1 言われ無き非難と軽蔑
「シャンテル様! 今日という今日は我慢なりません!!」
そう声を荒らげたのは、今夜の夜会を主催したハムデアミ公爵家の令息、マーティンだ。
「異母妹とはいえ、妹君のジョアンヌ様に対する数々の非道な行い! ルベリオ王国の第一王女として恥ずかしくないのですか!?」
叫び声を上げる彼は、涙を浮かべるジョアンヌの肩を抱き寄せていた。
ジョアンヌはふわふわのドレスに身を包み、見事なブロンドの髪は緩くウェーブしていて、見るからに柔らかそうだ。そんな愛らしい彼女の姿は男女問わず、人々を虜にする。
マーティンを筆頭に数名の令嬢や令息たちがジョアンヌを慰め、彼女を守るように周囲を固めていた。
シャンテルは気付かれないように小さく息を吐くと、王家の象徴である赤い瞳を伏せた。
やっぱり、来るべきではなかったわね。
ハムデアミ公爵家は五代前の国王の時代、第三王子が王家を離れる際に作られた家系だ。つまり、シャンテルとジョアンヌにとって、マーティンは遠縁の親戚にあたる。だが、彼はシャンテルを軽蔑していた。理由は今は亡きシャンテルの母、ジュリエット王妃に由来する。
ジュリエットはギルシア王国の王女だった。ルベリオ王国とギルシア王国は、平和協定が結ばれる直前まで激しい戦争を行い、両国で多くの兵士や国民が命を落としている。
所謂、平和協定の一環で友好の証として当時王太子だった現国王とジュリエットの婚姻が結ばれた。だが、未だに二国の仲は良くない。互いに恨みを抱えたまま、王太子と王女の婚姻で強引に争いの幕を下ろしたからだ。
そんな背景がある上に、異母妹を虐げていると噂されているシャンテルは“ギルシア王国の血を引いた野蛮な王女”と周囲から蔑まれていた。
マーティンが王女であるシャンテルを非難できるのは、彼女に良くない噂があることと、彼が王族のジョアンヌを庇っていること、そして自身にも王族と同じ血が流れているという、プライドの高さからだった。
「念のため聞くと、非道な行いとは何かしら?」
「惚けるつもりですか? 普段からジョアンヌ様を突き飛ばしたり、足を引っ掛けたりしているでしょう! 他にも公務を押し付け、ルベリオ王国第二騎士団団長という立場を利用して、ジョアンヌ様に剣を向けたそうではありませんか!!」
その言葉に周囲がざわめく。
「なんということだ!」
「国を護る剣でジョアンヌ王女殿下を傷付けるとは! 許せませんな!!」
「やはり、ギルシアの血を引くだけのことはありますわね」
貴族たちのそんな会話が聞こえてくる。だが、シャンテルは無反応を貫いた。
勿論、シャンテルはジョアンヌを突き飛ばしたり、足を引っ掛けたことはない。それに、公務を押し付けられているのはシャンテルの方だった。“剣を向けた”ということに関しても、ジョアンヌとは手合わせすらしたことがない。
「そのような事実はありません」
シャンテルは毅然とした態度で真っ向から否定する。
「嘘はいけません! ジョアンヌ様の侍女が証言しているのですよ!!」
その侍女がグルになって嘘を吐いているとは思わないのかしら?
シャンテルが否定しても、周囲はジョアンヌと侍女の訴えが間違っている筈がないと、盲目的に信じている。
「お姉様、ごめんなさい。侍女たちが勝手に話してしまったの。……ごめんなさい、本当にごめんなさい! どうか許して!!」
ポロポロと涙をこぼすジョアンヌ。勿論演技だが、その姿は周囲の庇護欲を誘い、誰もが可哀想な妹王女に同情した。そして、シャンテルを睨み付ける視線が数を増す。
「何を言ってもムダなようなので、これ以上夜会の雰囲気を壊さないためにも私は失礼します」
シャンテルには、まだ今日の書類仕事が残っている。
公爵家からの招待ということもあって顔を出したが、やっぱり来ない方がよかったと、シャンテルは改めて思った。
「謝罪せずに逃げるのですか!?」
「謝罪? 逃げる? 私には後ろめたいことなどありません。王女として、そしてルベリオ王国第二騎士団団長として誓います」
「王族としての誓いを軽く口になさるのは、どうかと思いますよ」
それを聞いて、身を翻しかけていたシャンテルはピタッと立ち止まった。
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