6話 お願い
ケビンは何とかして、父親カイルの許可をもらおうと、あの手この手でお願いする。
6話 お願い
夜、ベッドの中で[レジェンド·オブ·レジェンド]を開き、他に手掛かりがないか探したが、何も見つからない。
仕方がないので北の地の地図が載っているページを開いた。
多分下の方がこちら(アルタニアのある大陸)だと言っていたので、北の地には船で海を渡らなければならないようだ。
しかし、あちらもかなりの大きさだ。
少し横長の大陸の丁度真ん中辺りにドラゴンの模様がある。
山のマークに囲まれたその場所の近くには町はなさそうだが、いくつかの大きな街がありそうだ。
点々と町のマークが書かれていて、大きな街は線で囲んである。
「どうせなら町の名前も書いてくれればいいのに」
『その本はかなり古そうだから、地図通りとは限らんぞ。 その地図が正しいとも限らんし』
「それもそうだね。 でもきっと大丈夫」
その自信はどこから来るのか?
「明日も頑張ってお父様にお願いしよう!」
『おう!』
◇◇◇◇
翌日から[ケビンのお願い]攻撃が始まった。
会議室から出てきた父を捕まえた。
「お父様お願い! ザギもいるし、グルタニアまでも1人で行けたんだから、大丈夫だよ」
「グルタニアへ行ったのは、1人じゃないだろ? アルナスに連れていってもらって、あとはグラードさん達が一緒だっただろう」
「·········」
言われてみればそうだ。 思わず言葉に詰まってしまった。
「お父様はザギがお父様の契約相手じゃないからそんな事言えるんだ。 アルナスやカイザーだったら、仕事なんて放ったらかしで行くでしょ?」
「そうかもな。 しかし、お前はダメだ!」
ケビンとザギは腕を組んでプゥ~ッと膨れてみせた。
「ダメなものはダメだ」
ケチ!
ケビンは週に一度、謁見に訪れる者達と父の話しを幕の内側から聞いている。
謁見者が帰る度に幕から顔を出し、父に向かってウルウルしてみたが、玉砕。
トイレが出てきた父を待ち伏せしてみた。
驚かれたが、やっぱり玉砕。
エバンス宰相と話しながら廊下を歩く父を見つけた。 駆け寄ってお願いしたが、無視されてそのまま話しながら通り過ぎようとした。
「うえ~~ん!」
ケビンは座り込み、今度は泣いてみた。
「ザギが可哀想! 誇り高きドラグルなのに、こんなに小さくって! 僕もまたザギに乗りたい~! やっと鞍無しで乗れるようになったのにぃ~!」
父はチラリとケビンを見たが、そのまま歩いていった。
またまた、玉砕。
「よろしいのですか?」
「·········」
エバンス宰相が少し心配そうに振り返る。
「カイル様もあの年頃には大きな試練を越えられて来ました。 お許しになっては? 何があってもザギが守ってくれるでしょう」
「·········」
二人は執務室に入った。
「お許しにはならないのですか?」
「······他に手掛かりは?」
「残念ながら、まだ何も······
カイル様。 ケビン様はカイル様のお子様です。 ヤンチャですが、聡明なお方です。 今回のグルタニア行きでも、随分逞しく成長されたようにお見受けしました。 大きな苦難を乗り越えてこそ、将来立派な国王と成られると思います。
お許しになってはいかがですか?」
「父親としては行かせてやりたい気持ちはある。 ザギも心配だ。 しかし[魂を共有せし者と試練に立ち向かい]とあった。 魂を共有せし者とは契約者の事だろう。 まだ子供のケビンに試練など受けさせることは出来ない。 ましてやこの私でさえ行った事もない見知らぬ土地になど······」
エバンス宰相は返す言葉が見つからなかった。
そしてカイルはボソッと呟いた。
「国王として世継ぎである皇太子をそんな危険な場所へ赴かせる訳にもいかないだろう······」
そこへノックがあり、ケビンとザギがドアから顔を出した。
「お父様、お話しがあるのですが」
『話がある』
父が何も言わずに見ているだけだったので「失礼します」と、入ってきた。
「お父様。 僕、思ったのですが、やはりドラグルのボスであるザギをこのままにしておく事は出来ません。
今回グルタニアに行って色んな事を学びました。 きっと今度もいい勉強になると思います。 こういう旅も必要な事だと思いませんか?
それに剣の腕もかなりなものだとトマス先生が言ってくれていますしザギもいますから大丈夫です。
必ず何か手掛かりを掴んで戻ってきます。 ですから、許可を下さい」
『そうだ、私がいる。 ドラグルの姿は小さいが、5種の動物が私の中には有る。 命を懸けてケビンを護ってみせる。 約束する。 だから許可をくれ』
「·········」
今回は[真剣]作戦に出た。 父も頭ごなしに反対せずに、とりあえず話を聞いてくれている。
もう一押しだ!
「それに、もし僕に何かあっても、弟のコルトロッドがいるから······」
「バカ野郎!!」
カイルはテーブルを叩いて立ち上がった。
「お前はその程度の決意で行きたいと言っているのか?!」
ケビンは気圧されて、一歩下がった。
「あっ! えっと······」
「どれだけ大変な事をしようと思っているのか分かっているのか?」
「あの······」
「宿の泊まり方は分かるのか? いや、多分宿など殆ど無いだろう。 そういう時には民家を探し、納屋や離れを借りるように自分で頼みに行かなくてはならない。 宿代は、ただではない。 金を払うか、労働力で支払う。 トムの農場で働いているから仕事は問題無いだろうが、路金がなくなれば、そういう所で暫く働けば少しは賃金をくれる。
しかし民家も無い場合の方が多い。 そうなれば野宿だ。 獣が寄ってこない様に火を焚いておく必要がある。 焚き火のやり方など知っているのか? 周りに草があれば燃え移って火事になる。 大きすぎてもダメだが、小さすぎてもすぐに燃え尽きる。 加減が難しい。
それに北国と言えば、きっと寒いだろう。 防寒着がいるが、足りなければ獣を狩って皮をなめせばいい。 しかし、お前に動物が殺せるとは思えんし、なめし方もわからんだろう。
飯も自分で調達しなければならない。 木の実とかは北国だからあまり当てにはしない方がいい。 魚を取るか獣を狩るかだが、お前に動物を狩ることができるか? 生で食べるわけにもいかんから、捌かなければならない。 そんな事が出来るのか? それから、あれも、これも······」
カイルは怒りながら、どう考えても旅のレクチャーをしている。
ケビンもいつの間にかメモを片手に聞いていた。
「だからダメだ!」
何がダメなんだか。
ケビンは「すみません」と言って出ていった。 足音が聞こえなくなるのを確認してからエバンス宰相が、くすっと笑った。
「思いっきり説明されましたね」
「言い忘れていることは無かったか?」
「護りの剣と癒しの盾が必要なのでは?」
「そうだ! 忘れていた。 それと、地図も持って行くことを忘れないだろうか?」
やっぱりレクチャーしてたんだ。
「ケビンに分からない様に路金と必要な物を用意してくれるか?」
「承知しました」
その日から[ケビンのお願い]はピタリと止み、今度はあちらこちらで色々な人に[教えて]攻撃が始まった。
焚き火のやり方や釣りのやり方。 狩りのやり方に、皮のなめし方など、色々な所で教えてもらっていた。
いいとは言わなかったが、許可してもらえたみたいですね。
北の地に行くのでしょうか?
(^_^;)




