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神様がいないこの世界で、私はあなたを愛し続ける  作者: 西九条沙羅


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エピソード ゼロ



巨大なエウロパ大陸の北と南に、巨大な帝国が存在した時代。

南のカヤ帝国は、暖かな気候により農産物に恵まれ、さらに大陸の南端のために海で取れる魚介類によって、食料自給率が100%を超え、残りを輸出するほど豊かな国であった。

さらに戦国時代には魔力を持つ人間が多く存在した為、周辺諸国をその軍事力で支配し、巨大帝国を作り上げた。


戦国時代を終えて100年以上の時が過ぎた昨今。

魔力を持たない平民でも使える魔道具の普及により、魔力持ちの価値が戦国時代とは異なりつつあった。戦国時代には魔法士と言う職業が人気を博し、戦争で功績をあげる事で家紋の力を誇示していた。特に遠距離で発動させる事ができる、精神作用系や毒素系の魔法士を抱え持つ家紋は、陞爵さることもあった。

しかし現代の平和な時代では、働く事を卑しいと考える貴族的思考から魔法士になる者はほとんどいなかった。

その一方で、魔力の持つ者の多くが貴族であった事から、今でも一種のステータスとして重宝はされている。



そんなカヤ帝国の南方に小さな領地を持つユルディズ子爵家。

領地は小さかったが、小麦の生産が盛んで裕福であった。しかもその領地が裕福であったのは立地に恵まれていたからだ。

カヤ帝国の南の端、海に面した土地は王家の所有で、皇弟が代々治めている。そこで取れる魚介類を王都に運ぶのには、ユルディズ子爵家を通らなければいけないのだ。

つまりユルディズ子爵家は、王都と皇弟の領地を結ぶ重要な中間地点であったのだ。

そんな子爵領は、道も全て整備されており常に商人が行きかう賑やかな中心地と、一面小麦畑の風光明媚な景色を併せ持つ、子爵にとって自慢の領地であった。




そんな子爵家に第一子である女の子が生まれた。

膨大な魔力を持って生まれた娘に、子爵は希望と言う意味を持つ”アマル”と名付けた。


大事に大事に育てられたアマルは、深窓の令嬢として育った。だけど好奇心が旺盛であった為、自分の知らない世界を知る事が楽しい様で、読書や勉強が好きな少女であった。


位は低い子爵家であっても、実家は潤沢な資産を持っている。しかも同年代で1,2を争う程の魔力量だと神殿でお墨付きを貰ったアマルは、一気にお嫁さんにしたい令嬢No.1 に躍り出たのだ。

しかも読書家で頭もいいとくれば、皇家からですらお茶会へのお誘いが止まない。


父親は地方貴族の為、国に領地の報告と社交をする為に1年に1度だけ王都に向う。

5歳になった頃から、両親と一緒に王都に行くようになったアマルは、皇后からお茶会に誘われて何度か参加をした。

大人しく聡明であったアマルを皇后は気に入ったが、皇子は特に興味を持たなかった為、自然と婚約者候補となる事は無かった。

そこには、アマルが未だに一人っ子である事も考慮されていたのだが。


両親にとって、くりくりとした瞳と小さな鼻のアマルは、目に入れても居たくない程に可愛い。他人からみてもアマルは愛らしい。

茶色の瞳と茶色のふわふわの髪はカヤ帝国ではありきたりだが、アマルの愛らしい見た目や小柄な体は、帝国の男子からはあまり好まれなかった。


黒い髪と黒い瞳、そして高い鼻に堀の深い美人が好まれるカヤ帝国。凹凸のあるグラマラスな体に完璧な美貌を持つ皇后が、帝国の美の基準とされていたのだ。

5歳児では未来の体形がどうなるか想像する事は出来ないが、小さな背丈と愛らしい顔から、アマルは何となく華奢に育つ未来が想像されたのだ。



子供がアルマに興味が無くても、親世代は興味津々である。


しかし子爵は、どんな高位貴族から頼まれても、アマルを愛してくれる青年と結婚をさせたいと考えていたので、親だけがアマルに興味を持っている家との縁談はのらりくらりと躱していた。



