#41 第40話 盲亀の浮木・天狗の隠れ蓑
ずっと読んでくださっている方々も初めてお越しの方もありがとうございます!いいね、感想、ブクマ、評価してくださった方々、死ぬほど感謝していますm(_ _)m
果たして梅佳と洸はこのピンチを切り抜けられるのか!?
※今回もチョイグロありです。呪術廻戦、鬼滅の刃もダメだという方はご注意ください。
第40話、始めます!
「さっきから何なのぉ~? 窮地にたって頭がおかしくなったぁ~?」
ロキは梅佳にそう言いながらも、何かあるかもしれないと用心し、次の一手を躊躇していた。
──洸に伝わったか? 逃げておればよいのじゃが……。
梅佳は最後の手段に入るタイミングをうかがっていた。
だが、洸は逃げずに、『人中の龍』スキルで青紫龍を出現させる。そして、頑丈な扉に向けて放った。
ドゴンッ──。
洸の放った龍が勢いよく扉にぶち当たると、あたりに爆音が響き渡るが、扉も壁もビクともしない。青紫龍はその衝撃で粒子となって散り、消失していった。
「あらぁ~、お仲間がおいでなさってよぉ~。中には入れないけどねぇ~キキキキキ」
部屋の外に救援が来たことを察し、内心では焦燥をおぼえるロキ。
──ちっ……万が一、中に入られでもしたら面倒だわねぇ……。
──洸……まだそこにおるのか……。
「だ、だめだ。ビクともしないっ……」
洸は必死に打開策を練る。
──ひとまず、攻撃より梅佳ちゃんを守る道を探らなきゃ……。
「『モウキフボク』『テングノカクレミノ』」
洸は唱えながら右の掌を前方へ出す。掌から青紫色の煙が生じもわもわと零れ落ちていく。青紫の煙が亀を象っていくと、残りの煙は蛇となって亀に巻き付いていった。
「よしっ。玄武、梅佳ちゃんを守るんだ」
洸が『盲亀浮木』スキルで召喚したのは、中国の神話における四神の一柱「玄武」であった。本来「玄武」は黒や緑色をした亀と蛇の守護神である。だが、洸が生み出した「玄武」は、青紫色に輝いていた。
歩みこそゆっくりであるが、『人中の龍』スキルでもビクともしなかった扉を難なく通り抜けていく。
──こ、これは……。見たことはないが……この青紫……洸のスキルか……。
玄武は梅佳の前で動きを止めると、梅佳を守るようにロキの方へ向きを変えた。
──わらわを守ろうというのか……。ん!? ロキの奴には見えておらぬのか?
洸が放ったもうひとつのスキル『天狗の隠れ蓑』によって、ロキは「玄武」の姿を認識できなかったのだ。
──……そして……物理攻撃では壁や扉を破壊できなかったがゆえに、この亀と蛇に通り抜けさせたということじゃな……。洸、でかしたぞっ!
最後の手を使う覚悟を決めた梅佳の顔が引き締まる。
「ロキよ……わらわがスキル以外に武器を持たずに来たとでも思っておるのか?」
「あらぁ~、まだ、あきらめていないのね。その瞳、気に入らないからいただくわ~、どんな武器があっても目が見えなければ無意味でしょ~キキキキキ」
ロキの両目が再び光る──。
「ぐぁあああああああああああ」
梅佳の両目から血が噴き出す。
ロキは右手に現れた梅佳の両目玉を眺め、そのうちの一つを口の中へほり込んだ。レロレロと舌で梅佳の目玉を舐めまわしてから、ペッと吐き出す。
端末映像の梅佳を見た洸が声を上げる。
「梅佳ちゃんっ!? 顔から血!? また攻撃された!? 玄武の防御が効かないのか!? いったい何の攻撃を受けてるんだ!? 付け焼き刃じゃダメなのか……」
玄武の防御が功を奏さなかったことに洸は落胆した。
「うぐ……ロキよ、貴様、わらわが目を奪われたくらいで諦めると思うたかっ!」
暗闇にいるように何も見えなくなっても梅佳は全く動じない。右手にテニスボール大の赤い玉をもって、あえてロキに見せつけるように掲げた。
「強がってんじゃないわよっ」
ロキは声を荒げる。
「もとよりスキルが使えなくなる可能性も想定済みじゃ、たわけがっ! これで貴様を切るっ!」
──さぁ、こいっ! ロキっ!
「ふーん。その玉、刀か剣にでもなるの? バカねぇ~それなら右手ごと武器もいただいくだけよぉ~キキキキキ」
ロキがそういうと、梅佳の右手は赤玉を所持したまま手首から切断され、ロキの手元に瞬間移動した。
「ぐぁあ……」呻く梅佳。
ロキは奪った梅佳の両手を邪魔なゴミでもあるかのように投げ捨てた。
「これであきらめはついたかしら? 万事休すよ~、や・よ・い・う・め・か」
「ふぅ……フフ」
ゆっくりと梅佳が息を吐く。
「!?」
「……フハハハハ」
梅佳が笑い声とともにニヤリと笑みをこぼす。
──な、なによ? 気でも狂ったの?
