第三十六話:ブルメアさんの厄日④
「あの……、イサラさんに聞きたいことがあるんです」
「はい、何でしょうか?」
「イサラさんはハルバさんのことがその……好きなんですよね?」
「はい」
「それで、もしも、もしもですよ? ハルバさんが急に明日から居なくなっちゃったら、イサラさんならどうしますか?」
「そんなこと……考えたくはないです」
「うん、私もそう思うよ。でも……私達ってエルフだから、いつかはその日が"絶対"にやって来るんだと思う」
人は老いていずれ朽ちてしまうが、エルフは悠久ともいえる長い時間老いることがない。エルフ以外の種族の傍で生き続ける限り、死に分かれを繰り返し続ける定めにある。
「私の師匠はね。きっとその事があるから、いつまでも一緒には居られないから"今の事"は忘れて"新しい生活"に慣れなさいって言うんだ。私だって、多分それが一番正しいことなんだって思う……よ」
そして、ブルメアは叩き込まれてきた。町中で襲ってくるただの暴漢程度なら一捻りできる腕力と、弱い魔獣が住んでいる森の中でも自力でサバイバルできる程度の実力を。
「……それでも、私はハルバ様以外の方となんて考えたくはありません」
「じゃあ、その日が来たら……?」
「だから、私はハルバ様の赤ちゃんが欲しいです」
「赤ちゃん!? えぇーーーー!?」
「ハルバ様の子供の、そのまた子供とずっとずっと一緒に居られればって思います。でも……ハルバ様は必ず避妊しちゃうんですよね……。その、私が身重になったら冒険者は続けれないからって、でも私実はハルバ様が寝ている間にこっそりと種を頂いちゃってるんですよ? ふふっ」
「?????!?、えっと……ジャガイモの種のこと?」
性知識がジャガイモ畑から赤ちゃんが生まれてくるレベルで止まっているブルメアには、イサラの言っていることの半分も理解できておらず、思考の処理限界を超えてしまい脳がオーバーヒートを起こしていた。
「はい! ジャガイモの種です」
「そっかぁ~~……でも、イサラさん達って色々な場所を旅しているから、種を植えてもちゃんとジャガイモの世話できないから育たないんじゃ……?」
「色々と障害はありますけど、きっと育ってくれると私は信じてますから。何と言ってもハルバ様の種ですから!」
「へぇ~~いいなぁ……それなら私にも一つくらいジャガイモの種を分けて欲しいなぁ……」
イサラの耳がビクりとはねた。
――種をまいていっぱいジャガイモ畑が出来たら皆魔獣を狩って食べなくてもよくなるし、そしたらゾンヲリが夜の訓練に付き合ってくれる時間がもっと増えたりするのかな? でも赤ちゃん出来ちゃったら……なんて
「それは絶対ダメです!」
ジャガイモ畑から赤さんが生えてくるというほわほわ人生設計に想いを巡らせていた所、急に凄まじい剣幕でイサラに拒否されたために、ブルメアは思わずビクっとしてしまう。
「ごめんなさいイサラさん、流石に図々しかったよね」
「その、ブルメアさんには全然悪気はないのは分かってたのに、急に叫んでごめんなさい。ただ、ブルメアさんにも好きな方がおられるんですよね? そう思うと……それは流石にっと思いましたので」
「うん。やっぱり分かっちゃう?」
「はい。私もエルフですから、耳飾りを付けていることの意味くらいは……」
将来、家族となることを誓い合った者同士で互いに対となる耳飾りを付け合う儀式をエルフ達の間では行われる。いわゆる、結婚耳飾りである。
「えっと、これ違うの! 違わないんだけど! ただ、その、くれた人は全然そんなこと意識してるわけじゃなくって!」
「クスッ、でも、耳飾りを外さないのならそういうこと、なのですよね?」
耳飾りを肌身離さず身につけておく。それは、家庭や持っていたり、既に恋人がいるエルフであることを周囲に示すことを意味する。
「あう……」
もはや耳に至るまでブルメアの顔は真っ赤に染まりきっていた。
「しかも"手作り"なんですよね。そんなに気持ちの籠った耳飾りを貰えるだなんて愛されているんですね、正直、羨ましいです」
「そうだったら良かったのになぁ……」