アマルが6歳になった頃から、次子が出来ない子爵夫妻は、アマルに婿を取らせる事を念頭に置きだした。

子爵が執務室から庭園を望むと、そこにはアマルと幼馴染のバイラムが仲良く花畑で花冠を作っていた。

バイラムが出来上がった花冠をアマルの頭に乗せると、満面の笑みを浮かべたアマルがバイラムの頬にチウッとする。

春の日差しの中でキラキラと輝く小さな恋。



親友の子供とアマルを引き会わせたのはアマルが4歳の頃。遊びに来た友がたまたま連れて来た彼の長男と遊ばせてみた所、二人はすぐに仲良くなった。

バイラムには弟がいたが、まだ赤ちゃんの為一緒には遊べない。もともと面倒見がよかったのか、バイラムはアマルに合わせたお人形さん遊びであっても、嫌がらずに付き合ってくれた。

そんなバイラムにアマルが懐くのは当然の事。


そうしてほとんど毎日一緒にいた二人が、兄妹の様な関係からいつ小さな恋人同士になったのか、子爵は知らない。

だけど確実に二人の関係性は変わり、小さな恋人たちは子爵邸に咲き誇る美しい花々に囲まれて、確かに愛を育んでいたのだ。



しかしこのまま夫妻に子供が生まれなければ、アマルが婿を取ってこの子爵家を継がなければいけない。女子の継承が許されていない事から、アマルの夫が次の子爵となるのだ。

いくら帝国一の商団の後継者だとしても、平民が子爵となる事は許されない。




子爵は妻と話し合い、医師に相談した。妊娠しやすい食べ物や、環境。妊娠しやすい周期を計算する。

そうして二人の努力の結果、アマルが8歳の時に第二子が生まれた。しかも跡継ぎである男児であった。子爵は大喜びし、日の出を表す”アルタン”と名付けた。




アルタンが産まれるとすぐに、子爵はアマルとバイラムの婚約を整えた。




それからの日々を、アマルは変わらずに過ごした。


大好きな読書と勉強をして、弟のアルタンを愛で、そしてバイラムと愛を育む。



そんな、代わり映えの無い日々を。



余りに当たり前すぎる日常は、気づかない程の速さで流れていく。






それから10年の月日が流れ、あと半年も経たずにアマルとバイラムの結婚式という頃、アマルは父親である子爵の執務室から異様な空気が流れている事に気付いた。

昼過ぎにバイラムの実家であるアルドゥチ商団の早馬がやって来てから、ユルディズ子爵家の家臣が出たり入ったりしている。


聡いアマルは、見聞きしたことをほとんど覚えている様な少女であった。

その為、何気なく父が話した内容や、バイラムの実家で見聞きした内容から、このカヤ帝国が今未曾有の危機に直面している事に気付いた。

しかしいくらアマルが聡い少女であっても、父親たちの話に入る事は出来ない。アマルと同じ様に、いつもと違う状況に怯えている弟の背中を優しく撫でる事しか出来なかった。



その日の夜遅くに、父親が馬で皇都に向かったと母親から聞かされたアマルは、得も言われぬ不安に包まれ、ベッドの中で眠れぬ夜を過ごした。




そして次の日の午後、皇弟アスランの領地が敵国の襲撃に合い、1日も経たずに陥落したとアルドゥチ商団から知らせが届いた。

皇弟アスランは騎士団を擁しており、普段は領地にも多くの騎士が居る筈であった。


しかし悲劇は6年前から始まっていた。



この国の皇帝には皇后との間に第一皇子が、側妃との間に第二皇子がいる。

しかし6年前に、当時14歳だった第一皇子が病気で亡くなったのだ。実際には毒で亡くなったのだが、茶器やお茶には何も含まれていなかった事から、どうやって毒が体内に入ったのか分からず仕舞いであった。その為犯人を見つける事が叶わず、そのまま第二皇子が皇太子となった。

