番外編 ザギのピース
グルタニアから、ニックの所に来たザギ。
ザギは鷲の姿で飛んでいた。
この美しい大陸が好きだ。
緑豊かなこの地が好きだ。
初めはドラグルの姿で飛び回っていたが、人間がやたら気にする。
指差し逃げ回る者もいる。
しかし鷲の姿でいれば、近くを飛んでいても誰も気にしない。
優雅に飛び回り、たまにはユニオンの森を訪れ、ユニオン達と世間話をして時間を潰す。
最近はドラグルの誇りは何処へやら。
ニックが厩舎の仕事の時は山羊の姿で付いて回り、出かける時は鷲の姿で付いていく。
ドラグルの姿はここでは何かと不便なだけだ。
実はちょっとだけ、カイザーやアルナス達が羨ましかった。
常に動物の姿でカイルと行動を共にしている。
以前、カイル達とグルタニアから来る時も、鷲の姿でカイザー達の隣に並んでマストに止まって過ごした事がある。
何故あんなにドラグルの姿にこだわっていたのか分からなかった。
今、ザギの一番の興味は動物の出産だ。
ユニオンビーストは子孫を増やすという概念がない。 いや、能力がない。
気がつくとそこにいるのだ。
動物から小さな動物が出てくるのが、不思議でたまらない。
この前、エリアスに子供が出来たと聞いて、カイルに『出てくる所を見たい』と言ったら、物凄い剣幕で怒られた。
牛や豚の出産は見ていいのに、なぜ怒られるのか分からなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
今日も空の旅を楽しんでいたら、ボルスマ国の王都の門の前でユニコーンを連れた一団を見た。
檻に被せた布が、たまたま落ちたのだ。 その檻の中に、確かにユニコーンがいた。
そのままボルスマ国王都に入って行ったのだが、これはドラグルにとって一大事だ。
ユニコーンはグルタニア国にしかいない。 というより、ユニコーンはあの島国でしか生きられないのだ。
なぜかあの島を出ると、ユニコーンは一年も生きていられない。
そして、ユニコーンはドラグルの唯一の友達といえる。
他の動物達はドラグルの気配を怖がって近づこうとしないのだが、ユニコーンも霊獣の一種で、言葉は通じないが、ドラグルを怖がる事なく寄ってきてくれる。
彼女達の気は、とても心地いい。
何頭かはグルタニアの人間と一緒にいるが、それはそれで彼女達が幸せそうなので構わない。
しかし、グルタニアから連れ去られるとなると話は別だ。
今、ユニコーンは300を切る程しかいない。 それが全てだ。
ドラグル同様、子供を作るという事はないのだ。
慌てて後を追ったが再び布をかけられていて、他にも同じような集団がいくつもあったので、どの荷車だったかわからなくなってしまった。
ザギは急いでカイルの元に向かった。
ユニコーンの事を説明し、何処に行ったのか調べてほしいと。
自分は一度グルタニアに戻って調べてみるので、ニックにも事の次第を伝えてもらうように頼んでラングリーの港へ急いだ。
[ドラゴンフライ]号を見つけて、ドラグルの姿で甲板に降りた。
以前にも乗った事があるので、船員達とも顔見知りだ。
ザギが来た事を聞いて船長のグラードが出てきた。
「どうした? ザギ。乗るのか?」
ザギは頷いた。
「グルタニアに行きたいのか?」
再び頷いた。
「丁度良かった。 明日の朝出港する」
ザギは鷲の姿に転身し、マストに止まった。
翌朝出港し、嵐の時はグラードの部屋に入れてもらった。
嵐を過ぎると、グルタニアが見えてきた。
ザギは甲板に出てドラグルの姿に転身し、飛び立った。
グルタニアに着く前にドラグル達がザギの気配に気付いて飛んできた。
『ボス、どうしたのです? ずっとあちらに居着くような事を言っていたのに。 何かあったのですか?』
『大陸にユニコーンがいた』
『?! 確かですか?』
『そうだ。 お前達、知らなかったのか?』
『初耳です』
『ゴトーとシャーザを呼んでこい』
1体が、城の方へ飛んで行った。 直ぐにザギの所にゴトー達が来た。
子細を話すと、調べて来ますと、シャーザはゴトーに飛び乗り戻って行った。
戻って来たシャーザが言うには、数ヶ月前にボルスマ国の商団が来たそうだ。
普段は仲介業者が来るのにおかしいとは思ったが、特に変わった動きには気付かなかったそうだ。
次にボルスマの商団が来るときには知らせてほしいと、お願いしておいた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
カイルが調べさせたところ、ボルスマ国の大富豪が大金を払って人を使い、ユニコーンを捕らえて来させた事が分かった。
見つけた時には既に一年近く過ぎていた。
ユニコーンは痩せ衰え瀕死の状態で、今日明日の命だったという。
カイルが駆けつけた時には既に死んだ後だった。
カイルは転身させたユニオンビースト達と共にその富豪の所へ押し掛け、二度としないように、脅しを入れながら厳重注意をしておいた。
(殆ど脅しだったが········)
◇◇◇◇◇◇◇◇
ザギはボルスマ国の商船を待った。
なかなか来ない。
気付けば2年が過ぎていた。
ユニコーン達に囲まれ、ゆっくりと昼寝を楽しんでいると、ゴトーとシャーザが来た。
ボルスマの商団が来たのだ。
ボルスマの猟師は森に罠を仕掛けている。 ユニコーンの頭の高さの木の間にローブをかけた。
三人が隠れている。
残りの者達がユニコーンを追い立ててきた。
逃げるユニコーン達はまんまとその木の所へ追い立てられ、一頭が罠にはまった。 凄い勢いで逃げようと暴れる。
