22話 狼
青い珠を手に入れたケビンは、次の目的地へ向かう。
しかし途中、狼の群れに襲われる。
22話 狼
何だかトントン拍子に事が進むようで、逆に不安になる。
ケビンは、湖の中の岩場に戻った。
《ザギ、どう?》
《あと少しだ。 精霊はどうなった?》
《元気になって消えたよ》
《それはよかった、っと! よいしょ! っとくらぁ!······よし!》
《出た?》
《おう! やっと穴が出てきた。 岩の上から岩が被さっていた。 噴火か何かで、この上に飛んできたのかもしれん》
ザギは湖面に向かって泳いできて、ザザッと水から顔を出した。
湖面が揺れてピチャンと水がかかる。
『で、これからどうしよう······とりあえず潜ってみるか?』
心配そうなザギを他所に、ケビンはフフフとイタズラっぽい笑いを見せた。
「青竜のスイランさんから、いい事を教えてもらったんだ」
『なんだ?』
「湖の中に泡を出している水草があるはずなんだ。 それがあると、水の中でも息が出来るらしい」
『そんな物があるのか! 泡を出している水草だな。 ちょっと待ってろ』
暫くすると、ザギが沢山の水草をくわえて上がってきた。
『これか?』
ケビンは少し口に入れて噛んでみた。
「ぶっ!」
口から青臭い香りと共に空気が吹き出す。
「凄い! 思った以上に空気が出る!」
少し練習をしてからザギに掴まり、湖に潜った。
小さい魚達が、キラリと光の残像を残しながらケビンの前から逃げて行く。
湖底に近づくにつれ、大きな魚がザギやケビンを気にする事なくすぐ近くをすり抜ける。
《綺麗だよね。 水の中って》
《そうか?》
感動のない奴だ。
水草を噛む度、口から空気の泡がブクブクと湖面に向かって浮かんで行く。 空気の出が悪くなると、新しいブレスグラスを口に含んだ。
なんとも不思議な草だ。
ブレスグラスを三回含み直した頃、湖底に着いた。
《この岩の中だ》
三角だった岩の形がザギに壊され、歪な四角になっていて、横に小さな穴が開いている。
覗き込むと青い珠が見える。 腕を差し込み珠を掴みポケットに押し込む。
《いいよ》
ザギはゆっくりと浮上した。
◇◇
岸に上がり、火を起こして濡れた服を乾かして体を暖めた。
思った以上に疲れている。 横になると、自分の重みがズンと伸し掛かる。
まだ寝るには早いが、癒しの盾を腕に通してザギにもたれると、そのまま眠ってしまった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
朝、上着を着ようと手に取ると、思った以上にボロボロなのに気が付いた。
背中は焦げていくつも穴が空いているし、あちらこちら破けている。
カバンは取り敢えずは大丈夫だが、焦げて破れかけているし少しほつれもある。
知らないうちにカバンから珠を落とさないか心配になってきた。
「ザギ、鍵の場所まで遠い?」
『どうした? ここからだと、一週間位かな?』
「カバンが破れて珠が落ちないか心配になってきた。 溶岩が当たった所が破けそうなんだ。 小さくてもいいから珠を入れる袋があれば、安心なんだけど······」
『私がドドンド村まで行って貰って来ましょうか?』
と、ハリス。
「それは助かる、頼めるか? 虎の皮がまだ残っていたので、あれで丈夫なのを作ってもらってきてほしいんだ」
『承知しました。 しかし上からの見張りが無ければ、警戒が疎かになります。 くれぐれもお気をつけて』
ハリスは飛んで行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
た······大変だ!!
ハリスが居なくなった途端、獲物が罠に掛からなくなった。
今まで食べ物に困らなかったのは、ハリスのお陰だった事が判明した。
当分は木の実や果物でしのげる。 思った以上に自然の恵みは多い。
ここは小川や湧水は多い。 1日1度は雨も降るので水には困らない。
湖ならザギが魚を取ってきてくれる。 しかし、ザギが入れない程の小さな川なら自分で魚を取らないといけない。
そんな事に護りの剣を使いたくない。
そこでサザンガに教えてもらった槍を作ってみようと思った。 丁度良い石を見つけたからだ。
もう2~3日待てばハリスも帰ってくるだろうが、試してみたくなった。
よさそうな枝を見つけて形を整え蔓で石を括り付けた。 なかなかの出来映えのが出来た。
小川で魚を取る。
僕って天才?
