55 次期王妃とシャンテルの密会
本日より、3章スタートです!
お茶会の翌日。ニックが書類と共にアンジェラからの手紙を届けにきた。それを見て、相談を受けていた「話したいこと」の件だとすぐ理解する。
「アンジェラ様といつの間に仲良くなられたのですか?」
不思議そうなニックに「昨日のお茶会でね」と返事をして、シャンテルは中を確認する。
アンジェラは基本的に午前中から夕方まで、王妃教育に専念しているようだ。合間に休憩があるのと、日によっては昼から休みの日があるらしい。
ただ、内密の話であるため、お付きは信頼できる少数のみで、目立たないようにしてほしいとのことだった。二人が会える時間も限られていることから、シャンテルさえ良ければ夕食後でも構わないと記してある。
シャンテルとしても、日中はジョアンヌやバーバラの目がある。彼女たちの侍女に見付かれば、問い詰められる可能性も否定できない。
その点、夕食後であればバーバラもジョアンヌも部屋に籠っている時間であり、薄暗い廊下は誰が歩いているか見分けが付きにくい。密偵が彷徨いている可能性も考慮すると、夕食後の方が都合が良さそうだった。
「ニック、夕方までにアンジェラ様へ返事を書くから、手紙を届けてもらえるかしら? 出来れば彼女とその侍女にしか分からないよう、こっそり届けて欲しいの」
「構いませんよ」
「では、よろしくね」
その後、シャンテルはニックから今日の報告を受けた。彼が退室した後、アンジェラの提案に乗って夕食後の日程でいくつか候補を立てる。そして、約束通り夕方にニックが来るまでに手紙を仕上げた。
五日後、遂にアンジェラとの約束の日を迎えた。シャンテルは夕食を済ませると、一度自室へ向かう。
約束している応接室まで直接向かう方が早いが、いつもプライベートだと押し切って、シャンテルを部屋まて
送り届けるエドマンドに、この後の予定を悟られないようにするためだった。
アンジェラと会うことは、着いてきてもらう予定のカールとサリーにしか伝えていない。そのため、カールには普段通り自室へ戻った後、少ししてから部屋まで迎えに来るよう頼んでいる。
部屋に向かって歩いていると、こんな日に限って普段は感じない疑うような視線が突き刺さる。シャンテルはそれに耐えきれなくて、「どうかしましたか?」と尋ねた。
「この後何かあるのか?」
「へっ?」
エドマンドの鋭い指摘にドキッとする。そして、彼が少しの情報から物事を理解したり、察するのが得意な皇子様だったことを思い出した。
平常心、平常心よ!
シャンテルは自分にそう言い聞かせて言葉を紡ぐ。
「何もありませんけど、何故その様に思われるのですか?」
「夕食に向かう時からずっとそわそわしているように見えた」
「っ、そうですか?」
私、そんなにそわそわしていたかしら!?
