど、やっぱり強さでは巨人のスグルには叶わないからね」
ギルはそう言って、柔らかく微笑むと、今度は真剣な目になって言った。
「だから私がスグルのできない、ルル様の補佐や、小さいからこそできる建物内などでの護衛術を極める、それでスグルがそのずば抜けた力でルル様を守る。そうすれば王国一、いや、世界一の騎士にふたりでなれると思うんだ。だから……」
ギルはそこで言葉を切るとこぶしをスグルの方へと突き出した。
「誓ってくれ、二人でルル様を守る最強の盾となり、矛になると」
「誓うよ、僕もルル様を守りたいんだ」
次の瞬間には二人の拳がぶつかり合う。
「「じゃあ、また」」
二人はそう言うと、もう、しばしの別れに未練はないというようにそれぞれの行動を始めた。
ルル達一行はギルをヴィルヘルムとギーシュに任せると、別室から合流したマルクとシット、それにフィンにギルが王国騎士団に出向することになったことを伝えた。
「ギルさんがいなくなったら私が部屋付きの護衛になるんですか! 私じゃ力不足じゃ……」
頭が良くて戦術を考えることのほうが好きなフィンは少し青ざめた表情になりながら言った。
「一応、スグルのそばからできるだけ離れないようにするけれど、いざとなったらフィン、あなたに頼むわ」
ルルは「任せたわよ」とフィンに言う。フィンも「私の全力でお守りします」と答えたが、やはり少し頼りなかった。
「すみません、私が助言しておきながらこのような結果に……」
シットは申し訳なさそうに言うのをルルは遮ると言った。
「いいえ、私の力不足が一番の原因だし、シットの力がなければ、私はもっと危うい状況に立たされていたわ」
ルルが言うと、シットは恍惚とした表情になると、「スグル殿の主人であるルル様のなんと慈悲深いこと!」とつぶやいた。が、その時にはすでにルルはマルクの方を向いて気付いていなかった。
「それで、マルク、これからリトリアの食糧庫としての地位を確固たるものにするためにも協力よろしくね?」
「は、はい!」
シットのあまりの気持ち悪さに気を取られていたマルクは反応が遅れたもののなんとか返事を返した。
ルルがその様子に怪訝に思っていると、唐突に後ろから声がかかって意識をそちらへと向けた。
「あの、私は隣の領地のハルトマンじゃ、そなたヴィルヘルムどのの派閥に属しておるのだろ? ぜひ口利きを頼みたいのだが」
そこにいたのはスグルが数日前プリティスマイルをかましたハルトマン伯爵であった。
スグルはすっかりルルのお兄様こと、ギーシュの好感度を上げることを忘れております。