隠れていた人間がもう一本ローブをかけ、追い立てて来た者も加勢して取り押さえ、ユニコーンはやっと大人しくなった。
「手間かけさせやがって。 へへへ これでまた暫くは贅沢出来るぜ」
「しかしエグンス、前に大金を払ってくれたヨルドールさんは、取引に応じてくれなかっただろ? 今度の人は大丈夫なんだろうな」
「ちょいと渋っていたが、これを見ると絶対払ってくれるさ」
「まぁ、そうだな ハハハハ」
その時、周りの藪の中からガサガサと音がしたかと思うと、グルタニアの兵士がバラバラと出てきた。
あっという間に取り囲まれた。
「この国で、何をしている!」
「み·····見ての通りユニコーンを捕まえているんでさ。 ユニコーンを捕らえてはいけないという法律でもあるんですか? この国の兵士がユニコーンに跨がっている所を見た事があるんで、俺達も····なっ」
「ユニコーンはこの島を出ると、死んでしまう事を知っているのか?」
「えっ?」
「ドラグルを知っているな」
「?」
「この島にいるドラゴンだ」
「あぁ、それが何か?」
すると周りに幾つもの大きな影が横切ったかと思うと、バキバキと木々を薙ぎ倒し、上から何頭ものドラグルが降り立ち、回りを取り囲んだ。
「ひぃ~~~~っ!」
「ドラグルは、ユニコーンと仲がいい。 ちょっと怒っているそうだ」
するとザギ達ドラグルは空に向けてゴウッ!と凄まじい炎を吹き上げた。
「ひ···ひぇ~~~~~っ!!!」
ザギは鼻から煙を吐きながら、猟師達に顔を近づけた。
「もうしません! お助けを~~~!!」
グルタニア兵がユニコーンの首からローブを外すと、ユニコーンはさっさと逃げて行った。
そして兵士達に引っ立てられて行く猟師達をみて、ザギは『フンッ』と鼻から煙を吹き出し、満足そうだ。
それからはユニコーンの側には常にドラグルの姿があり、誰もユニコーンに近付く事が出来なくなった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ザギは帰る事にした。
ニックが首を長くして待っているだろうから。
ザギはドラゴンフライ号を待ち、再び大陸に戻った。
『ニックの奴、心配してるだろうな·······』
ザギが農場に近付くと、案の定ニックが大きく手を振って待っていた。
ザギが近くに降り立つと、ニックが走って来た。
「ザギ、ユニコーンの事は解決したの?」
ザギは頷いた。
「そうか、よかったね」
もっと熱烈な歓迎をしてくれるかと思っていたのに、ちょっと拍子抜け。
気付けばニックの肩に何かいる。
·····鷹?
「あっ! 紹介するね[ジジ] この子と契約したんだ!」
『よろしく、ザギさん』
『···········』
何だか寂しい。
ニックは契約者ではないのに、この焦燥感は何?
心の中にポッカリ穴が空いたようだ。
いや、前からその穴はあった。
ニックに出会い、穴が塞がった気がしていたが、常に心の奥底では物足りなさがあった。
ニックはいつもと同じように接してくれる。 今度はジジが通訳してくれるので話は弾むが。
······何だか寂しい。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ザギは鷲の姿で大空を飛んでいた。
今回は少し足を伸ばしてエグモントの上空まで来ていた。
以前に聞いていたほど酷い状態ではなく、普通に人がいて街にも活気が溢れていた。
その時ふと、帰りたいと感じた。
『帰ろう』
農場に向かったが、帰りたいという気持ちがどんどん大きくなる。
『急がなければ』
なぜか焦る。
ザギはドラグルの姿に転身し、スピードを上げた。
『早く!早く!』
凄まじいスピードで飛び、農場に舞い降りた。
そこにはカイル達が来ていた。 毎年恒例の休暇だ。
ザギはカイルの足元にいる小さな人間に目が釘付けになった。
「やぁ、ザギ」
ザギから返事がない。 足元の子供をじっと見ている。
「あぁ、この子? 今回初めて連れてきた。 私とエリアスの子供のケビンスロッドだ」
『ケビン······』
ケビンは、ザギが気に入ったようだ。
「鳥さん 鳥さん」と言いながら、ヨチヨチとザギに向かって歩いてゆく。
ザギは頭を地面に付け、ケビンが近付くのを待った。
ケビンが顔の近くまて来ると、ケビンを倒さないように、大きな舌でそっと口を舐めた。
「「「!!!」」」
『ケビン、ザギだ、よろしく』
「よろちくおねがいちまちゅ」
ケビンは小さな頭を下げ、やっとたどり着いたザギの顔にしがみついた。
カチッと、心に空いた穴にピースがはまった音が聞こえた気がした。
『これが契約するということか! 何と満たされる。 ケビンの心が私の中に入り、この大きな体を包み込んでくれる。 ケビン! これからはお前といつも一緒だ!』
ザギはケビンの大きさに合わせて、大トカゲの姿に転身した。
ケビンがキャッキャと喜び、小さくなったザギの上に跨がろうと一生懸命だ。
ザギは地面に伏せ、ケビンが乗ったのを確認すると、ゆっくりと歩き出した。
『ハハハハ! 楽しいか!······そうか、楽しいか、ハハハハハハ!!』
驚いて見ているカイル達を他所に、ザギとケビンの笑い声だけが、いつまでも聞こえていた。
E N D
レジェンドオブレジェンドを読んでいただき、ありがとうございました!!
この後、カイルの子供のケビンとドラグルのザギのお話を書いています。 よろしければ続けてお楽しみください。
杏子でした。




