第四十五話:濁流に身を任せて同化する性女
最近影がうっすいネクリアさん十三歳に出番を与える回
野営地のテントでネクリア様と合流した、のだが……問題が発生した。
「ネクリア様、怒っておられますか?」
「べ~~~つにぃ~~~? 怒ってなんかないけどな? たださ~しばらく見ないうちにぃ? お前らが~~随分と"仲良く"なってるな~~と思ってなぁ? なぁゾンヲリ?」
「……いえ、私は止めました。9回程ですが、この場で10回目です。ですから不可抗力なのです!」
ネクリア様は危険な角度をつけて首をひねりながら、私とその後ろにいるブルメアを睨みつけていた。それはもうムクムクプリプリしていてあからさまに機嫌が悪そうなのだ。
「えへへ、ね~」
いや、「ね~」じゃない。どうするのだこの空気は。ブルメアはこの状況を理解していないらしい。というより、ネクリア様の皮肉を皮肉と受け取っていない。
そして、ついにしびれを切らしたのか、ネクリア様は肩を張りながら近づいてきて、ブルメアが私と組みついてる腕の間に無理矢理潜り込むようにして割り込み、腕組みを解いたのだ。
「あっ、ちょっとネクリアってばいきなりどうしたの?」
「はいシッシッ。お前はそっち、ゾンヲリ、お前はこっちに座れ」
「はい」
そして私が御座をかいて座った所の膝上にすかさずネクリア様が座り込み、「ここが私のポジションだ」と顕示するように尊大な姿勢を取ってニヤリと笑ってみせたが、すぐに眼つきと首の角度が危険な領域に戻ってしまった。
「たくっ、初めてエッチした翌日のバカップルみたいな事しやがってさぁ……、ブルメア、お前なぁ一体どういう風の吹きまわしなんだよ!? 男嫌いで身体触られるの嫌じゃなかったのか!? あぁん!?」
「なんでって……落ち着くから」
「うるさい! とにかく、ブルメア、お前今度からゾンヲリには半径十歩分くらいは近寄るなよなっ!」
「えっ? えっ? どうしてネクリアはそんなに怒ってるの?」
「ね……ネクリア様、ブルメアはまだ15歳ですし、あまり強く怒られるのは……」
ネクリア様は私からすんすんと匂いを嗅ぐような仕草をした後に、一層目力が強くなったように見える。ヤバイ、下手にブルメアを擁護してしまったせいで火に油を注いだ。
「あぁん? こんな乳の15歳エロフがいてたまるか! というかゾンヲリィ、お前妙にブルメアの肩を持つようになったな? しかも、さり気なく名前で呼ぶようになってるよな? やっぱお前ら私に隠れて密かにヤッたのか? ヤッただろ! お前に私以外の女の匂いがた~~~っぷりとこびりついてるもんな? あぁん?」
ネクリア様……というよりサキュバスは嫉妬深い。その上で自分のモノを盗られる事にかけては戦争を起こす勢いの激情を見せるのだ。それもあるからこそ、ブルメアにはある程度厳しめな態度をとって距離を置こうとはしてきた……はずだったのだが。
どうしてこうなった……。
「い、いえ、誓って言いますが、そういった行為は一切……」
「そんな言い方……ひどいよネクリア。私はただゾンヲリと"夜の訓練"をしていただけなのに……今日はちょっと激しかったから"朝帰り"になっちゃったけど」
「夜の訓練ンンンッッッ!??? 朝帰りィィィッ!???? 激しくぅぅぅぅ!??? 前後左右行為したって!?」
「うん、いっぱいゾンヲリを前後左右から攻めてみたけど……でもあんまり通じなかったから緩急付けたりとか色々身体で覚えたよ」
「あぁッ!?」
これはもうわざと狙ってネクリア様を煽ってるのか? このエルフ。こうなってしまったネクリア様に対し私がいくら言葉を尽くしたところで聞く耳を持たないだろう。後はもう、落ち着くまで全てを成り行きに任せよう……。
