#63 第62話 鉄は熱いうちに打て・狐につままれる
何とか予告通り5月3日に更新できましたが予定より更新時刻が遅くなり申し訳ないですm(_ _)mずっと読んでくださっている方々も、はじめてお越しの方も、ありがとうございます(*´▽`*)
さっそく第62話はじめます!
地底世界──。
真の地球人こと地底人たちが、暗い一室に集っていた。
「ポセイドンに続いて、ミダス、ハーデスまでヤられるとはな……」
高座に設置された玉座から、ゼウスが静かに言葉をこぼす。
側近たちは何も言えずにいたが、突然、彼らの足元が揺れ始めた。
ひとりの大男がその巨体を貧乏ゆすりさせていたのだ。その大男が口を切る。
「だから、最初から俺が行けば良かったのだ、人類上がりの貧弱なポセイドンらなんぞに任せずにな。ハーデスまでやられたのなら、俺の出番だろ、ゼウスさんよぉ」
ポセイドンよりひとまわり巨大な青い肌の男が息巻く。
二本の角を生やし、藍色の長髪が乱れている。何も身に付けていない上半身と、パレオのような短い腰巻きから伸びた大腿部が凄まじい筋量であることを物語っている。そして胸にはハーデスと似たような黒の紋章があった。
「ヘパイストス。ゼウス様に無礼であろうが。ゼウス『様』と呼べ」
薄紫の長い髪に、赤紫色の瞳をした女性が静かな声でヘパイストスをたしなめる。黒い淵のある白い法衣をまとい、胸元にある赤紫色の装身具が妖艶な光を放っていた。
「うるせえぞぉ、アテナぁ。いつも口だけのひよっこがっ」
ヘパイストスががなり立てる。
「まったく品のない男……ふぅ……」
アテナがあきれ顔でため息をこぼす。他の側近たちは沈黙を貫いている中、ゼウスが口を開く。
「我が判断を誤ったのは事実だ。優秀な手駒を減らしたくなかったのもあってな。もはやヘパイストス・イパヘ、アテナ・テア、お前たちクラスでないとあの厄介な者たちは排除できぬであろう」
「俺ひとりで十分だ。かえって足手まといになる」
「ゼウス様、私はゼウス様の命に従いますが……」
不満気なふたりを見下ろしながらゼウスは刹那、沈黙したが、キッと睨むような目つきで声を荒げる。
「ハーデスのこともある。単独行動は慎め」
「承知しました」
片膝をつき跪くアテナに対して、ヘパイストスは立ち上がりながらゼウスに言う。
「こいつでなくても、単独でなければよいのだな? ゼウス、さ、ま」
「まあ、よかろう」
ゼウスが答え終わるか否かの間に、ヘパイストスは消え去った。
地上──。
洸や久愛、カリンたちが登下校に利用する最寄の駅。
GW明けの気怠さが漂う学校を後にした洸と久愛、アヤトの三人はバトルの特訓のために駅に近い公園に向かっていた。
GW中は賑わっていた駅付近の繁華街も、GWが明けると人気はめっぽう減る。
物寂しさの漂う公園にまもなく着くというタイミングで、三人の耳にブーンという音が入った。
「えっ!?」久愛が声を上げる。
「こ、これは……」洸があたりを見回す。
「KAYAだな」
三人とも異次元空間のバトルフィールド『KAYA』が設定されたことに気付く。
「誰かが設定したってことよね?」久愛がふたりに尋ねる。
「うん……誰か特訓しようとしてる? 誰だろ」洸は首をかしげる。
「それならいいが……」
アヤトは真っ先に敵の来襲を懸念したものの、同時に疑念もわく。
──敵もKAYAを設定できるのか!?
