第八話 聖女との合流
私達は国境沿いの砦を出発し、先を進んだ。
しばらくして聖女とそれを守る聖騎士達の一行と合流する。
聖女様は、真っ直ぐな金の髪を持つ青い目の少女だった。五年前、十三歳だった彼女は、今や十八歳となり、輝くように美しかった。
私と会うなり、彼女は私に抱き着いてきてこう言った。
「大変お久しぶりでございます。エヴェリーナ様、お元気そうで何よりでございます」
「ありがとう。聖女様は変わらずお美しいです」
そう、私はこの金髪に青い目の聖女様が好きだった。
だってとても綺麗なんだもの。
私の後ろに控えている、黄金の巻き毛の美青年セスを見て、聖女様は口に手を当て驚いていた。
「まぁまぁ、エヴェリーナ様の恋人でいらっしゃいますか」
そう言うが、きっと彼女は彼の素性を知っている筈だ。
教会は至る所に情報網を張り巡らせている。
わかっていて言っているのだ。
セスの姿を上から下まで興味津々と見つめている。
私は彼女に言った。
「私の奴隷で、愛玩物です。だから、聖女様は手を出してはなりませんよ」
あけすけなその言葉に、傍らに控えていたエルフのリザンヌは笑いを堪えられないように顔を背け、騎士達は少し怒った顔をしていた。
聖女様は「まぁまぁ」と再度そう言って、頬を赤く染めて私達を見つめていた。
そしてセスもまた、顔を赤く染めながら、黙って立っていた。
「あんなことを言って、お立場が悪くなりますよ」
野営のテントを張りながら、セスは言う。
テントはもちろん、彼と同室だ。
最初は不器用でうまくテントも張れなかった彼だったが、マンセルやクランプの教えを受けて、今では一人でちゃんとテントを張ってくれる。
便利な男になったものだった。
ポーションも作ってくれるし、夜の世話までしてくれるから、もう手放せないと言っていい。
「前にも言ったけど、私の評判は地に堕ちているから、立場もへったくれもない。別にどうってことない。あー、今度聞かれたら、夜のための奴隷って言っていい?」
彼はその右目に怒りを漲らせて言った。
「ダメに決まっています」
「本当のことなのに」
私がクスクスと笑いながら言うと、彼は水を貰ってくると一度席を外し、盥に水を入れて戻ってきた。
「汗をお流しします」
「野営は、風呂に入れないから嫌だわね」
「そうですね」
彼が、盥の中の水を魔法で湯に変えてくれる。それを見て、本当に便利な男だと思った。
野営地付近は、聖女様が浄化をしたため、魔獣に襲われることはない。
とはいえ、一応見張りが必要だろうと、聖騎士と騎士達が交代で見張りについていた。
私は、あくまで呼ばれた助っ人の立場であったから、聖女様と騎士バルドゥルのこれからの予定を黙って聞いていた。
北上しつつ、かつての侯爵領の中心部を目指すという。
この侯爵領は、緑に囲まれた豊かな土地だった。
今はもう、隣国の王領になっているらしいが、早く浄化して使える土地にしたいのだろう。
以前、バルドゥルに侯爵家を立て直す気はないのかと聞かれたが、私はキッパリと「ない」と答えた。
誰も彼も死んでしまったあの家を、今さら立て直してどうするというのだ。
隣国の王も、私に領土を与え、爵位を授けようとしたがそれも断った。
面倒くさいことは御免だし、私は、私の代で侯爵家はおしまいにしようと考えていた。
たぶん、それが一番スッキリして、正しいことなのだと思う。
元侯爵家の人間として、この元侯爵領が浄化されるところまでは手伝おうと思っていた。




