6-18.小競り合い
二日後。
冒険者に追われるのは変わらずだけど、あちらが動いた。
私がこの階にずっと留まり、一定距離に近づくと逃げることに業を煮やして、戦力強化を図ったらしい。
8人で四方から私を追い込む作戦に出たらしい。
私が、近付いてくると逃げ出す距離より少し距離をとって、東西南北に二人ずつで配置している。
私が移動すると、それに合わせて移動。採取のために止まったら、仕掛けるつもりなのだろうけど。
わざわざあちらの思惑に乗る必要はない。
私の気配察知の能力を侮りすぎだ。逃げ出す距離がそれくらいだからだろうけど……逃げるに問題ない距離であって、察知できる距離は割とあるんだよね。
危険は……無さそう。
制圧して、運ぶために必要だったってことにして、魔物連れでダンジョンを出てしまうか。
ダンジョン出たら、バレないうちに開拓地に逃げてもらえばいい。
とりあえず、協力してるように見せれば、ちょっとくらいならわからないだろう。
これは好機と言うことにしておこう。
「シマオウ。北に向かおう。まずは、二人。時間稼ぎをするようなら制圧」
「がぅ」
「モモ達は隠れて待機。人質にならないようにね?」
「にゃ?」
「な~」
モモ達は母豹に任せることにして、シマオウに乗る。
「……いたね。様子見で、そのまま横をすり抜けて」
他の方角にいる冒険者も移動を開始したことに気付いたようだけど、こちらのが早い。
冒険者二人が武器を構えているのを無視し、そのまま横を通り過ぎるように指示をする。
「止まれ!」
片方の男が命令してきたが無視する。その間にも距離は近づいていく。
何もしないなら、私達は5メートル離れた場所を横切るだけだった。
だけど、普通に矢を射かけてきた。
「がぅ?」
「うん、あっちが先に攻撃してきたね」
シマオウが向きを変えて、冒険者側に動き出す。
さっとシマオウから降りて、弓を構えた冒険者をけん制する。
シマオウがそのまま冒険者に飛び掛かり、剣を構えていた冒険者を制圧。
シマオウは上に乗って、じたばたと藻掻く冒険者を地面に押し付けている。
「いきなり、どういうつもりですか?」
「そっちが襲ったんだろう!? いいから、そいつをはなせ!」
「お断りします。先にあなたが矢を射かけ、仕掛けたんです。私が乗っていることを承知で射かけてきたでしょう」
どういうつもりかは知らないけど。
敵対行動をしたのは間違いなくそちらだ。
そう主張すると、舌打ちをしてこちらに向けて弓を引き、矢を構えてきた。
「武器を捨てて、大人しく事情聴取に応じるなら手荒な真似はしません」
「ふざけるなっ!」
男がそのまま、さらに私に矢を射る。
それを避けて、第二射が来る前に接近して、お腹に一発。
「ぐあぁ……」
「面倒ごとはごめんです。どういうつもりですか?」
「貴様にっ! 捕縛命令が出てる」
その言葉に、首を傾げる。
捕縛命令? 王弟殿下の領地で、捕縛命令を出せる人は限られている。
王弟殿下もセレスタイト様も王都にいるので、ラズ様とカイア様くらいしか出せないだろう。
あの二人が私に捕縛命令を出すとは思えない。
「げほっ……わかったら、大人しくしろ。抵抗するなら、罪が重くなるぞ」
「へぇ~。じゃあ、ラズ様のところに行きますか」
他の6人がこちらに寄ってきていることは気配察知でわかっている。
あと数分すれば囲まれるだろう。その前にこの場を離れる必要がある。
二人を拘束して、シマオウに乗せる。
さらに、寄ってきた母豹に私を乗せてくれるようにお願いする。
「30階まで一気に戻ってくれる? ラズ様に確認しよう」
移動スピードはこちらのが早いし、あと6人も相手はしてられない。
十分に敵意があったことも確認した上に、捕縛命令が出てるといった。
ただ、ラズ様の名前に、捕まえた男がまずいという反応をした。
こうなると、敵対派閥が勝手に、王弟殿下の領地で捕縛命令を出していることになる。
誰が命じたかも含めて、しっかりとはいてもらおう。
ダンジョンの外に行くと、顔見知りの商人が声をかけてきた。
他には入口付近に人はいない。
「おっ、クレインさんじゃないか。そいつらはなんだ?」
「ちょっと襲われたので、捕らえました。シマオウ。モモだけ残して、先帰ってもらっていい?」
「がぅ」
ライさんから数日前に出口を見張られているという話だったけど。多分、他の6人のうち誰かが、見張りだったのだろう。
母豹達がテイムされていないとすぐに看破されることはないのだろうけど。