しかし、人間やその他種族にとってはそんな事情など知った事ではなく、その耳飾りを送った当人でさえ、風の魔法力を気休め程度に補助するアクセサリーとしか考えていなかったりするので「万が一金に困ったらその耳飾りを売るといい」とまで言ってしまう有様である。
「違うんですか?」
「だったら、ハルバさんに気に入られて抱かれるように頑張れ! だなんてヒドイこと言わないよ……。絶対」
「あの……今さらなんですけど、師匠という方はブルメアさんの今の"ご主人様"ではないんですか?」
人間の都市を堂々と歩いているエルフは、大抵誰かに飼われてる。飼主、即ちご主人様の裁量次第では人間と全く同じ生活を出来るエルフもいれば、衣服を全て脱がされ鎖付きの首輪を付けられた状態で四つん這いのまま歩かされているエルフもいる。
それがシティエルフの当たり前である。
「違うよ、ゾンヲリは私にたまーに"お願い"はすることはあっても、一度だって"命令"をしたことはないんだよ。だから、私が勝手にゾンヲリの後を付いて行ってるだけだもん」
命令は上位者による行動の強要であり、拒否した場合は原則として罰を受けるものだ。
一方でお願いとは、依頼や希望という形になり、受けた側は拒否しても罰を受ける事はない。それどころか、依頼の対価として報酬が与えられることもある。
故に、エルフや亜人に対してお願いをする者など殆ど居ない。何故なら、完全な下位者あるいは奴隷階級の者に対して対等という目線に立つ意味も理由もないからだ。
「その方は優しい方なんですね」
「ううん、ぜんっぜん優しくないと思う。むしろすっごくイジワルだよ? 例えばね――」
〇
「ひぐぅ! 痛い、痛いよ! 肩を外した状態で弓で通当てする訓練なんて、どうしてこんなイジワルなことするの!?」
「敵が目の前で武器を構えているというのに、痛みを理由に芋虫のように這って転がるだけか? ならばそのまま死に果てるだけだな」
「だからって、あんまりだよ!」
「貴女が言ったのではないか? 私と同じ戦士になりたいとな。ならば最低限のこの程度の痛みくらいには耐えてみせろ。これが出来ない者にその先を進む資格はない。尤も、"嫌ならやめても構わない"と何度も言っているし、痛いぞ? と散々前置きしたはずなんだがな……」
「うう!!!!!イジワル!!!鬼!!!人でなし!!!」
「一ついい事を教えてやる。イジワルな鬼のように、相手が嫌がるような卑怯で人でなしなことを躊躇なくやれることこそ戦士に求められる最も重要な素質だ。つまり、貴女が今言った罵声はただの褒め言葉でしかない」
「うわーん! おっぱい大魔人! バター犬! スペルマン! ロリコンの変態!」
「頼む、それだけやめてくれ。いや、ほんとお願いしますので」
〇
「……って感じ、今では肩くらい外されても平気になっちゃったけどね。えへへ」
「ブルメアさんは凄いですね。私だったら多分耐えられないと思います」
「ゾンヲリはいつも言うんだ。自由に過ごすことよりも奴隷になったままの方がずっとず~~~~と楽だって。実際、そうだとも思った。牢屋の中に居た頃は何もしなくっても白くてべたつく変な味のする飲み物とか、硬いパンとか食べさせてもらえたけど、外に出たら魔獣を自分の手で殺さなきゃごはんも食べられないんだ。だからね、自由って本当はと~~~~っても残酷で冷たいんだ」
「でしたら、どうしてブルメアさんはその冷たい自由を選んだんですか?」
「本当はね、私も最初は新しいご主人様が欲しかった。ゾンヲリの奴隷になりたかった。強い人にず~~~と守って欲しかった。だからいっぱいゾンヲリの前では媚びたりもしたよ。身体だって自由にしていいって言った。でもね、ゾンヲリは私のことを奴隷にはしてくれなかったんだ」
まだ続くの、これ? と思うのがぜいいんだろうがあと2話くらい多分続く。
もう数話前の展開とか余裕で忘れてる人多いんじゃね? って思う今日のこの頃
なお、貴族の所有物になってしまったエロフは2代、3代と続けてずっと若くて美しい奴隷のままである。つまるところ穴兄弟どころか穴家族として延々と奉仕することを強いられているんだ!
その最中メンタルが病んだり壊れて現実逃避してしまうエロフが割と沢山いるのである。
ゾン天ワールドのエロフにだけは絶対生まれたくはないよな……




