6-15.四十九日を終えて(2)
ソロル侯爵の出立を見送った後、もう一組。
送り出さなくてはいけない人の元へ向かう。
「昨日はご挨拶が出来ず、申し訳ありませんでした、シンザ大司教様」
「いえ。わざわざご挨拶に来ていただくなど。ありがたいことです。クレイン嬢」
「帝国から流れてきた流行り病が世間を騒がしております。病には日々の予防が肝心ですので、心付けとしてお納めください」
石鹸を大量に箱詰めしたものを3つほど渡す。
「これは?」
「こちらは香りづけした石鹸ですので、大司教様が普段使いにどうぞ。他の二つは通常のものです。信者の方や側使えの方がご利用ください。効果はたいして変わりませんが、匂いがある方が高級感あるだけなので」
「なるほど。有難く、いただいていきましょう」
土産として、他の方たちにも香りづけ石鹸は一人一つ渡しているのだけどね。
せっかくなので、シンザ大司教様には大量に渡しておく。少なくとも、今、メディシーアが手を組んでいる派閥ははっきりするだろう。
「よいのですか?」
「望まずとも影響力があることは事実です。はっきりと意思表示をしておいた方が巻き込まれないと思うので……曖昧な態度で両天秤にかけるのは、私には無理です」
「なるほど。では、一つだけ忠告を。あなたのお仲間の方々、外では髪色を隠すだけではなく瞳も隠した方がいいでしょう。どうやら、厄介な目の付けられ方をしていますよ」
髪色……ルナさんとルストさんに黒髪を隠して、茶色に染めてもらっていたけど。
それだけではダメらしい。瞳の色も隠すのか。
「そんなに気になるものですか?」
「特殊な能力が使える色ですからね。ある意味、貴方の色とは逆で、その能力を欲するのですよ。ファブロス枢機卿などは、ね」
呪いの能力か。
二人とも、すでにその手の能力は手放しているはずだけど。
「呪いの力を知っていると?」
「術者を囲っていなくてはこのような事態にならないのですから」
なるほど。
傍から見てわかるわけじゃない。警戒は必要か。
「ご助言、ありがとうございます」
「貴方に神のご加護があらんことを」
シンザ大司教の言葉にゆっくりと頭を下げる。
何も言わない方がいいだろう。
あの神を称える国だよね。私は加護欲しくない。むしろ手放したなんて言えない。
互いに、頭を下げて、別れた。
関わりたくない。多分、あちらも積極的に関わることはもうないだろう。
他の人達にも挨拶して、ようやく最後の一人がいる場所へと向かった。
師匠のお墓の前で、祈りを捧げているのはツルギさん。
その横には、ナーガ君もいた。
「すまん。もう全員を送り出したのか?」
「あとは、カイア様とネビアさんが入口で待機してるよ」
ツルギさんが名残惜しそうに立ち上がり、こちらに振り返った。
目元が少し赤くなっている。
もしかしたら、泣いていたのかもしれない。
「お師匠さん、慕われていたな」
「……ああ」
「師匠のために集まった人達だったからね」
一握りだけ、政治的な思惑だったり、利用するために来た人もいたけど。
だけど、多くは師匠を悼み、私を見極めに来た人達だった。
一言、二言だけ話した人もいれば、長々と師匠の思い出話を語ってくれた人もいた。
師匠のために、住んでいる地域の調合素材を送っていた人達からは、今後も取引を持ち掛けられたり、新しい繋がりもできた。
「短すぎたよ……まだ、何も返せていないのに」
「……そうだな。俺の判断ミスでもあった。もっと、ゆっくりと過ごして欲しかった」
ツルギさんの声は、苦し気だった。
でも、多分、どうしようもなかった。
それは、私が最後、師匠と話せたから思えるのかもしれない。
「……見守っててくれている」
「ナーガ君……うん、そうだね」
三人で、もう一度手を合わせる。
「月に一度は顔を出したいところだが……」
「流石に無理じゃない? 即位式が来月にはあるんでしょ?」
「……スタンピードで俺らも出かける」
ナーガ君とレウスとアルス君は、獣王国から依頼があり、そちらのスタンピードに駆り出されるのがほぼ確定した。ルストさんもついていくらしい。
ティガさんもツルギさんに頼まれる仕事を引き受けることになり、ルナさんとリュンヌさんは留守番すると言ってるので任せる。クロウも留守番組となる。
ナーガ君がテイムした魔物もいるので、多分、大丈夫だろう。
「ばらばらだな」
「……あんたが出ていったんだ。それに、帰ってくる場所は一緒だろう」
「そうだね。とりあえず、私は明日からキノコの森に行って、素材を大量に入手してくる」
流行り病の件で、派遣されるまでの間に、出来る限り薬の用意と素材の用意が必要だからね。
「……聞いてない」
「一人でも大丈夫だよ? モモとシマオウ連れて行くし」
モモの生まれ故郷な訳だし、連れて行く予定だ。
一人で危ないというなら、ちゃんとペットを連れて行けばいいだろう。
「……俺らも行く。まだ、攻略していないしな」
「いや。私は、今後、攻略しないことにする。40階のボスは挑むかもしれないけど……B級以上の冒険者になる気はないから。実績作らない方がいいと思う」
「戦力として駆り出されないようにするなら、それもありだろうな」
そもそも、マーレにいるのはB級からD級が多い。キノコの森ダンジョンを攻略していても、問題はないのだろうけど。
あまり冒険者等級を上げ過ぎると、スタンピードの度に色々と派遣されることになりそうだからね。すでに、変に目を付けられているけれどね。
キノコの森に入れれば十分ということで、功績は上げない。
「ということで、私は一人で大丈夫。ナーガ君は自分のことに集中してね」
「……」
ナーガ君は納得していない顔をしているけれど。
「じゃあ、俺は行く。またな」
「……ああ」
「元気で。年明けには会えたら嬉しいです」
「まて! 年明けって、3か月以上先じゃないか! そんなに間を置く気はないからな」
いや。絶対に忙しいから無理だろう。
カイア様も今回は事情が重なったから参加しただけだろうしね。
「ふっ……」
「ナーガ! 笑い事じゃないからな」
不満そうなツルギさんをカイア様に預けて、見送った。
何だかんだと責任感がある人なので、仕事を放棄はできないだろうしね。
ナーガ君だって、獣王国に行くとなると数か月帰ってこない可能性もあるのだから、構わないだろう。
「……本当に一人で行くのか?」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
危険は察知できる。
それに、しばらくは貴族たちの目もあるので、離れておきたいんだよね。
一応、この地から去ったけど、マーレにいるみたいだしね。
一週間くらいなら、キノコの森で過ごしていよう。
後書き失礼いたします。
コミカライズ、12月17日(水)より始まりました。
ヤングアニマルWebとマンガPark(白泉社公式アプリ)で読むことができます。
林ふみの先生が、面白くスピーディーに描いてくださっています。