シャンテルは自分では全く気付いていなかった。だからこそ内心焦る。
「まぁいい。シャンテル王女にも、隠したいことの一つや二つぐらいあるだろう」
どう取り繕うべきか頭をフル回転させていたが、これ以上の詮索は無いと分かってホッとする。
「だが、くれぐれも危険な真似や無茶はしないように」
そう言ったエドマンドがシャンテルの前に立ち塞がった。そして、視線を合わせるように少し屈むと、シャンテルの顔を覗き込む。
「っ!」
「シャンテル王女はすぐ顔に傷を作るからな」
「あ、あの時はたまたま続いただけです」
至近距離で目が合ってドキッとしたシャンテルは、誤魔化すように顔を逸らした。
「すっかり治ったな」
エドマンドが、以前バーバラにネックレスを投げつけられた場所に指先で触れる。
「!」
シャンテルは、くすぐったい感覚から逃れるようにサッと後ろに下がった。
「大した傷ではありませんでしたから、当然です!」
「そうか」
エドマンドはいつも突然触れて確認してくる。
初めて会ったときは手の甲に唇を寄せられ、夜会では手の豆まで触られたくらいだ。
気を付けないと! と、シャンテルは触れられた頬にじんわり熱を感じながら気を引き締める。
その後、部屋の前に辿り着いたシャンテルはエドマンドと別れた。簡単に身仕度をして、カールが迎えに来るのを待つ。暫くして、控えめなノックの音がした。サリーが扉を開けて確認し、カールが来たことを知らせる。
夜勤の護衛騎士はカールが戻ってきたことに驚いていた。彼にはシャンテルが部屋を空けることと、部屋の前で護衛を続けることを頼んだ。
「しかし……」
「私が部屋に居ないことを周囲に悟られたくないの。だから、ここで留守を守っていて」
困惑する騎士にシャンテルは微笑みかける。
「大丈夫。カールとサリーがついているわ。なるべく早く戻るから、ね?」
それから、彼にはこのことを誰にも言わないよう念押した。了承の返事を聞くと、シャンテルはカールとサリーを連れて、アンジェラと約束している応接室を目指した。
目的の部屋の前に辿り着くと扉をそっと開ける。
「シャンテル様」
アンジェラが先に到着していたようで、扉を開けた途端、彼女はソファーから立ち上がった。
「アンジェラ様、お待たせしました」
「いえ、気にしないでください。わたくしがお願いしたことですもの」
にこりと微笑んだアンジェラは、連れている侍女に目配せする。
「取り敢えず、お掛けになって?」
促されるまま、向かいのソファーに腰を降ろすと、シャンテルの前に紅茶が配膳された。
「それで、話したいこととは何でしょうか?」
単刀直入にシャンテルが問い掛けると、ほんの少し彼女の顔が強ばった。
「その前に、……ここにいるシャンテル様の護衛騎士と侍女は信頼出きる方で間違いありませんか?」
「えぇ。長年私に仕えてくれている二人です」
その答えにホッとしたアンジェラから顔の強ばりが溶け、肩の力も抜けていた抜いた。
「それを聞いて安心しました。ですが、念のため人払いさせて下さい。わたくしはシャンテル様と二人きりでお話しがしたいので」
その言葉にニックが困った様子で口を開く。
「アンジェラ様、それは困ります。お二人に何かあった時、お守りできません」
「……では、場所を変えましょう。少し肌寒いですが、幸い今日は月明かりがありますので、庭園のガゼボはいかが? そこであれば、離れた場所からわたくしたちを見守ることが出来ますよね?」
アンジェラの提案にシャンテルは同意し、一行は周囲を気にしながら移動した。その間、気を利かせたサリーが二人分の羽織を持ってきてくれる。
そして、アンジェラの侍女は紅茶を淹れ直すと、一礼して、サリーと共に近くの木陰に身を潜めた。
カールもアンジェラの護衛騎士もそれぞれ別の場所から、目立たないように見守ってくれた。
「それでは、改めて本題をお話しさせていただきます」
アンジェラはそう前置きすると、真剣な表情にな切り替えた。それを目にして、シャンテルは今更ながらに、どんな話をされるのだろうと緊張を覚える。だが、彼女は躊躇うことなく言葉を紡ぎ始めた。
「わたくしはシャンテル様にルベリオ王国の次の王になっていただきたいと考えています。つきましては、わたくしに貴女を王にするお手伝いをさせて下さい」
「……え?」
シャンテルは彼女の言葉を頭の中で繰り返し反芻する。それでもまだ話を受け止めきれない中、アンジェラが更に言葉を付け足した。
「わたくしは、貴女を王にすると決意してこの城に来ました」
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本日より、3章スタートしました!
更新頻度に関して、以前の後書きでもお知らせしましたが、月金の週2更新に変更します。
執筆中のストックに余裕が出てきたら、水曜日を不定期更新したい考えですが、暫く週2で進めていきます。
少しお待たせしますが、これからも応援よろしくお願いします!




