第九十八話:ゆっさゆっさ!キンキンキン!
前回のあらすじ
ゾ「時間を稼ぐのはいいが、別に、アレを倒してしまっても構わないのだろう?」
ハ「させねーよ」
脳筋同士、タイマン、真夜中。何も起きないはずがなく……シリとアヌス交わる決戦のバトルフィールドで激戦が、今、始まる!
飛竜狩りのハルバがその手に持つ赤燐の大剣を軽く払い構えると、舞い散る火の粉がパチパチと音を立てる。
「ガハハ、さっき剣を合わせて分かったぜ! やっぱりてめぇじゃ俺様に勝てねぇ」
「……」
意気揚々と勝利宣言をあげられるも、獣人戦君は赤黒いオーラの揺らめく銀色の大剣を下段に構え、黙したまま飛竜狩りを見据えていた。
「ふん、そうやってダンマリ決め込むなら吠え面かかせてやるぜ」
ハルバは朱色に光る竜剣を振りかぶるようにして大上段に構えると、その場から瞬く間に消える。
「き、消えたぁ?」
多くの兵士達からはハルバの猛進は文字通り消えたようにしか見えなかった。
その疾風の如く速度と勢いを乗せた流し切りは、大気を轟と切り裂き凄まじい炎色の衝撃波の軌跡を引き起こしながら獣人戦君の肩口へと切り込まんとする。
そして、竜剣は衝撃に反応し、纏っている火の魔素を火花のように派手に散らした。
「チッ、受けやがるか。一発でへし折ってやるつもりだったんだが……随分と頑丈な剣だぜ」
しかし、剣圧だけで立っていられなくなるほどの余波を伴う必殺の斬撃は、銀の禿げた黒色の鉄塊によって阻まれたのである。
「それがこの重いだけのなまくら唯一の取り柄でな」
「ほざけぇ」
獣人戦君がその言葉を言い終える合間に八連の剣陣が三度舞う。その全てがハルバによって行われた攻撃だ。
「へ、コイツも受けるたあ、闘技場の奴よりはちったぁ楽しめるじゃねぇか」
飛竜狩りは不敵に笑いながら斬撃の回転速度をさらに加速させる。
「なんだよありゃ……まるで火炎の竜巻じゃねぇかよ」
一度の剣劇で発生する火は僅かでも、百裂にも打ち付ければ猛火となる。それは、見る者によってはもはや魔法にしか見えない。
「おいおい、こんな戦いに近づけるわけが……」
それが、英雄剣技を目の当たりにした者の反応であった。吹きすさぶ金属の暴風圏に割って入ろうなどと考えるのは、もはや命を投げ捨てるに等しい愚か者同然の行為である。
「いや、あの中に居るアレはなんなんだよ」
飛竜狩りによって絶え間なく放たれる斬撃を、獣人戦君はただひたすらに受け流し続けていた。
「へ、防御に徹するばかりかよ? 少しは反撃してこねぇとつまらねぇぜ」
「……口を開ける暇があるならこの俺の喉元に牙を突き立てて見せるんだな」
「ならお望み通りにギアを上げてやるよ!」
なおも勢いの増す飛竜狩りの猛攻に獣人戦君が次第に押され始める。辛うじて受け流しながらも後ずさりし、合わせて包囲網を形成している兵士達も戦場の竜巻に巻き込まれまいと移動を始めたのだ。
「お主ら、そこで見とらんでさっさと飛竜狩りの援護せんか」
何時までも互いに顔を見合わせるばかりで戦いに参加しようとしない兵士達に対し、しびれを切らしたのかゲートルドが一喝する。しかしそれでも兵士達は微動だにしなかった。