簡単に取れた。
魚を焼いていると、突然ザギが緊張する。
『ケビン! 囲まれた! 気配を覚られないように、かなり遠巻きに四方から近付いて来たようだ。 多分狼だろう。早く乗れ!』
もう直ぐ焼ける魚に未練を残して槍を掴み、飛び乗ると同時にザギは駆け出した。
前から1頭飛び出してくるのをザギがダッと飛び越えた。
直ぐに後ろから襲ってくる狼に槍を振り下ろすと、キャイン! と鳴いて藪の中にザザッ!と、突っ込んでいく。
『右だ!』
右から飛びかかる狼を槍で突き、半円を描いて反対側からくる狼に上から振り下ろす。
ザギの腰に飛び乗ろうとする狼を払い、次にくる狼に槍を突き出すと、槍がポキリと折れた。
槍を放り投げ剣を抜こうとした時、ザギが狼に足先を噛みつかれ、バランスを崩してドウッ!!と倒れた。
ケビンは一回転して立ち上がり剣を抜いた。
狼は一旦止まり、遠巻きに獲物を観察する。 その間に癒しの盾を腕にはめた。
30頭近くいる。
幾つもの鋭い目が隙を狙おうとこちらを伺う。
ガルルルル!と、鋭い牙をむき出しにして低い唸り声をあげ、背中の毛を逆立てながら、右へ左へゆっくりと移動する。
『すまん、油断した』
「とにかくどうにかしてこの場を切り抜ける事が先決だ」
大きな木を背にして狼に対峙し、剣を構える。
1頭がゆっくり前に出てきた。
それに続き後ろの狼達が近づく。
始めの1頭が飛びかかって来るのを皮切りに次々と襲ってきた。
剣で払い、袈裟懸けに切り下ろし、盾の端で殴り蹴りを入れる。
ザギも前足で上から叩きつけ、角で吹き飛ばし、後ろ足で蹴りあげる。
6頭程が動けなくなった所で、狼は一旦引いた。
また遠巻きに獲物を睨み、位置を移動しながら隙を伺う。
そしてまた襲いかかってきた。
三度目に狼達が引いた時には、動ける狼は10頭程に減っていたが、ケビンは肩で息をしている。 何ヵ所か咬まれ、血で剣が滑る。
ズキズキ痛む傷を我慢しながら、血で濡れた手を服で拭き取り、剣を握り直した。
再び襲いかかろうとにじり寄ってきた時、突如狼達が動きを止めて上を見上げて後退る。
つられて上を見ると、小さな竜が飛んできた。 スイランだ。
『あなた達! 何をしているの! 下がりなさい!!』
あのおっとりしたスイランが凄い気迫で命令すると、狼達は尻尾を丸めてスゴスゴと下がっていき、少し離れた所で伏せた。
『ケビン! 大丈夫?! もっと早く気付けばよかったんだけど、ごめんなさい!』
「スイラン、ありがとう助かったよ」
ケビンは木にもたれて座り込んだ。
「精霊ってこんな事も出来るんだね」
ケビンは大人しく離れて伏せている狼達を見回した。
『こんな事も出来るのよ』
スイランはケビンの傷に小さな手を当てた。
「つっ!」
ケビンの傷に触れたスイランの手元が僅かに光を発したかと思うと、スッと痛みが引いた。
咬まれた傷にスイランが次々に手を当てた。
見ると、傷が無くなっている。 破れた服と赤い血のみが、そこに傷があったであろう事を物語っていた。
「凄い! ありがとう!」
『放っておいても癒しの盾があるから直ぐに治ったでしょうけど、ちょっと傷が深いから時間がかかったかもね』
『スイランと言ったか。 すまない。 ありがとう』
いつになくザギが神妙だ。
『いいえ。 私を助けてくれたのはあなたでしょ? こちらこそありがとう』
『ケビンが見つけたから······』
消え入るような声で答えた。
『もう1つ。 お礼と言っては何だけど、暫くの間、狼達を護衛に付けるわ』
それだけ言うと、ポン!と消えた。
10頭程は死んでしまったが、残りの20頭がケビン達を取り囲みながら次の場所へと移動した。
またスイランに助けてもらいました。
良かったね。
(^_^;)




