◇幕間劇十七『最後の審判Ⅲ』(シェマグリグ視点)
「君が僕の相手かい?」
どうやら、この物腰柔らかげな奴が我の相手のようである。
筋肉隆々としており、小賢しい雰囲気を纏っている。
「これは驚きだな。まさか竜人の中に人間に与する者が居ただなんて。これは分からせてやる必要がありそうだね、うん」
「随分な余裕だな。果たしてそれが叶うと思うか?」
互いにニヤリとした笑みを浮かべる。
「やってみるしかないんじゃないかな」
「抜かせ」
我が、近くにあった街灯を力いっぱい引き抜くと、それは巨大な戦斧へと変化した。
「へえ、凄い力だね。それは素の腕力なのかい?」
「さぁ? どうであろうな?」
我はそれを持って貴奴に接近して行ったが、貴奴の常軌を逸した行動には酷く驚いた。
こやつ避ける気がまるでない……?
どういうことだ……?
戦斧が貴奴の脳天にぶつかると同時、戦斧の鉄の部分が粉々に砕け散った。
「ほう、面白い。どのような手品を使ったのかは知らないが、敵を一撃で屠っても何の面白みも無いからな」
今度は近くの民家に生えていた若木を引っこ抜き、変化した弓で攻撃を行った。
「へえ、面白い能力だね、うん」
すると貴奴の身体に触れた瞬間、弓矢は綺麗に真逆の方向へと跳ね返され、やがて空気抵抗を受けて静かに落下した。
「なかなかやるではないか」
──その後愚直に色々な武器を試してみたものの、貴奴の身体に傷一つ付けることすら叶わなかった。
どういう訳か攻撃を強めるほどに武器が強く砕け散る。
まるでカウンターをしているかのような……。
カウンター……?
「さて、もういいかな。十分に君は頑張った。悪いけど、待ち続けるのも少し退屈なんだ。今度はこちらの番とさせて頂くよ」
言うと、貴奴はナイフを数本投げてきた。
我はあることを確かめるべく、その中の一つにあえて被弾した。
案の定、被弾した部分は熟したトマトのように綺麗にえぐれていった。
まるで全く抵抗がなかったかのように。
これは我の見立てが正しければ、まともに食らったら骨ごと貫通しただろう。
しかし、そういうことか……やはりな。
「右肩をえぐられたか。もうおしまいだね。もう少し長引くかと思ったけど、残念だよ」
「ほう? では最後に予想を裏切って見せてやらんこともないぞ?」
「……なんだと?」
「我の利き手は左腕だ」
我が近くにあった少し大きめの木の枝を引きちぎると、それは日本刀へと変化した。
やはり、この細さと長さならこれに変化すると思っていた。
「いくぞ、下民」
我は貴奴に向かって全力で走り出し、真っ直ぐに日本刀を振り下ろした。
思った通り、奴は全く避ける気が無かった。
「だから無駄だと言って──」
──次の瞬間。
奴の右腕が取れ、大量の血が流れ出した。
「うっ……!」
貴奴は苦悶の表情を浮かべながら左手で肩を押さえる。
「相手にとって不足は無し、ということか。普通は悲痛な叫び声をあげるところなのだが」
「君、何を……!?」
目を大きく開いて、必死の形相で我に疑問を投げかける。
この状況でも問いを投げるか。大した奴である。
「簡単なことよ。貴様の能力がどのようなものなのかは詳しくは分からないが、何か力のベクトルをおかしくするものだということはここまでの戦いで分かった。それを見抜くだけでもう決着はついていたと言っていい」
「だから何をしたかと言っているんだ……!」
「日本刀が貴様の腕に触れたタイミングで、あえて大きく逆方向に刀を引き寄せた。それで反転したベクトルは貴様の腕に入り込み、攻撃は命中した。それだけの話よ」
もう貴奴は戦闘不能だろう。
「ここで降参すれば命は見逃してやってもよいぞ?」
「殺してくれ。もう私が生きる意味はない」
「……本当にいいのか?」
「ああ。私はここで死んで次の生に備えるよ。それに……今から生きて帰還しても同じことだからね」
「…………」
似合わない。
……本当に似合わない。
我は少しだけ貴奴に同情してしまった。
命からがら逃げかえったところで、待ち受けるのは任務を遂行できなかったが故の罰だということか。
「……仕方のない奴だ」
希望通り、貴奴を介錯してやることにした。
仮にこのまま放っておいても出血多量で死ぬだろうし、苦しまずに死んだ方が幸せだろう。
見逃していたなら応急処置程度の介抱くらいはしてやるつもりだったのだが。
「恐らくこの選択をするのは、我らの中でも我ぐらいだろうな」
我は日本刀を奴の方にあてがると、スパッと綺麗に首を斬り落とした。
不思議なことに手ごたえが全く無かったが……まさか……。
「惨めな奴だ……あんな奴に従ったがばかりに……」
貴奴の首を拾い、胴体の横に置く。
奴はとても清々しい顔をしていた。
「……それで幸せだったのか?」
我はただ、空に問いを投げかける。
やがて仰向けになって空を仰ぐと、奴の防御を破ろうと無駄に使った体力を回復させる為、しばらくその場で寝転び休憩することにした。




