14話 心強い仲間
グルタニアへ出発する前日、集まったドラゴンフライ号の船員達と······
14話 心強い仲間
「よし! 積み荷はこれが最後だ。 みんな! 集まれ!」
グラードの号令で全員甲板に集合した。
「みんな、ご苦労だった! 明日から一ヶ月間海の上だ。 今日は思う存分陸を満喫しておけ!」
「「「おお~~~っ!!」」」
「ただし! 明日の出航に遅れた奴は置いておくぞ! 分かったな! 解散!!」
船員はバラバラと船から降りて行った。
カイルも降りようとした時、後ろから肩を叩かれた。
グラードだった。
「おい! どうせ暇だろ。 今日も付き合え」
髭だらけの顔をクシャとして、人好きのする笑いを見せた。
いつもの店に入ると既に沢山の船員がテーブルに着いていた。 今日は貸切状態のようだ、
「船長! こっち!」
確か名前が[ランドル]という船員に呼ばれ、カイルもその輪の中に座らされた。
「カイル、お前よく働くな。 このまま船員にならないか?」
「それもいいですね」
カイルは苦笑した。
「お前はどこから来た?」
「ずっと北のアルタニアという国からです」
「アルタニア? お前知ってるか?」
ランドルは横に座る男に聞く。
「知らないのか? アルタニアといえば、ユニオンビーストに襲撃された国だよ。 大変だったな。 でも、もう大丈夫なんだろ?」
「はい」
カイルの知らない遠い国の人がアルタニアの事を知っていて、心配してくれる事が嬉しかった。
「でも、その後ユニオンビーストが街中に入り込んでいるというのは本当か?」
「本当です」
「自分の国を襲った奴らだろう? 怖くはないのか? また、襲われたりしないのか?」
カイルは、やはり本当のユニオンビーストを知らない人の反応はこうなのだと苦笑した。
「アルタニアを襲撃したユニオンビーストは、ある人間に操られていました。 襲撃したのは彼等の意思ではありません。
現に、操られていないユニオンビースト達の協力が無ければアルタニア奪還は、成し得なかったでしょう」
「ユニオンビーストと協力? 奴等と意思の疎通が出来るのか?」
「彼等は人間の言葉を理解します。 人間には彼等の言葉が分かりませんが」
「じゃあ、どうやって協力したんだ? 一方的に話すだけでは難しいだろう?」
「ユニオンビーストはこの人だと感じた人間と契約します。 そうすれば契約者と会話が出来るようになります」
「契約? 魂を食われたり、寿命を吸い取られたりするんじやないだろうな?」
カイルは自分も同じような事を言った覚えがあるので、クスッと笑った。
「いいえ。 人間の方は契約したユニオンと会話が出来るようになる事以外は何もありません」
「じゃあ、死んだら死体を食われるとか」
「いいえ。死ねば契約が切れるだけです」
「人間の方はという事は、あっちには何かあるのか? 元々人間の言葉は分かるのだろう?」
「はい。 彼等は契約すると契約者と心が繋がるそうです。 どんなに離れていても契約者の感情が分かるし、居場所も分かるそうです」
既にカイルの周りには人だかりが出来ていた。
「よく知っているな。 もしかしてお前、ユニオンビーストと契約していたりして······」
グラードに言われ、カイルは少し迷った。 しかし、この人達には話しておいた方がいい気がした。
「······はい。 しています」
「「え~~」」「「おぉ~~~」」 色んなどよめきがあった。
「カイルと契約しているユニオンビーストは今どこにいるんだ?」
ランドルは興味津々だ。
周りからの好奇の視線の中、カイルは横にいるイザクとアルナスに手を置いた。
「······ここに」
「「ええ~~っ!!」」
「「おぉ~~~っ!!」」
全員が何かしらの反応を見せる中、グラードだけは落ち着いていた。
「······もしかして、あの鳥達もか?」
「全員ではありませんが」
「では、アッシュといた奴もか?」
「はい。 アッシュと契約しています。 もう一人連れがいるのですが、彼にも契約したユニオンがいます」
「三人共?······何者だ? お前達は······そもそも何しにグルタニアに行くんだ?」
「······」
カイルは言いあぐねて黙ってしまった。
「まぁいい。 では、こいつらに危険はないのか?
