76話目 笛を吹いたら踊ってくれる
再び雷ジジイに挨拶に行くと、呆然としていた。
「い、犬人の子供たちを、みんな静かにさせた……じゃと?」
おいおい、まるで殺したみたいな表現はやめろ。人聞きが悪いだろ。
「バウティスタさん。一族の会議に、私も参加させて下さい」
「ぬ、ぬぅ。しかし……」
「『じぃじ、だいきらーい』」
「はうぅっ!?」
おっと、クリティカルヒット。
「私とスケさんとのマジックで、犬人派の子供たちは実によく懐いてくれましたよ。――そうそう、これは異国の話ですがね。害虫退治に駆り出された笛吹きは、不思議な笛の音によって害虫を海へと誘導させ、残らず溺れさせたそうです。しかし町の人は、退治できたのをこれ幸いと、笛吹きにキチンと報酬を払わなかったとか」
ジジイはゴクリとツバを飲み込んだ。
「ど、どうなったんじゃ?」
「笛吹きは、不思議な笛の音によって、町中の子供をおびき寄せましてね。そのまま去っていき、町から子供は消えました」
「お……脅しとるつもりか!?」
「滅相もない。なぜならバウティスタさんは、約束を守る御方。――ああ、次は人が消えるマジックを披露しましょうかね。お孫さんの誰かを使って」
「や、やめい! ――分かった。お主も会議に参加せい」
「ありがとうございます」
やれやれ。儲けさせてやろうというのに、警戒心の強いジジイだね。
「ガイギャックスです。ガイとお呼び下さい」
ロの字型に並んだテーブルの一角で、私は犬人派の面々を見回した。
さっそく向かいのクマ耳女性が挙手をする。
「あなたが、『骨のお兄さん』ですか……?」
「はい」
「ウチの子が、スゴイスゴイって喜んでましたよ」
「ありがとうございます」
子供たちが良く伝えてくれたのだろう。正直バウバウより好感触だ。
「スゴイといえば、犬人派の剣術もスゴイとお聞きしましたよ」
「! ええ、そうなんです!」
気を良くしたのか、クマ女性は息を弾ませてお話ししてくれた。
しかし、剣術を教える道場の話になると、途端に顔色が曇る。
「似たような道場が多くて、お客さんの入りはイマイチなんですよ」
「カーッ! ワシらの方が正統派なんじゃ! じゃが、竜人のヤツらのほうが人気でのお。犬人ですら、そっちに行く裏切り者が出る始末よ! まったく、嘆かわしい!」
あー、ジジイ。分かったから黙れ。
実はモーフィーに聞いて、あらましは知っていた。モンスターがいるので、武道の需要は高いが、道場も多い。
そうなると当然、強い人が教えてくれる場所に人気は集中する。
うーむ。武道大会での竜人の活躍を見ると、そりゃあ竜人の道場に集まるよな。
だからこそ、この話を持ちかけるのだが。
「業態を変化させませんか?」
「どういう……事でしょう」
犬人派の表情に困惑が見えるなか、キツネの男性が質問した。
「それは……剣術道場を廃業する、と?」
「ならん! ならんぞー!」
おい、誰かジジイつまみ出せ。
私は構わず話した。
「失礼、誤解させてしまいましたね。剣術道場もあり、肉体改造もあり、というふうに、業態を追加するのです」
「ふむ」
「今のままでは、現状の流れが続いてしまいます。なので、筋肉を鍛える、もしくは脂肪を減らしてヤセさせるといった、さらに前段階の分野……いわば、今まで誰も目を向けていない分野に参入するのはいかがでしょう」
背景でジジイがわめいてるが無視。あ、ゼーゼー舌出してる。トシだからムリするな。
犬派の会議では、多彩な意見が出た。ああ、ジジイは孫が呼んでるというのでいそいそと出て行った。良かった良かった、もう来なくていいぞ。
なので、荒れることもなく、穏やかに議事は進行した。
「ガイさん」
キツネの男性がふたたび質問してきた。
「柔道というものを教えることは出来ますか? ガイさんが直々に」
「申し訳ございません。私はスラヴェナ王女様のお付きゆえ、道場へ教える側としての参加はご遠慮願いたいです」
「それでは、鍛練場の犬人派が、ガイさんから学んだ柔道を教えることは出来ますか?」
――ああ、なるほど。始めに大きな要求をしてから小さな要求か。うまいな。
「ええ。一定の技量を修めた方であれば構いませんよ」
「分かりました。ならば犬人派の一同、業態変化を受け入れます。つきましては、ガイさんにその、ダイエットのノウハウを教えていただきたく……」
「はい。一般の方にもやりやすいよう、アレンジしたものをご用意いたします」
ああ……、話が通じるっていいなあ。
マルちゃんのせいで獣人イメージが下がってるとか言ってたジジイよ、私の中では断然お前だ、お前。早く引退しろ。