所詮、私は流されてここまできただけの男でしかないのだから、これからも濁流に身を任せ続けるだけだ。ネクリア様に襟首を掴まれ、首が折れそうな勢いでガクンガクンと振り動かされているが、もう知らん。どうにでもなれ~~~。
……そして、時間が経った。女が3人居れば姦しいとはよく言うが、二人でも黄色い声がキンキンと頭によく響くものだ。 既に息が吸えず酸欠で頭が働かなくなってきているし、読唇する気も全くおきないのでどういった言葉が交わされてるのかはもはや分からん。
が、ようやくキンキンしなくなってきたようだ。
「全くさぁ……紛らわしい言い方するなよな。おかげでゾンヲリの首がもげちゃっただろ」
いとも容易く行われる殺人的破壊行為、相手が私でなければほぼ即死だったな。しかし、ダインソラウスすら片手で振えるネクリア様の怪力は一体どこから出ているのだろうな……謎だ。
「いつもやってることなのにネクリアが勝手に誤解してただけじゃん……」
こうして無事誤解は解け、私はブルメアの身体に乗り換え、亡霊部隊を引き連れて鉱山都市へと向かったのだ。
〇
淫魔少女は黒死病の特効薬を調合をするために、大釜を歌を歌いながら茹でていた。
「サキュバスのサは搾精のサ~~♪、サキュバスのキュはキュートのキュ~~~♪、サキュバスのバはバイ、いつもあなたのそばに~~♪ サキュバスのスは好き好きえっち大好き~~~♪」
しかし、その歌の歌詞はただただ異様だった。とても常人には理解できない代物である。
「おはようございます。ネーアさん」
「んおっ!」
ノリノリに歌ってた所で急に背後から声をかけられた事で、淫魔少女の尻尾はピーンと立ってしまっていた。
「まったく、いきなり背後から声をかけるなよな! 驚くじゃないかっ。ってシスターか、元気になったんだな」
「はい、おかげ様で。まだ少し熱っぽいですが大分楽にはなりました。それで……暗銀の騎士様はおられないのですね」
「ああ、ゾンヲリなら先ほど出てったばかりだよ」
「なのに、私のことを全く警戒なさらないのですね」
「だって戦闘からっきしの私がしたってしょうがないし?」
「でしたら、もしも今私がネーアさんの命を奪おうとしたらどうなさりますか?」
シスターアンジェは徒手空拳の構えをとり、剣呑な表情でネーアを見据えたのだ。
「ま、その時はその時かな。あ、やるならあんまり痛くしないでくれよ。痛いのは嫌いなんだ」
一方で、淫魔少女は清々しい程に非暴力のノーガードを貫いていた。それを見て、シスターアンジェは構えを解除してみせる。
「試すような真似をしてごめんなさい。でも、どうして抵抗をなさらないのですか?」
「半分はシスターの善意に期待してるのと、もう半分は私はゾンヲリがいなきゃどの道もう死んでる身だからさ。"魔族"の私を受け入れてくれる場所なんてどこにも無いんだから、今さらどこに逃げたってど~しよ~もないの。まっ、ゾンヲリの奴は危険だって言うけどさ、遅かれ早かれ人間とは関わってかなきゃいけないし、話が通じそうな奴ならさっさと話をするに限るの」
「……ネーアさんは魔族なのに、どうして人間を救おうとするのですか?」
「そうすると好きな男に好かれるからやってるだけだし? なんたって私はサキュバスだからなっ。男の理想の中の理想の女なんだぞっ」
淫魔少女はとても男の理想の中の理想とは呼べないような貧相な胸を張ってみせたのだ。
「おい、シスター。今私のどこを見て目を逸らした」
「い、いえ。ただ、この野営地に居る人達が皆ネーアさんのことを好いている理由が分かったような気がします」
「近所のガキンチョみたいな扱いだけどな……私だって好きでこんなちんちくりんで色気のない身体になったわけじゃないのにさ、難儀だよ」