これから一ヶ月間こいつらと同じ船の上だ。 一度乗せると言ったからには今更乗るなとは言わねえ。
但し俺は船長だ。 乗組員に何かあっては困る。 大丈夫だという保証はあるのか?」
「保証と言われても、 絶対に大丈夫としか言いようがありません」
「······そもそもユニオンビーストとは何だ? 俺はもっとばかでかくて恐ろしい姿をしていると聞いたぞ。 でもそいつらはどう見てもただの狼と猿じゃないか」
「ユニオンビーストは、幾つかの動物が合わさった姿をしています。 そして、体の中にある動物に転身する事が出来ます」
「転身?」
「アルナスの場合」カイルはアルナスの頭を撫でた。
「五種の動物が有りますから、五種類の動物の姿になる事が出来ます」
「「へぇ~~」」「「ほぉ~~」」
「ユニオンビーストは争いを好まず、大変慈愛深い種族です。 今、アルタニアでは多くの人が彼らと契約していますが、ユニオンが関わった事件は一件も聞いたことがありません。
それどころか犯罪件数が極端に減ったと聞いています。
こういう事では保証になりませんか?」
グラードはじっとカイルの顔を見ていたが、顔をクシャっとして、あの人好きのする笑顔を見せた。
「よし! お前を信じる! そいつアルナスだったな。 肩の猿は?」
「イザクです」
「アルナス、イザク。 よろしく」
アルナスとイザクは頷いて見せた。
「ほお~~、挨拶を返しているぞ」
周りが感心していると、後ろの細身の男が遠慮がちに聞いてきた。
「カイルさん。 僕は猿が大好きなんだ。 イザクちゃんに触ってもいいかな?」
するとイザクはその男の肩に飛び乗り、長い尾をその男の首に巻き付けた。
「おお~~! 来てくれたぞ! 可愛いな。 俺はギース。 イザクちゃんよろしくな」
「ウキキィ」
「聞いたか! 返事してくれたぞ!」
「イザク。 俺の所にも来てくれ」
ギースの横にいた男が言うと、イザクはそちらに飛び移った。
「わぉ! 柔らかいなぁ。 可愛いもんだ」
「いつになく褒められて、イザクは照れています」
カイルの言葉に笑いが起こった。
「俺は犬派だ。 アルナスを撫でてもいいかな?」
「もちろんです」
数人の手が伸び、アルナスを撫でた。 アルナスも盛大に尻尾を振って見せた。
一人の男がアルナスを撫でながら、少し自慢げに口を開いた。
「そういえば、グルタニアにはドラゴンがいるんだ。 俺、一度見た事があるんだ。 すげーデカくてカッコ良かったぞ」
「俺も見た」「俺も」
カイルの顔が一瞬曇ったのをグラードは見逃さなかった。
「あれもユニオンビーストだったりするのか?」
「はい。 あれは特殊なユニオンで、ドラグルという種族です」
「ほぉ~~流石によく知っているな。 それなら見た目は恐ろしいが、いい奴なのか? もしかして違う動物の姿でこの町にも潜んでいたりして······」
「ドラグルは自分達の姿に誇りを持っていて、転身は出来るけれど他の姿にはならないそうです。 ですからこの町に潜んでいるという事はありません。
ただドラグルは同じユニオンと言っても、好戦的で凶暴な種族です。 見かけても決して近づかないでください」
「よく知っているな······ドラグルと会った事があるような口ぶりだ」
「·········」
カイルの顔から笑みが消えた。
「何か···あるのか? ドラゴンと聞いた時のお前の様子は普通じゃなかったぞ。 グルタニアに行くのにも、何か訳があるのだろう?」
グラードはカイルの「好戦的で狂暴な種族です」という言い方にも険を感じた。 終始穏やかなカイルの口調に違和感を感じたのだ。
しかしカイルは口を開こうとしない。
「俺達に出来る事があれば協力するぞ」
「·········」
グラードは下を向いているカイルの顔を覗き込んだ。
「カイル、言ってみろ。 他言はするなと言われれば、ここにいる連中は決して他の奴に言ったりはしない。 何がある?······力になるぞ」
アルナスが下から見上げた時に、カイルと目が合った。
《······話してもいいと思うか?》
《私は話しておくべきだと思う》
アルナスの言葉を聞いてカイルは意を決した。
「妻が······ドラグルに連れ去られました」
「「「!!!」」」