ルールは破っているので、さくっとシマオウに頼み、母豹達を開拓地に戻ってもらうように指示しておく。
「この人達が言うには、私に捕縛命令出てるらしいんですけど。それで大人しく従って、誘拐とか何かあっても困るので。とりあえず、襲ってきた人達を倒して、ダンジョンから出てきました。この人達を連れて、マーレに出頭しようと思います」
「襲われて、返り討ちか~。だいぶ、冒険者らしく荒っぽくなってきたな。殺してないなら、事情も確認できるしな」
「殺さないですよ。私、薬師なんですから。助けるのがお仕事です」
「そりゃそうだ! おっちゃんができることあるかい?」
「お手伝い、お願いできます? お礼は弾みます!」
馬車に乗せてもらえるようにお願いする。ダンジョンに薬売りに来ていた行商人で薬なども扱う人だ。手伝ってくれる代わりに、お礼をするのも難しくない。
「なんか、悪いことした覚えはあるのか?」
「貴族からの恨みとかなら、それなりに。あと、後始末をラズ様に押し付けたりですかね」
「それで捕縛命令か~。んで、大人しく、俺の馬車に乗って、マーレ行くか」
もごもごと抗議をしようとする二人の男は、別筋の貴族から雇われたのだと思う。
ただ、荷物のように馬車に詰め込み、私は御者席の隣に座らせてもらう。
「で? 本当に大丈夫なのか?」
「さあ? 8人でこちらに襲おうとしてたっぽいので、弱そうな二人を捕縛して逃げてきたんですよ」
「また、大所帯だな」
「見かけたことあります?」
「ないな。まあ、領主様のとこで、おっさんも証言しようか?」
「ありがとうございます。逃げる気はなかったと、引き渡すとこまで一緒にお願いできます?」
う~ん。
あっさりとマーレの領主の館に着くまではよかったんだけど。
商人さんも証言してくれ、とりあえず、私は拘束を受けなかったのだけど……。
目の前には不機嫌そうなラズ様。
他、ソロル侯爵と5日前にご挨拶したどこかの子爵様。
師匠にお世話になったということを言っていたけど、名前までは出てこなかった。
産地の調合素材を取引したいとか、申し出があったのをラズ様に押し付けた覚えはある。
「それで、どういうこと?」
「こちらに危害を加えようとしたので捕らえた冒険者が言うには、私に捕縛命令が出ているらしいです。出頭しました」
「仕事を増やすなって、言われないとわからない? 忙しい時期だって知ってるでしょ!」
どうやら、彼らと交渉しているときに、私が現れたと聞いて、すぐに呼ぶことになったらしい。
事情を話すと嫌そうな顔をした。
多分、ラズ様が考えていた報告と違うのだろう。
「ラズ様、私、何をして捕縛されるんですかね?」
「知らないよ。捕縛命令出てるならその文書あるだろうし、その冒険者二人の証言を確認するよ。あと、仲間が6人? そっちも手配する。一連の確認が取れるまで、領主の館の一室で拘束ね。逃げないように」
「はい。地下牢とかでもいいので、可能なら、調合する許可ください。素材手に入ったので、先に作りたいです」
「フォルに言っておくよ。それと、部屋用意するまでここで待機。僕はやることがあるから席を外すよ。ソロル侯爵、それと、子爵。申し訳ありませんが、少々外しますので、どうぞご自由に」
ラズ様が席を外し、私と貴族のお二方との場になる。
なにこれ? いや、ラズ様が色々と手配しないといけないのはわかるけどね。
この人達と話すことなんて何もないのだけど。明らかに、話す時間を作ったよね?
ラズ様が含みがある顔をしていたので、何かありそう。
「目を放すと問題を起こすとは言っていたが、早々に捕縛命令とは噂で聞いていた以上だな」
「ソロル侯爵様。貴族の決まり事には疎いのですが、領主であるラズ様を飛び越えて、他の貴族が捕縛命令を出来るものですかね?」
「さて……その貴族の領地で問題を起こした場合には裁けるが、心当たりはあるのかね?」
「いいえ。ですが、教えていただきありがとうございます」
他の貴族の土地で問題を起こしたというけど。
ライさんの情報が正しいならハンバード家の関係だけど。
春ごろに問題を起こした後、貴族としては断絶したはず。そちらが捕縛命令を出せるはずがない。
だいたい、私が単独で他の領地に行ったことないしね。
捕縛命令を単独で出されるはずがないんだよね。
とりあえず、ラズ様の帰りを待つしかない。
しかし……ソロル侯爵も固い表情だけど、隣の子爵?
ラズ様が家名を言わなかった人はハンカチで汗を拭きながらこちらをちらちら見てくる。
なんなんだろう。
なんか嫌な感じしかしないんだけどな。