その時に第2皇子を側妃から離して皇后の養子とする話が出たのだが、側妃が突っぱねた為、皇帝もそれを許した。

承認欲求が強い側妃は皇子の教育に良くないと、皇后と宰相、さらに皇弟までもが皇帝に進言したが、認められなかった。

それが全て裏目に出たのであった。


4年前に皇帝が病に倒れると、皇后と宰相が巨大な帝国を支えねばならず、皇弟も領地から皇城によく参内していたがそれでも手が回らず、全てに目が届かない状況下で、第二皇子の行動が傍若無人になっていった。


さらに2年前に宰相の一人息子が病で亡くなると、宰相は辞職して皇城から離れてしまったのだ。

それが、皇城にある奇跡の薬草を使えば治る病であったにも関わらず、皇家がそれを分け与えなかった事が理由であった。

それさえあれば息子は助かったのにと皇家を恨んだ宰相は、カヤ帝国の属国にされた周辺部族を唆し、皇弟の領地が手薄になっているという内部情報を漏らしたのだった。

しかし実情は、奇跡の薬草は癒し魔法の使い手である皇后ですら管理する事が難しく、ほとんどが残っていなかったのだ。与えなかったのではなく、与えられなかったのだ。



全ての歯車が噛み合わないまま動き出した未来。



それからは皇太子と皇弟の王座を奪い合う攻防が激化し、皇弟は一切領地に戻る事が出来なくなり、また自身の騎士団も皇城に留め置いてしまった。


その為、皇弟アスランの領地が敵国の襲撃に合っても、領民には成すすべもなかったのだ。




戦火はあっという間に隣のユルディズ子爵領にまで及んだ。



子爵家の人々は、子爵の帰りを待てずに逃げる準備を始めたが、彼らの想像以上の速さで敵が向かってきた。


子爵領の高台の丘にある子爵邸からは、皇弟の領地から攻めて来る敵の姿がはっきりと見えた。

彼らは街に向かう軍と、子爵邸に真っ直ぐに向かってくる軍に分かれて来た。



3階の自室のテラスから外を見ると、恐ろしい光景が目に入り、アマルはその場から動けなくなってしまった。

そんなアマルを、母親である子爵夫人が子爵の執務室へと連れて行く。



「アマル! ここはもう危険だわ。隠し部屋で息を潜めていなさい。隠し部屋から外の森に続く道があるけれど、3日間は我慢して隠し部屋に留まっていなさい。いいわね?

