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シャンテル王女は見捨てられない〜虐げられてきた頑張り屋王女は婚約者候補たちに求婚される〜  作者: 大月 津美姫
1章

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5 シャンテルを蔑む親子

 シャンテルは書類仕事を終えると、第二騎士団副団長であり、専属護衛騎士のカールを連れて廊下を歩いていた。


「まぁ! お姉様ったら、またそのような格好をなさって」


 呼び止める声にシャンテルは振り向く。

 今日も愛らしいふわふわのドレスに身を包んだジョアンヌが、柔らかな髪を揺らしてこちらに歩いて来る。そして、シャンテルを見て、あからさまに怪訝そうな顔をする。


 長い髪を頭の後ろで一つに纏めているシャンテルは、騎士服を着用していた。これはシャンテル用に仕立てられた一着だ。胸元には王家の紋章が入っている。

 デザインからシャンテルが関わったお気に入りだ。ルベリオ王国騎士団に所属する少数の女性騎士は、シャンテルの服を参考に騎士服を仕立てている。


「腰に剣までぶら下げて、王女とは思えないお姿。なんて野蛮なのかしら」


 後ろに従えている二人の侍女と共に顔を醜く歪めるジョアンヌ。他所で見せる愛らしい顔は霧散していた。おまけに、昨日の夜会で涙を見せていた可哀想な王女の姿も何処にもない。寧ろシャンテルを蔑む態度を見せている。これがジョアンヌの本性だ。

 そんな彼女にシャンテルは一つ息を吐く。


「午後から訓練を控えているの。貴女も第三騎士団の団長なんだから、午後から訓練があるでしょう?」


 尋ねると、ジョアンヌは手にしていた扇子で口許を隠す。


「団長と言っても、わたくしたちは王女ですのよ。所詮、お飾りの団長ですわ。大体、淑女は剣なんか握りませんの」

「そうね……」


 呟きながら、シャンテルは自身が剣を握る理由を伝えようと思考を巡らせる。


「だけど、この国には王子がいないわ。いざという時、王女だからという理由でただ見ているだけでは駄目だと思うの。代々、王族がルベリオ王国騎士団の団長を務めるのが習わしでしょう? 私は国民を守るために役目を果たしているだけよ」


 シャンテルがそう返すと、ジョアンヌが不機嫌そうに顔を歪めた。


「それはわたくしにお説教なさっているの?」

「そんなつもりはないわ。ただ私がそう考えて、そうしていると言う話よ」

「なぁにそれ。大体、習わしなんて大昔の人間が勝手に決めたことじゃない!」


 パチンッ! とジョアンヌが持っていた扇子を閉じる。


「第三騎士団はわたくしを守る盾なの。お姉様のように訓練に参加する方が可笑しいのよ!」


 そう叫んだジョアンヌは、途端にシャンテルを嘲笑うような笑みを浮かべた。


「あぁ、そうでしたわ! お姉様には野蛮なギルシアの血が流れているのでしたわね!!」


 ジョアンヌが「あはははっ!」と高らかに笑う。


「ジョアンヌ様。言い過ぎです」


 堪らずカールが口を挟む。だが「いいのよ」と、シャンテルはそれ以上彼が何かを言う前に止めた。


「こんな野蛮な方がわたくしのお姉様だなんて、怖いですわ。いつかお姉様に殺されてしまうかも! なんて恐ろしいのかしら!!」


 大げさにジョアンヌが自身の身体を抱きすくめる。それを見た彼女の侍女が庇うように前に出た。


「ジョアンヌ様、ご心配には及びません。ジョアンヌ様の身は私たちがお守りいたします!」


 “私たちが守る”ね。……随分軽々しく言ってくれるわ。


 シャンテルは呆れてジョアンヌの侍女たちに視線を送る。


「貴女たち、“守る”と言ったけれど、今までジョアンヌの我儘に付き合って、身の回りの世話をしてきた貴女たちが、急に現れて襲ってくる敵からどう彼女を守るの?」


 恐らく、大した考えもなく発言したのだろう。“守る”と口で言うのは簡単だ。だが、有事の際に動けるかは、その時になら無いと分からないものだ。訓練してきた騎士ですら遅れをとることがある。だから、シャンテルは軽々しく言って欲しくないと思っていた。

 そんなシャンテル挑発するような言葉に侍女が顔を赤くした。


「っ! シャンテル様といえど、ジョアンヌ様を虐められるなら私たちは黙っていません!!」


 侍女が敵意をむき出してシャンテルを睨み付けた。その後ろでジョアンヌの唇が弧を描く。


「ジョアンヌ!!」


 突然、大きな声が響く。振り向くとバーバラが駆け寄って来ていた。ジョアンヌが笑ったのは、母親が来たからだった。


 シャンテルは騎士服の裾を摘むとカーテシーを披露する。だが次の瞬間、パシンッ!! と大きな音が辺りに響いた。

 シャンテルは突然の衝撃に少しよろけて、たたらを踏んだ。だが、直ぐに体勢を建て直すと、痛む頬に構わず視線をバーバラに向ける。そこには鬼の形相で睨み付けてくる彼女の姿があった。


 ツーッと、シャンテルの頬を生暖かいモノが伝っていく。バーバラが持つ扇子が折れていた。彼女は扇子でシャンテルの頬を引っ叩いたのだ。


「お母様!」


 ジョアンヌが母の登場に嬉しそうな声を上げる。


「わたくしの娘に何するのっ!」

「バーバラ妃殿下、私はただ話をしていただけで──」

「黙らっしゃい!!」


 シャンテルの話を遮って、バーバラが折れた扇子でまたシャンテルの反対側の頬を叩いた。パシンッ! と、渇いたおとが辺りに響いた。


「バーバラ妃殿下!」


 堪らずカールが間に割って入る。


「どうか怒りをお沈め下さい。誓ってシャンテル様はジョアンヌ様に手を上げていません!!」

「退きなさい! 誰がシャンテルの息が掛かった騎士の言うことなど信じますか!!」


 バーバラ付きの騎士や侍女がシャンテルたちを囲む。


「シャンテルを捕らえなさい!」


 バーバラの命令に困惑しながらも、数人いる騎士の中から三人が動いた。そして彼らはシャンテルが身動きできないよう腕を掴む。

だが、シャンテルは敢えて抵抗しなかった。抵抗すれば、益々バーバラの機嫌が悪くなり、拘束される時間が長くなるからだ。


「バーバラ妃殿下! 誤解です!」

「いいですこと? わたくしたちの姿が見えなくなるまで、そのまま待機するのですよ! 絶対にその野蛮な王女をわたくしたちに近付けないで頂戴!!」


 カールを無視して、バーバラが騎士に命令した。その時、廊下の奥から「何をしている」と低く冷たい声が響いた。

 その場にいた全員が振り向くと、アルツールがこちらへ歩いて来ていた。

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婚約解消寸前まで冷えきっていた王太子殿下の様子がおかしいです!

悪役令嬢にされてしまった公爵令嬢は未来の旦那様を探す旅に出たい〜それなのに、婚約破棄だと言ってきた王太子殿下が止めてきます〜
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