第2節~承~ 第91話 両鳳連飛・寄らば大樹の陰
お待たせしました!
今回から、最終章第二節~承~がスタートします(*´ω`*)
では第91話はじめます!
閃光が消え、洸たちは起床時のようにゆっくりと目をひらく。閃光の残像がまだ瞳に焼きつき、点々と散らばる星のような輝きがしばらく皆の視界に漂っていた。
次第にうっすらと目に入ってきた景色に、皆が声をあげる。
「なッ!」
「ここは……」
「まさか……」
「見覚えがあるぞ……」
「地底かッ!?」
「あぁ、間違いない、地底だッ」
「うむ……」
かつて地底世界で諜報活動をしていた紫水と柊龍は確信をもって言う。
「これが……地底世界……」
美伊は初めて目にする地底の絶景に言葉を失った。
目前に広がる壮麗な景色に、皆が刹那、見惚れたのだが──。
「ちょっと待ってッ! まずいッ」
洸が声をあげる。
「萌莉ちゃんとカリンちゃんがいないわ」
久愛も周囲を見回すが、ふたりは見あたらない。
「……大丈夫でごじゃる……ふたりはヘラがさらに強制転移させたでごじゃる」
「えッ!? 強制転移って?」
「強制的にワープさせることでごじゃる」
「萌莉ちゃんとカリンちゃんはヘラさんのところにいるんだね?」
「そうでごじゃる、むしろふたりの方が安全なところにいるでごじゃる」
「それなら、ひとまず安心ね」
「だね」
「そうですね」
美伊もほっとする。
「ナインスッ! ここは危険なのか!?」
勇希がナインスに尋ねる。
「神殿からは遠いでごじゃるが、いつ敵襲があっても不思議ではないでごじゃる。さっきの転移も敵のしわざで間違いないでごじゃる……」
「のぞむところだッ! 出てこいッ!」
勇希が大声で叫ぶ。
同じころ──。
ヘラはレジスタンスの隠れ家である異次元空間のとある部屋にいた。部屋は冷たく無機質な金属の壁に囲まれている。
そこに萌莉とカリンもいたのだが──。
「な、なによ……これ……」
萌莉とカリンは両腕を後ろに拘束された状態で宙に浮く円盤型の椅子に座らせられていた。
「はずれない……ここ、どこ!?」
「やだッ……なんで……」
「うん……カリンちゃん、痛くない?」
「痛くはないけど……」
ふたりは口々にスキルを唱えるが効果は発動しない。
「なんとかしなきゃ……」
すると、ふたりの目の前にモニターが出現し、ヘラが映し出された。
「無駄です。あなたたちは戦場へは行かせられません」
「へ、ヘラさん……どうして?」
「みんなと一緒に闘うために特訓してきたんだよ」
「残念ですけれど、あなたたちは成長が追い付いていません。このまま戦場へ行くと他のみんなの足手まといになってしまいます」
「う、うそよ……少しは力になれるはずよ」
「あたしは梅佳ちゃんの敵討ちをするの!」
「それは否定しません。でも、他の人たちの足を引っ張るのは目に見えています」
「そんな……あの夢の中でのアドバイスはウソなの?」
萌莉は憤りをぶつけるように大きな声でヘラを問い詰める。
「あたしもヘラさんのアドバイス通り、がんばったのに……どうして……」
カリンは今にも堰を切りそうな涙をこらえ、絞り出すように声を発した。
「ふたりへのアドバイスもウソではありません」
「だったらどうして!? 戦場へ行かないと実行できないじゃない!?」
萌莉はさらに語気を強める。カリンは震える唇をかみしめている。
「アドバイス通りの成長ができなかったあなたたちの自己責任です。その代わり他のみんなが闘ってくれます。ここで応援するほかありません。恨むなら自分の非力を恨んでください」
ヘラが厳しい言葉を投げかける。
萌莉もカリンも、ヘラの瞳の奥に宿る覚悟を知る由もなかった。
──ふたりとも本当にごめんなさい。あなたたちが最後の切り札なのです。こうなった以上、ぎりぎりまであなたたちを死なせるわけにはいかなくなりました……。
心苦しく思いながらもヘラは心を鬼にして真意は話さない。
問答無用とばかりに突き放すヘラの態度に、萌莉とカリンは肩を落とすしかなかった。
──本当のことを語ったところで、あなたたちは目の前で仲間が死ぬことに耐えられないでしょう。無茶をするに決まっています。私のことを恨んでいいですから、機が熟すまでここにいてください……。
「ナインスッ、みなのサポート頼みましたよ」
「了解でごじゃる……」
ナインスがヘラに返事をした矢先──。
洸たちの間を一筋の光が鋭く突き抜けた。
ドゴンッ──。