「クロスボウで援護しようにも動きが早すぎて……逆にハルバ殿の方を射貫きかねません。で、ですので、この中で最も実力あるゲートルド司令こそ栄えある二番槍を……」
「あんなのに混ざるだなんてワシだって嫌に決まっておるじゃろ。お主老いぼれを何だと思っとるんじゃ」
司令官のゲートルドは実に正直に心境をぶちまけたのであった。その後、獣人戦君を討ち取ろうと続々と増援が駆けつけるも、成り行きを観戦するばかりの聴衆と化して行く。
そして……。
「ふれー、ふれー、ハ・ル・バ様! 頑張れ♡頑張れ♡ハ・ル・バ様!」
遅れてやってきたエルフの娘が、黄色い声援をハルバにかけ始めたのである。
「なんだぁ……ありゃあ」
その一心不乱の応援ぶりには兵士達も思わず呆気にとられていた。
「なにって、飛竜狩りの姓奴隷だろ」
「いや、あっちの小さい奴はなんだよ」
そう言って兵士の一人が指差したのは、小さな竜翼をパタパタとはためかせている風精の子である。
「がんばえー、がんばえー、ご・主・人・様! 負けるな―、負けるなーご・主・人・様!」
風精の子は、エルフ娘の応援に負けじと小さいながらも一生懸命に応援していたのだ。
「知らねぇよ」
しかし、そのあまりにも無害そうな見た目からか、風精の子は兵士達からは無視されてしまっている。
「……いや、それにしても……アレ」
「ああ、実にけしからんな……」
破廉恥な衣装を着こみ、ゆっさゆっさと豊満な谷間を揺らしているエルフ娘に周囲の男共は釘付けになっていた。
ゆっさゆっさ、ゆっさゆっさ、ゆっさゆっさ……。
「くそ、飛竜狩りの奴、毎晩あのメロンにむしゃぶりついてやがるのか……」
もはや男共にとって、魅惑的なダンスの方こそが主であり、横で繰り広げられる真剣の果し合いの方はどうでもよくなりつつあったのだ。
「……お主ら、たるんどるな。真面目にやらんか」
総司令ゲートルドは再び兵士達に向けて一喝を入れる。
「そう言うゲートルド司令こそ、食い入るように見ているではないですか」
「ワシは偉いからいいんじゃ」
トップは常に裁かれる事はない。それが自然の摂理だった。
キンキンキン、キンキンキン、キンキンキンキンキンキンキンキン!
キンキンキン、キンキンキン、キンキンキンキンキンキンキンキン!
キンキンキン、キンキンキン、キンキンキンキンキンキンキンキン!
「飛竜狩りよ。なにを何時まで遊んでおる。高い金支払うと言っているのだからさっさと獣人戦君を仕留めんか」
「そうだそうだ、さっさと終わらせろ!」
すっかり緊張感の腑抜けた外野達は、無責任な野次を飛ばすようになったのである。
「てめぇら……、人が戦ってる横で俺様の奴隷に色目使いやがって、後でぶ殺すぞ」
飛竜狩りのハルバは飛ばす兵士達に流し睨みを効かせると、周囲は沈黙した。
「俺を前に余所見とは余裕だな」
その隙を見計らって、今まで防御に徹していた獣人戦君は切り返した。
「ウオッ」
「ハ、ハルバ様!」
しかし、当然のように飛竜狩りのハルバは刹那の見切りで斬撃を躱す。
「ちぃ、てめぇ……反撃できるなら亀みてぇに引きこもってねぇでさっさと真面目にやりやがれ」
「俺は至って真面目だ」
キキンキンキンキキンキン! キキンキンキンキキンキン!
キキンキンキンキキンキン! キキンキンキンキキンキン!