誰か! アルタンはいないの!? アルタンを連れて来て!!!」


夫人はアマルに説明しながら、執務室にある隠し部屋の扉を開ける。

そして大声で執務室の外へと叫んだ。

その言葉に執事長から返事が来る。


「アルタン様の姿が見えません! もしかするとバイラム様のお店に行ってしまわれたのかもしれません!」



執事長の言葉に夫人は唇を噛む。10歳になったアルタンはやんちゃで、しょっちゅう邸を抜け出して首都へと遊びに行ってしまうのだ。


その間にも、敵の軍団はどんどんと邸に近づいている。


「アマル。もう時間がないわ。あなただけでも隠れていなさい」


そう言って娘を隠し扉の内側に閉じ込めようとする母の手を、アマルは必死に掴んだ。


「お母様も一緒に!」

「お母様はここで、領主夫人として最後まで領地を守らなければいけません。あなただけでも生きてくれていたら、ユルディズ家の血は絶たれません」


アマルは大粒の涙を流しながら、いやいやをする様に首を振る。その度に流れる涙がアマルの頬を伝う。


「アマル! 若い娘が捕まったら、死ぬよりも辛い目にあわされます。あなたは絶対に逃げ切らないと!」

「お母様も同じはずです! 嫌です! 私一人では嫌です!」


今まで一度も我儘を言った事が無い娘の我儘が、一人助かるのが嫌だという事に、夫人の目から涙が零れ落ちる。


泣いて縋る娘の額にキスを落として、優しく一度微笑んだ後に、夫人は力の限りに娘を突き飛ばした。

アマルがたたらを踏んで転んだ隙に、夫人は隠し扉を閉めてしまった。


愛しているわ。


母の最期の言葉と共に、真っ暗になってしまった隠し部屋で、アマルは為すすべなく座りこんだ。

隠し扉は中からは開けられず、外からも子爵家の人間の魔力でしか開けられない構造になっていた。


アマルは涙を拭いて立ち上がると、子爵家の血筋のアマルの魔力に反応して、隠し部屋に明かりが灯った。

扉からすぐは小さな空間で、先に道が伸びている。

そこを歩いていくと、隠し部屋に着いた。

家族がそこで数日隠れていられるようにと、食料とベッドが1つと文机があるだけの部屋。さらに奥にも通路が伸びており、そこが裏の森に続いているようだ。


アマルはベッドの上で膝を抱えて座った。


物音は何1つ聞こえない。


外がどんな状態なのか、一切分からない。


ただの静寂が、アマルの恐怖心を煽る。



母親の言いつけ通り3日間待ってアマルは奥の道を辿って行ったが、正確には2日しか待てなかった。


細い道を上がったり下ったり、少し横に折れたりしながら、アマルは扉の前までやって来た。そこに魔力を通すと、重厚な扉が開いて、アマルは邸の裏の山に辿り着いた事に気付いた。そしてアマルが外に出ると扉は消えてしまった。最初からそこに何も無かったかの様に。


アマルは走った。


走って邸へと戻ってきたアマルは、裏口から中に入る。もう敵軍はいなかった。だけどそこら中に使用人達の死体が転がっていた。


あまりの人数に、アマルの感覚が少しだけ鈍くなる。


何とか2階まであがって、アマルが隠し扉に入れられた父親の執務室までやってきた。


開き放しのままの扉から中を覗くと、母親の死体が転がっていた。


人間の尊厳を踏みにじられたその死体を見て、アマルはここに戻って来て初めて叫び声を上げた。


(何故!? 何故なの!?)


アマルは泣き叫びながら3階の弟の部屋へと走る。


「アルタン! アルタン!!!」


彼の部屋にも、自分の部屋にも弟の姿は無かった。生きている人間の姿も無かった。


自室の窓から、街が見える。


アマルは、真っ赤に染まった街の様子を、茫然と見つめていた。


真っ赤な色は、家屋が燃えていたからだ。


敵軍は、虐殺をし、食料や金品を盗んだ後に、火を付けていったようだ。



「バイラム!!!」


アマルは愛する幼馴染の名を叫び、邸を飛び出した。


街に向かう道にも領民の死体が転がっている。感覚が麻痺したアマルは、それらに目を向けることなく、商団がある事務所へと向かった。


燃え盛る炎。泣き叫ぶ人々。


多くの死体を超えて、アマルはバイラムがいる支店まで走って行った。

支店の中も同じ様な惨劇であった。


見知った人間の死体を、心が凍ったアマルはかき分けた。愛する人を探す為に。



そして、建物の一番奥の部屋に、居た。


殴られて顔が腫れ上がっていてもアマルには分かった。


「ああ、・・・あああああ・・・」


嗚咽を漏らしながらアマルは彼の血まみれの上半身を抱き上げて、きつく抱きしめた。


「バイラム! バイラム!!!」


いくら叫んでも愛する青年は返事をしてくれない。


「ああ、そんな! バイラム! 嫌よ! 置いて行かないで! お母様! アルタン!  あああああああ!!!」



耐えられない現実に、アマルの心が壊れた。


「神よ! どうしてこの様な試練を我々に与えるのですか!? 何故!?」



例え一方通行の祈りだとしても。身近に存在を感じる事が出来なかったとしても。



その存在を心の糧に、生きて来た。



見守ってくれていると信じていたから。



絶望の時には、手を差し伸べてくれると、信じていたから———・・・。





隣からの炎が部屋に入って来る。


バイラムの足に飛び火した炎は、そのままバイラムを包み込もうとする。


窓から見える景色は、燃え上がる赤。


外から人々の泣き叫ぶ声が聞こえる。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」



その時、アマルの魔力が暴走した。


小さな体からは想像も出来ない程の魔力が、燃える炎を暴発させる。


アマルを中心に激しい風が旋風し、そして暴走した魔力が閃光を放った。


光で何も見えず、音が消えた中で、涙で曇るアマルの頭に自分の声だけが木霊した。



(この世界に、神などいない———・・・)









