17 迷惑なサプライズ
「本日は国内外問わず、この夜会のために集まってくれた多くの者たちに感謝する」
国王の挨拶が始まり、全員が話に耳を傾ける。
「そして、この場を借りて皆に報告したいことがある」
その一言で会場がざわめく。
「報告……?」
こんなの、今日の夜会の予定にはなかった筈よね?
シャンテルは会場の何処かにいるニックを探す。そうして会場の隅に彼を見つけると、ニックもシャンテルを探していたようだ。目が合うと首を小さく横に振った。ということは、ニックも把握していない事態だ。
バーバラも驚いた表情で国王に何か話しかけている。反応からして、彼女も知らされていなかったらしい。
お父様は何を考えているの?
シャンテルは嫌な予感がした。思い返せば、国王は珍しく積極的に夜会の詳細を確認し、部下に指示を出していた。
そのことと関係あるかしら? と考えていると、国王が立ち上がって言葉を続ける。
「アンジェラ嬢、こちらへ」
名前を呼ばれた貴族令嬢が「はい。国王陛下」と返事した。そして、彼女は人々の間を抜けて国王の元へ歩みを進める。階段の手前まで来ると、「こちらへ来なさい」と国王が手を差し伸べた。
その様子に周囲のざわめきは更に大きくなる。
まさか──
そんな予感がシャンテルの胸の中にあった。それはニックやバーバラ、ジョアンヌは勿論、会場にいる誰もが感じたことだろう。
アンジェラが階段を登り切ったところで国王の手を取ると、彼女はその隣に並び立った。
「この度、長らく空席だった王妃の座に、シャトーノス侯爵家の次女であるアンジェラ嬢を迎え入れる!」
瞬間、今日一番のどよめきが会場を包み込む。シャンテルは驚きで開いた口が塞がらなかった。
シャトーノス侯爵家はベオ侯爵家と犬猿の仲だ。そんな家の令嬢を王妃に迎えることは問題だらけだ。
最近、国王が熱心に通っていた愛人は彼女で間違いないだろう。
ニックの仕事が増えるわね。……いや、それは私も同じかしら?
ふと、シャンテルがバーバラを見ると、彼女は玉座の上で意識を失っていた。そこへ侍女や護衛騎士が駆け寄って、声を掛けている。
「新たな王妃の誕生を皆に喜んで欲しくて、今日まで私とシャトーノス侯爵家の秘密にしていた。サプライズが成功し、嬉しく思う。今日から婚姻までの間、彼女は私の婚約者となる。今日は祝だ。存分に楽しんでくれ!」
上機嫌な国王。だが、王家の人間や宮廷官僚たちは誰一人笑っていなかった。ジョアンヌも顔を青ざめさせている。
シャンテルは探さなかったが、この会場にいる筈のベオ公爵も怒っているか、青ざめているかのどちらかだろう。
前王妃のジュリエットが亡くなって以来、バーバラがルベリオ王国唯一の妃だった。だが、シャトーノス侯爵家の娘に王妃の座を奪われた。それは、今まで妃の実家として権力を振りかざしていたベオ侯爵家のピンチを示している。流石のジョアンヌもベオ侯爵家とシャトーノス侯爵家の関係は理解しているらしい。
王女たちの婚約者を探す夜会は、国王の婚約者のお披露目と婚姻発表のサプライズに塗り変わってしまった。
これから、大変だわ……
シャンテルは足元から力が抜けて、カクンッと膝から崩れ落ちそうになった。だが、力強い手がシャンテルの腕を掴んで支えた。
「おっと、大丈夫ですか?」
シャンテルが振り向くと、腕を掴んだのはエドマンドだった。どうやらずっとシャンテルの傍にいたらしい。
「……申し訳ありません。父が王妃を迎えること、知らされていなかったものですから、驚いてしまって……」
「そのようですね」
周囲の反応を目にしてエドマンドが相槌を打つ。シャンテルが体制を立て直すと、彼は掴んでいたシャンテルの腕を離した。
夜風に当たって、気持ちを落ち着かせよう。
「支えてくださり、ありがとうございました」
シャンテルはエドマンドに微笑んで一礼すると、その場を離れた。そして、真っ直ぐバルコニーへ向かった。