耳障りな剣劇の調べと……
ゆっさゆっさ、ゆっさゆっさ、ゆっさゆっさ、ゆっさゆっさ。
ゆっさゆっさ、ゆっさゆっさ、ゆっさゆっさ、ゆっさゆっさ。
エルフ娘の豊満な胸は揺れ続けていた。
「ふれー……ふれー……はぁ……はぁ……ハルバ様、疲れてしまいました……」
長時間応援しすぎて疲れたのか、風精の子はいつの間にかその場から消え去り、エルフ娘はへたり込んでしまったのである。
「てめぇ……朝までコレを続けるつもりかよ」
飛竜狩りのハルバが斬撃を放ち、それを獣人戦君が受け流す。既に幾千幾万と行われたやりとりではあるが、ハルバの方はいい加減に苛立ちを隠せなくなりつつあった。
「俺は別に、朝までどころかこのまま明後日まで続けていたとしてもいっこうに構わないのだが?」
少女の安眠のために休む事なく戦い続けるのが獣人戦君の常夜であった。今宵もまた、獣人戦君はいつものように、少女のために剣を振るい続けるのである。
「うがーーー! いい加減にてめぇの顔も見飽きたぜ。そろそろ死んどけや! しぶといんだよテメェ!」
「それが俺の持つ唯一の取り柄でな」
「クッア!!! ンッアーー!!! ざっけんな! 死ね、すぐ死ね! 骨まで砕けやがれ!」
飛竜狩りのハルバが幾ら怒りに任せて剣を振るえども、獣人戦君の喉元に届く事はなかった。
キンキンキン、キンキンキン、キンキンキンキンキンキンキンキン!
キンキンキン、キンキンキン、キンキンキンキンキンキンキンキン!
キンキンキン、キンキンキン、キンキンキンキンキンキンキンキン!
「ゲートルド司令、どうしますか? これ」
兵士の一人は、欠伸をしながら老将ゲートルドに次の指示を仰いだのだ。
「……不味いな、これは」
ゲートルドは深刻そうな声音で呟く。
「何がです?」
「あの獣人戦君が本気で朝まで戦い続けるつもりだとするならば、睡眠が一切とれぬ。いや、懸念する事項はそれ以外にも多数あるのじゃが……」
飛竜狩りより実力の劣る獣人戦君の選んだ戦術とは千日手、即ち飛竜狩りのハルバが根負けするまで防御に徹し続けるというものである。
征伐軍の主力がこの場に集結している中、実力が違いすぎるが故に飛竜狩りの元に加勢できず、獣人戦君を包囲するだけに留めていた戦力の殆どは既に死兵と化していた。だからと言って睡眠をとるために包囲網と警戒を解けば、万が一に飛竜狩りのハルバが敗北するか戦闘を放棄すれば救い無き蹂躙が始まる。
では、朝まで主力の大半を見張らせた場合どうなるかと言えば、翌日は睡眠不足でロクに戦えない者達で溢れ返るのだ。
「とりあえず遠距離からクロスボウでも撃って奴の集中を乱せ」
「はっ……」
兵士数名は獣人戦君の側面や背面に回り込み、クロスボウで脳天に狙いを定め、じっと機会を待ち続けた。
「よし、今なら」
動きが緩やかになるタイミングを見計らって兵士の一人はクロスボウの引き金を引いた。しかし、獣人戦君は頭を振って紙一重で矢を躱し、通り過ぎた矢はその先のハルバの脳天目掛けて突き進んでしまう。
「ウオッ、テメェらも……いい加減にしろよ……」
当然、ハルバに当たるわけもないが、撃たれた事によってハルバの眉間に青筋が出来上がる。
「も、申し訳ございませんハルバ殿! ワザとではないんです。ワザとでは」
「あからさまに誤射誘ってんのも分からねぇポンコツ共はそこで寝てやがれ!」
結局の所、実力差がありすぎる者達に出来る事など限られている。無能な働き者などハルバにとっては邪魔でしかなかった。
「チィ」
「ハルバ様!」
無数に放たれる斬撃の中から、一度だけ甘くなった飛竜狩りの横薙ぎをかい潜り、獣人戦君は反撃の切り払いを放った。飛竜狩りのそれと比べれば速度も威力出ない攻撃であるために、いとも容易く返しの太刀で弾かれる。