*****



「お嬢様、お嬢様!」


アマルが生まれた頃から側に居る侍女は、彼女が愛するお嬢様が、時々悪夢を見る事を知っていた。


しかしそれがどんな悪夢なのかは知らない。


ただ、愛する婚約者や家族の名を呼びながら、手をさ迷わせるのだ。可愛らしい眉間に皺を寄せて。

侍女に起こされたアマルは、息を呑んだ後、激しく呼吸を繰り返す。


「はっ! はぁ、はぁ、はぁ、ここは? バイラムは?」


辺りを見渡して状況を掴もうとする姿は必死で、彼女がどんなに恐ろしい悪夢を見るのかと、侍女は悲しくなってしまう。こんな時のアマルは、自分が何歳で、今がどんな季節で何をしていたのかすら分からず混乱してしまうのだ。

馬車の中で、アマルの前の席に座っていた侍女はアマルの横に移動すると、片手でアマルの手をギュッと握り締めながら、優しく背中を摩る。


「バイラム様はこの時間お仕事ではないですか? あと半年でご結婚ですからね。お二人で新婚旅行に東の国に向われるのでしょう? その為に、出来るだけお仕事を片付けていくのだと、頑張っておられますよ?」


「そう、そうだったわね。そして私は、結婚をすると当分は皇都に行く事は出来ないからと、先日まで皇城の薬草室に行ってたのだったわね」

「ええ、そうですよ。あ、子爵邸に着いたようです」


侍女の声に窓の外を見ると、見慣れた子爵邸が見えた。

少し落ち着いたアマルはそのまま自分の部屋へ入ると、窓の外が真っ赤に染まっていた。



在りし日の最後の日から、アマルは真っ赤な夕焼けが苦手だった。あの日を思い出すから。


秋から冬へ、日の入りが早くなったと思ったら、空気が冷たくなってきたこの季節。そして今日はあの日であった。


冷たい婚約者を抱き締めて慟哭したあの日、絶望した日。


神など存在しないと理解した日。



魔力を暴発させたアマルは、その力で時を戻したようで、気が付いたら赤ん坊になっていた。


それからの日々は孤独との戦いの日々であった。


自分だけが悲劇を知っている。それがどれほどアマルの細い肩に重荷としてのしかかっていたか。


全ての悲劇を自分が回避できるのか。



愛する人との思い出が消えてしまった事も、アマルの心に大きな穴を作った。



しかし、アマルは今生でもバイラムと愛を育む事が出来て、そして消えた思い出がまたここで構築されていく事に、その度に幸せの涙を零すのだった。



バイラムはいつだって真っ直ぐにアマルを愛してくれた。


だから二人の思い出を彼が覚えていなくとも、彼はやり直し前と同じ、彼の誠心誠意の真心をくれたのだ。


恋の始まりが同じ年ではなかったから、タイミングに違いはあっても、バイラムは前回くれた花冠も、愛の言葉も、悩みに悩んでくれたプレゼントも、今生で同じ様にアマルに与えてくれたのだ。


だから、前回の生であった思い出は、今生でもアマルとバイラムの思い出として刻まれた。



あの日、在りし日に大切な領地を燃やした赤い炎。



今日は真っ赤な夕焼けが街を染める。



もう、アマルは夕焼けを恐れる事はないだろう。


今日が終わる。



あの日、神はいないとアマルが悟った日が、過ぎていく。








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