想像以上の返答に、全員が息を呑んだ。
「なぜだ!! ドラグルは人間を食うのか?」
「いいえ······ドラグルもユニオンです。 人間と契約します。 理由は分かりませんが、その契約者が妻を連れてくるように指示したのだと思っています」
「お前の嫁さんが、グルタニアに連れて行かれたのは確かなのか?」
「······はい······」
「お前達三人で助け出すつもりだったのか? 相手はドラグルだぞ。 俺達もそれなりに腕が立つ。 役に立つぞ」
「ありがとうございます。 でもドラグルを操る人間はそれなりの権力者だと思われます。 グルタニアと交易しているあなた方が事を起こせば、これから仕事が出来なくなるかもしれません。 それ以前に、何の関係もないあなた方を危険にさらすことはできません。 グルタニアまで送り届けて頂けるだけで充分です」
「俺達を腑抜けみたいに言わんでもらいたい!!!」
グラードの強い語気にカイルは驚いて顔を上げた。 怒っているのかと思ったら、グラードは笑ていた。
「俺達は船さえあればいくらでも仕事はある。 心配するな。 俺はお前を最初に会った時から気に入っているんだ。 関係ないなどいうな」
カイルは周りで、うんうん頷いている男達を見た。
「みなさん、ありがとうございます。 でも私達をグルタニアに連れて行っていただけるだけで充分です」
「カイル! これだけ言っても······」
「違います! 本当に大丈夫です。 今、応援が私達の後を追って来ています。 ですから······」
「応援って、何人位だ? 十人か? 二十人か?」
「······五百の騎馬兵と、多くのユニオンです」
「ご······五百?!······お···お前何者だ。 その物腰といい、只者じゃないな」
「すみません······それだけは······」
「分かった! 聞かねえ! だが俺はカイルを信じると決めたからには信じる!
よし! ランドル、お前は今回陸に残れ.五百の兵と馬とユニオンビーストをグルタニアに送らねばならない。 その辺の船乗りにはあの海は越えられねえ。 グルタニアに行ける大型船と船長をありったけ集めろ! 俺からの要請だと言えば誰も文句は言うまい。 分かったな!」
「はい! 船長!」
周りの男達も「そうだな、あの海は、経験者じゃないと無理だしな」と、言い合っている。
「そうだ!船長。 俺、ナックルに頼んでくらぁ」
「うん! 奴なら行ける!」
「俺、タラントに聞いてみる」
「それはいい」
「ガータはグルタニアに行った事は無いが、あいつの船なら大丈夫だろう」
「ガータの船なら、船長にトルーダはどうだ? 奴ならガータも船を貸すだろう」
「船長! 俺達、ちょっと行ってきます!」
そう言って数人の男達がバラバラと走って行った。
カイルはそんな男達の後姿を見送り、「大丈夫だ、カイルの応援隊は必ず送り届けてやる」と、肩を叩いてくれる男達を見回し、頷くグラードを見た。
どうしようもない不安に押し潰されそうになっていたカイルの心に一筋の光が差し込んだ。
会ってからまだ間もないというのに、本当に心強い仲間ができた。
カイルは込み上げるものを抑えきれず、涙を流しながら「ありがとうございます······ありがとうございます······」と、深々と頭を下げた。
◇◇◇◇
宿に戻り、グラード達の事を話した。
「いい人達ですね、会ったばかりだというのに」
「うん。 感謝ばかりだ······ところでローゼン、隊はいつ頃到着する予定だ?」
「騎馬五百人クラスの部隊ですので、速くてもあと三~四日はかかるかと」
「アッシュ、船の手配は?」
「隣国から軍船を借りる予定になっていますが、いつこの港に着くかはわかりませんし、話を聞いてみると、軍船と言えどもあの海を渡るのは厳しいと聞いています」
「では、ランドルさんが用意してくれる船に乗る事になるだろう。 その事を援軍に伝えておく必要があるな」
カイルは窓を開け、ハリスを呼んで説明した。
「ハリス、頼む」
『承知しました······カイル様、応援が到着するまで、決して無茶をなさらないように』
そう念押しして、ハリスは飛んで行った。
皆さんとても好い人ばかりですね。
明日からは厳しい航海が待っています。
( ゜ε゜;)