鈍い音が遅れて響く。
「「うぉ!」」
「えッ!?」
「「なッ!」」
「「きゃぁ」」
「うぐ……」
「ああぁぁ」
「ナ、ナインスッ!!!!!!」
勇希が叫ぶ。
どてっぱらに穴が開いたナインスが倒れていた。
「うぐぐぐ……しまった……でごじゃる……」
「ナインス君ッ」
「ごめんよ……オイラとしたことが……」
「しゃべんなくていい。すぐ治すッ!『愛月撤灯』『海底撈月』ッ!」
勇希が回復玉を右手に出現させ、ナインスの腹部におさめる。
「ナインス君ッ! 『清廉潔白』ッ!」
久愛の右手から白光が生じ、ナインスに放たれる。みるみるうちにナインスの腹部が治癒されていく。
「それ……より……だ、第二撃に……備えるで……ごじゃる……」
ナインスが声を振り絞る。
「あ、あれです……」
美伊が指さす方向には、ばさばさと羽ばたきながら紫色の梟が旋回していた。
「敵か!?」
「うむ……」
紫水と柊龍が身構える。
「アテナの梟……敵のアテナが連れていた梟なんですけど、攻撃が早すぎて見えなかったんです。音速は優に超えていると思います……」
「確かに……さっき見えなかったぞ。次、来たらヤべえな」
アヤトも日本刀を右手に持ち、構えた。
「『両鳳連飛』!」
洸が二羽の鳳凰を召喚する。鳳凰たちはすぐさま梟の方へ飛び立ち攻撃する。
「『寄らば大樹の陰』!」
久愛は、左掌に生じた小さな魔法陣を下方へ向けて放った。神秘的な音とともに魔法陣は洸たちがいる場所を囲むように巨大化していく。そして間もなく中心部から激しい光の柱が立ち上った。
続けて巨大な木が伸びあがり、皆を幹の内部に包み込んでいく。
それでも梟は、鳳凰の追撃をかいくぐり洸たちの方へ突進してきた。
バゴンッ──。
だが、大樹は傷一つ付かない。それどころか、大樹の幹にぶち当たった梟の方が瀕死のダメージを負い、地面へと落下していった。
「以前とは硬さが違うからね」
久愛は強化した防御スキル『寄らば大樹の陰』に手ごたえを覚える。
一羽の鳳凰が梟を鋭いかぎづめで掴むと、他方の鳳凰とともにそのまま空へと飛び去っていった。
「……あの梟……私を狙っていました……きっと、ご主人の仇討ちをしにきたのだと思います……」
美伊の言葉が終わるや否や、今度は黒い煙が洸たちの周囲に立ち込め始める。
「な、なに……これ……?」
「どうして大樹の中に……?」
「一難去ってまた一難のようだぞ」
翔也が皆に声をかけた。
最後までお読みくださりありがとうございます。ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しております。最終章で完結しますのでどうぞよろしくお願い申し上げます。
□語句スキル解説
※今回登場するスキルはすべて過去に使用したものですが、パワーアップしています。
『愛月撤灯』『海底撈月』
……◆『愛月撤灯』は極めて激しくものを大切にしてかわいがることを意味する。「月を愛して灯を撤す」ともいう。語源となったのは唐時代の中国、酒の席で美しい月をみるために灯りを消させたという故事である。ここでは、玉の中にいる者を大切に守るスキル。微力ながら回復・治癒の効果もある。
……◆『海底撈月』とは、実現できないことに労力を費やし無駄に終わること。海面に映っている月をすくいあげようとすること(=「撈月」)が語源。「海底に月を撈う」とも読み、同義語には、猿猴取月、海中撈月、海底撈針、水中捉月、水中撈月と数多くあり、みな同じ意味である。ここでは、『愛月撤灯』スキルをさらに強化するもので、敵のスキルが効かず、無駄に終わらせるという強固な防御スキル。
➡強化されたので小さな玉をそのまま損傷部へあてるだけで回復効果がある。
『清廉潔白』
……心や態度が美しく清くりっぱで、私利私欲がなくよこしまな気持ちを一切もたないことを意味する。ここではダメージを負った者をキレイに治すということで、第一部からある久愛の回復スキル。だがかなり強化されている。
『両鳳連飛』
……二羽の鳳凰が連なって飛ぶさまから、転じて兄弟などがそろって出世することをいう。ここでは従来から使っていた不死鳥を二羽、召喚させるスキルのこと。
『寄らば大樹の陰』
……頼るなら大きなものに頼る方が安心でお得だという意味。ここでは大木の中に入った仲間を鉄壁に防御するスキル。
以上となります。
次話では新キャラ登場!? 乞うご期待(*´▽`*)