そういって、淫魔少女は視線を落とした。その先にドレススカートがなければ足のつま先が見えてしまっていただろう。
「ですが、もしもネーアさんがその小さくて可愛らしい子どものような見た目ではなく、淫魔らしい美貌であったのなら、私はメイスを振り下ろすのを躊躇わなかったと思います」
「そう? ま、それならロリペドを拗らせた変態野郎以外には全く見向きもされないこの身体でも少しは良かったと思えるよ。ま、振り向いて欲しいめんど~くさい性格したロリコンに限ってイエスロリータノータッチとか言い出してガードが無駄に硬くなるから困るんだけどさ」
淫魔少女はやれやれといった風に首を左右に振ってみせる。
「でさ、本題なんだけどシスターは何の用で私に会いに来たんだ? 言っておくけど教会への襲撃は撤回するつもり無いからな。ま、仮に私が止めようとしたってゾンヲリはやるよ。お前達はそれだけの事をやったんだから」
「いえ……違うのです。どうか、ネーアさんの仕事を手伝わせて欲しいのです」
「ふ~ん? 私がやってる"錬金術"ってイリス教会にとっては禁忌じゃなかったっけ? それを手伝いたいってどういう心境の変化なわけ?」
「……いえ、錬金術の多くは教会が厳重に"管理"をしていますが、禁忌ではないのです。ですから、私も少しだけは心得もあります」
教会における禁忌の錬金術とは、"奇跡"の領分を侵すものだ。その筆頭が死者の蘇生、疫病の克服、傷の即時治療といったものになる。
「私は、教会に訪れた黒死病に侵され理不尽に喘ぐ人達を見て見ぬフリをしました。奇跡の価値を守るためだけに、救うことの出来る人々を見捨てて来たのです。そして、この野営地におられる方々全てが、教会の利権を守る為の犠牲者となった人々なのです」
庶民の感覚では高額な奇跡の代金を支払えない者には奇跡は施されない。全ての人々に平等に慈悲を与えるはずの神が、金の大小で救う者を選んでいるという矛盾。
「とあるエルフの女性が私に仰ったのです。奇跡では救えない人もいると、それはその通りです。本当に救わなければならない人達こそ、奇跡では誰も救えないのです……。だから、この場に居る人達全てを救おうとするネーアさんを見て、考えを改めようと至ったのです」
「ま、別にいいけどさ。魔族である私を錬金術で手伝うって教会的にはバリッバリの異端じゃないか? 擁護も不能だぞ?」
「……確かに異端、なのかもしれません。事実、私は奇跡が使えなくなりました。ですから、最初は神に見捨てられてしまったのだとも思いました。ですが、それは違うのだと思い至りました」
「ほ~ん?」
「私達は神の奇跡を安易にひけらかそうとしていました。その行為そのものが神を試すという重大な異端なのです。だから神は私に試練を与えて下さりました。奇跡を使わずに人々を救ってみせなさい、と」
「う~ん……なんというか、なんでもかんでも斜め上に解釈する頭イリス教って感じだよな……」
もはや訂正するのも面倒くさかったのか、淫魔少女はシスターに聞こえないようにボソっと呟いたのであった。
「そして、誰もを見返りを求めず救おうとするネーアさんの姿は正しく"聖女"そのものです」
「いや、やめてくれ。性女ならともかく私が聖女はないだろ。サブイボが出てくるわ」
「ですから、どうか私をお導き下さい。聖女様……」
「おいシスター、人の話聞けよ」
そうして、シスターアンジェは淫魔少女に付き纏うようになったのであった。
女が三人集まれば姦しい……ごま塩程度に覚えておいて欲しいのさ……
ネクリアさんもゾンヲリさんもブルメアさんもアンジェさんもボケてばかりでツッコミ役が誰もいない不具合をどうにかして欲しいのさ……。