「……わらわを……甘く見るでないわ……死なばもろともじゃ……わらわと闘って勝ちたければ、すぐに心の臓でも奪っておくべきじゃったなっ」
梅佳が言い放った刹那、赤い玉──アナログ式時限爆弾が爆発した。
ロキはもちろん、梅佳も洸のスキル「玄武」とともに爆風に飲み込まれる。
四方の頑丈な壁を崩すほどの威力がある爆発だった。
だが、部屋の入口にいた洸は強固な壁が防御壁となってかすり傷程度ですんだ。
「な、なんだ……この爆発……う、梅佳ちゃん!?」
洸が崩壊した壁を飛び越えて室内に入ると、爆風で倒れて動かない梅佳とロキの姿が目に入った。
「梅佳ちゃんっ!!!」
洸はあわてて梅佳の元へと駆け寄る。梅佳は両手と両目を失った無残な姿となっていた。
「梅佳ちゃんっ!」
「うぅ……」
洸が梅佳をやさしくそっと抱きあげる。
──ひどい怪我だ。なんてことだ。
洸は端末で久愛に連絡しようとしたが通信がつながらない。
「梅佳ちゃん、ごめん、僕のスキルじゃ守れなかった……」
「洸か……そんな……ことはない……そなたの……スキルで……即死は……免れた……」
「回復スキル、使えないんだよね?」
「……あぁ……スキルが……つか……えぬ……」
「あいつにとどめを刺してくる。そうしたらスキルを使えるようになるかもしれない」
「……おそらく即死か……瀕死じゃろう……」
「敵が死んでも解除されるか分からないのか……じゃぁ、久愛のところに戻ろう。回復してもらうんだ」
「洸……す、すまぬ……」
意識が途切れそうになる梅佳に洸が再び大きな声をかける。
「梅佳ちゃん、大丈夫、もう少しがんばって」
「洸……すまぬ……わらわは……」
「大丈夫だよ。梅佳ちゃん。久愛のところに戻れば……」
「ちが……う……わら……わ……」
「!?」
「わら……わは……」
「ん!?」
「……ク、クィーンキングの……」
「え!?」
「……生まれ……変わり……」
洸は梅佳の口からかつての敵の名が出たことに一瞬驚くも、すぐに穏やかな顔に戻った。
「……やっぱり、そうだったんだね……」
「……き、気づいて……おったの……か……」
「確信はなかったけどね……」
「そ、そうか……皆……も……か」
洸はかぶりをふった。
「いや、たぶん、ぼくだけだよ。僕は昔のバトルで、君と同化して体内に入ったせいかな。なんていうか、会うたび、肌感でね。もしかして?って何度も感じてたよ」
「あの……ときの……罪ほろ……ぼしに……」
「……なるほどね。何かと厳しかったり先走ったりする梅佳ちゃんがずっと気になってた。特に最近は様子が変だったよね」
「……さすがじゃ……の……」
「今すべて謎が解けた。大丈夫。もう話さなくていい。意識だけしっかりもって」
洸は目を細めて梅佳にやさしく声をかけた。だが、裏腹に梅佳の意識は遠のいていった。
「梅佳ちゃん? 梅佳ちゃん!?!?」
意識を失った梅佳の口元に、洸は顔を寄せる。
まだ呼吸があるのを確認した洸は再度、久愛への連絡を試みた。
──つながったっ!!!
「洸! 大丈夫? すごい爆発音と揺れが」
「僕は大丈夫だけど……爆発で梅佳ちゃんがまずいんだ。すぐ来てっ」
最後までお読みくださりありがとうございます。ブクマ、評価、いいね、感想をくださった方々、本当に感謝しております。かなり励みになっています。今後ともよろしくお願い申し上げます。
□語句・スキル解説
『盲亀浮木』……「盲亀の浮木」が一般的。物事を成就させたり、人に出会ったりすることが難しいことをたとえた仏の話が語源で「めったにないこと」を意味する。ここでは、希少な幻獣(神)である「玄武」を召喚するスキル。洸の最高レベルの防御スキル。
※ちなみに、玄武は爆発を予測して瞬時に梅佳を守ってくれました。ちなみに亀と蛇という二種の幻獣のコンビですが、今回は目立った活躍や詳細を省略しています。今後の玄武もお楽しみに!
『天狗の隠れ蓑』……天狗や鬼などがもっている、身に着けると身を隠すことができる蓑(衣装)。 転じて、実体を隠すための表面的、形式的なもの、を意味する。ここでは、スキルで召喚した幻獣を敵から見えなくするスキル。洸はスキル発動時にイメージすることによって、敵だけに見えない(味方には見える)ように工夫している。
以上になります。