しかし、ここにきて初めて、飛竜狩りは防御を行った。
「おい、あれ……」
観戦者達はその事実に動揺する。終始優勢であったはずの戦いに陰りが見えたのだから。
「やはりこうなってしまったか、いくら飛竜狩りと言えど、一日中戦い続ければ動きも鈍り始める」
飛竜狩りは獣人戦君を討ち取るために全力で剣を振るい続けてきた一方で、獣人戦君は必要最小限の動作で攻撃を受け流し続けていた。どちらが疲労を溜めやすいのかと問われれば、それは間違いなく前者である。
飛竜狩りの動きが徐々に鈍るにつれて、獣人戦君の切り返す回数が増え始めた。
「勝つ気あんのかよてめぇ! そんな事した所で俺様に攻撃は当たらねぇだろうが!」
「確かにお前の言った通り、疲労が重なった程度では俺の刃はお前に届かないだろう。だが……」
夜空も白み始めようかという頃には、戦いは一進一退の攻防になっていた。
「負けないくらいならば今の俺程度にも十分可能だ。勝者とは即ち、敗者から生殺与奪と一切の権利を奪い取る者。この戦いでお前がそこに至る事がなければ、俺がそこに至る意味も理由もない」
飛竜狩りの振るっていた業物の竜剣からは竜鱗がはがれ始め、当初放っていた朱色の輝きもすっかりと色あせている一方で、表面の鏡銀が完全に剥がれ落ちた黒錆の鉄塊は依然としてその様相を保ち続けている。
「俺様のドランスケイスがすっかりボロボロじゃねぇか!」
「それは物のついでだ」
飛竜狩りの高い戦闘能力の本質ではないとはいえ、竜燐の大剣を完全に破壊すれば獣人戦君にも僅かな勝機が生まれる。そこで、初めからドランスケイスの構造の脆い箇所に狙いを定めてダインソラウスで攻撃を受け続けていたのだ。
「この剣に使う竜鱗と鍛冶費用が一体幾らするか分かって言ってんのか? ああ!?」
「知らんな。興味もない。嫌なら別にやめてもらってもいっこうに構わない、別に他の道がないわけでもないのだから、な」
「汚ねぇぞ……ゾンビ野郎……」
何の益のない不毛な闘争の果てにあるのは、膨大な修繕費。底なし沼に引きずり込まれた後に気がついても、それは時すでに時間切れであった。
「戦において、相手の嫌がる事をやることこそが常道。俺に使用を許された数限りある手段の中から、勝利条件を満たせる可能性のある唯一の方法を選んだにすぎない。それに、この俺をさして言う汚いとは、褒め言葉でしかない」
少女によって十八番を封じられている以上、獣人戦君のとれる戦術とは。
キンキンキン、キンキンキン、キンキンキンキンキンキンキンキン!
キンキンキン、キンキンキン、キンキンキンキンキンキンキンキン!
キンキンキン、キンキンキン、キンキンキンキンキンキンキンキン!
と、見る者も退屈にさせるような塩の混入した泥仕合くらいなのである。そして、そのまま夜も更けていくのかと誰しもが思い始めた頃。
「GOAAAAAAAAAA!!!」
突如、耳を劈く咆哮が轟いた。
ノルマ達成!
某FE風に言えば、暗黒皇帝とタイマンした時貴方なら何をするか?
①圧倒的ステータスの勇者オ〇マにメリクルかマスターソードを持たせて正面から叩き潰す
②マ〇スが必殺出すまでひたすら祈り続ける(主人公補正)
③硬くて遅くてHPの高いアーマーナイトに命のオーブ持たせて17回攻撃を受けさせてグラディウスをへし折った後に、回数制限無限の壊れた武器で延々ボスチクして経験値を稼ぐ
④暗黒皇帝には勝てない。現実は非情である
なお、マートと化したゾンヲリさんがとった手段は③だったりする。
「無形の位」連打して敵の技ポイントと武器使用回数が尽きるまでひたすら耐えるという脳筋仕様……。