そのとき突如、シューンという音とともに淡い黄色の光が走る。
それが人を象っていることに三人が気づくと同時に、今度はドーンという爆音が響いた。
舞い上がった土煙から現れたのは、強大な男ヘパイストスであった。
「ポセイドンをヤったのはどいつだあ?」
「「「!!!」」」
三人は、度肝を抜かれたものの、即座に臨戦態勢に入る。
間髪入れず、再度、シューンと言う音が響く。同時に青い光が走り、ふたりの人を象っていった。
現れた一方は紫色のツンツンした髪型で、瞳も紫色をした少年。身に付けている制服は洸たちの学校の制服で、額にはバンダナのような青い額当てをしている。
他方は深緑色の長い髪で緑色の瞳をした少年。同じ制服を着て、額当てもしているが、色は黄緑であった。
「敵!?」
言いながら久愛はすぐに防御スキル『寄らば大樹の陰』を唱えた。
「俺らと同じ制服じゃね?」
アヤトが言うそばで、洸も身構え、スキルを唱えようとする。
だが──。
「『テツハアツイウチニウテ』っ」
大男ヘパイストスが野太く大きい声で唱え、拳を振り上げながら、凄まじいスピードで洸たちとの間合いを詰めてくる。
「は、はやいっ。ま、間に合わないわ……」
「ポセイドンみたいなパワー型?」
「ちっ。パワーだけじゃなくスピードもポセイドン以上だ」
大男ヘパイストスは三人に巨大な拳を打ち込んできた。
ドゴンッ、バゴンッ、ドゴンッ──。
パンチの音と言うよりはダイナマイトの爆発するときのような爆音が響く。
ヘパイストスが拳を繰り出すたびに、火炎が舞い上がった。
「ぐはっ」
「うぐっ」
繰り出された強烈な打撃を洸とアヤトはモロに食らってしまう。
久愛は唱えたスキルでかろうじて自身のダメージは減らせたが、洸とアヤトを守ることができず、ふたりは衝撃で後方へ吹っ飛ばされた。
「ま、まずい……腕が……」
「ちっ。あばら骨までいってやがる……」
洸とアヤトはともに防御した腕が粉砕されるにとどまらず、ダメージは胴体にまで及んでいた。
「『寄らば大樹の陰』!」
改めて防御スキルを唱えた久愛は、すぐさま回復スキル『清廉潔白』も唱える。
「洸っ! アヤト君っ!」
立ち上がれないふたりは、激痛に呻き、久愛の呼びかけに答えられない。
「ガハハハ。火山と鍛冶の神ヘパイストスの末裔のこの俺様に、木で防御とは笑わせてくれるわ。おい、テウメッサ、アイオロス、手出しするんじゃねえぞ。お前らは、ゼウス様の命で、仕方なく連れてきただけだ」
「了解」紫の少年が額当てに触れながらこたえる。
「うむ」緑の少年アイオロスも、静かに返事をした。
うずくまっている洸。
──体が思うように動かない……。
かつてない程のダメージが焦燥感を煽る。
アヤトも立ち上がることができない。
──これはやべぇ。マジでやべぇぞ……。
久愛の顔は青白くなっていた。
──まずいわ。ふたりともダメージが大きすぎる。回復する前に次が来る。防御ももたないかもしれない……。
「終わりだな、あっけねえ。ポセイドンをヤったのはお前らじゃないのか?」
ヘパイストスの容赦ない追撃が三人を襲う。
そのとき──。
紫色の少年テウメッサが、緑色の少年アイオロスに目で合図を送る。
アイオロスがそれに応じ頷く。
「『キツネニツママレル』」
紫の少年テウメッサが唱えると、その右の人差し指に薄紫色の小さい炎が灯った。
さらに周囲に紫色の火炎と煙が舞い上がる。テウメッサが構えると火炎と煙が渦を巻いた。
久愛たちは、テウメッサの挙動に目を疑った。
テウメッサは、火炎の灯る指を、洸たちではなく、ヘパイストスに向けたのだ。
最後までお読みくださりありがとうございます(*´▽`*)ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しております。かなり励みになっていますので続きが気になる方はぜひよろしくお願いいたします。
【語句スキル解説】
□鉄は熱いうちに打て
……鉄は熱く軟らかいうちに鍛えることから、①良い時期を逃さずに取り組むべきだ、又は、②人は柔軟性のある若いうちに鍛えられるのがよい、という意味をもつ。ここでは、バトル開始時に相手の出鼻をくじく一撃を放ったり、それに準じた意表を突けるタイミングで、攻撃を仕掛けたりするスキルのこと。
□狐につままれる
……本来は、狐に化かされるの意。「つつまれる」は誤用。この意から転じて、意外な事が起こり、わけもわからずぽかんとすることをいう。
ここでのスキル効果については次話にて。
□ヘパイストス
……ギリシャ神話における炎と鍛冶の神のこと。地底人たちは権威付けのために神々の末裔と名乗っている。なお、胸の紋章は「生粋の地底人=意識のみの地底人として生まれたもの」の証として、擬態時に刻まれるものだが、紋章のある体の部位はいろいろなので衣装によっては見えないこともある。もともと人間であったポセイドンやロキ、ヘスティアには紋章はない。
□テウメッサ
……ギリシャ神話に登場する狐の怪物。
□アイオロス
……ギリシャ神話における風の神。同名の神が他にも複数いるため混同されがちであるが、ここではポセイドンの子とされるギリシャ神話における風の神アイオロスをさしている。
ここまで読んでくださり改めて感謝です。ありがとうございます(*´ω`*)
洸たちと同じ制服を着た紫の少年テウメッサと、緑の少年アイオロスは何をしようとしているのか!?いったい何者なのか!?次話以降、お楽しみに!!!




