#39 第38話 虚言癖再び
予定より遅くなって申し訳ないです。挿絵を増やすとどうしても遅れます(;・∀・)
では早速ですが第38話スタートです!
五人の目の前に現れた赤髪の男に向かって勇希が叫ぶ。
「翔也さんっ!!!」
「翔也君!」
「ん? 翔也さん?」
「えっ!? 翔也君なの!?」
目の前に現れたのは翔也であった。歩み寄ろうとした洸たちを押しのけるようにして勇希が駆け寄る。
「ダ、ダメじゃ。勇希っ! 待てっ! 『血の雨を降らす』!」
勇希のあとを凄まじい瞬発力で追いかける梅佳は同時にスキルを唱え、ワインレッドの拳銃を右手にもち照準をあわせようとする。
──ダメじゃ、勇希にあたるっ。
梅佳は左足で地面を蹴って進路を右前方へと変え、空中で体をひねり、翔也に銃口を向ける。
バンッバンッ──。
だが、銃弾を避けるかのように翔也は素早いステップで勇希との間合いを詰めた。
梅佳の放った銃弾は翔也の残像をすり抜け、奥の壁にめり込む。
──ま、間に合わぬか……。
翔也は無防備に近寄ってくる勇希の顔面に容赦なく渾身の右ストレートを打ち放つ。
バゴンッ──。「ぐはっ」
強烈なカウンターを食らった格好になった勇希は、真後ろの洸たちまで吹っ飛ばされた。
「うおっ」「うぐっ」
洸とアヤトが勇希を受け止める。勇希は顔面から血を流し、意識を失っていた。
「えええ!? どうして? 翔也君が!?」
「翔也君! 僕たち助けに来たんだよっ」
「翔也さんじゃないのか!?」
混乱する洸たち三人と翔也の間に、武器を拳銃から赤い刀へと変えた梅佳が立ちはだかる。
続けざま、目にもとまらぬ斬撃で翔也を切り裂いた。翔也の体はあっという間に細切れにされ、体の欠片が粒子となって舞い散り消えていく。
「あやつは翔也ではないっ! 敵じゃっ!」
「えええっ!?」
「なっ なんで!?」
「私たち、敵に見つかったってこと?」
「そ、それは……おかしいでごじゃる。オイラの作戦が見破られたのなら信じられないでごじゃる……」
表情こそ変えないが、ナインスの声に焦燥の色がにじむ。
「『血眼になる』」
梅佳はスキルで付近を探索し始めた。梅佳の赤い瞳に映る翔也の姿が、動画の巻き戻しのごとく後ろ歩きをしていく。
「お、おぬしらはここで待機して勇希の治癒を頼むっ」
そう言うや否や、梅佳は瞳に映る翔也の戻る道をたどって通路を進んでいく。
「梅佳ちゃん、待って! 単独行動は危険だ、僕たちといっしょに行こう」
梅佳は聞こえているはずの洸の声に反応せず、通路のつきあたりで右方向に曲がった。
「とりあえず勇希君を治して梅佳ちゃんを追いかけよう」
「そうね、アヤトくん、勇希くんをそのまま抱いててね。『清廉潔白』」
久愛が勇希を治癒すべくスキルを唱える。
「……あれ?……おかしい」
「久愛、どうした?」
「地上より、回復スキルの効きが悪い気がするの……」
「ほんとだね。今まで通りなら、すぐ治って、意識もすぐ戻るはずだよね?」
「顔の怪我は治ってるようだが……」
勇気を抱えたままアヤトがこぼす。
「敵の仕業としか考えられないごじゃる。もともとオイラたちが仕掛けたバトルシステムでごじゃるから、急にスキルが弱くなることはないはずでごじゃる……」
落胆の声を零したナインスはつぶらな瞳を閉じ、宙でゆらゆらと揺れている体の動きをピタリと止める。現状の解析を始めたナインスの周囲から白い粒子の光が集まってきた。
「じゃあ、久愛とアヤトは、ここで勇希君を診てて。僕は梅佳ちゃんの後を追うよ」
「わ、わかったわ」
「洸、俺も後で行くけど、アイツと合流できなかったら戻って来いよ」
「うん、了解」
洸が梅佳の後を追い始めたとき、すでに梅佳は偽翔也が出てきた部屋の前に到着していた。
──ここから先は見えぬな。おそらくこの中にアヤツがおるのじゃろう。
かつて自身の出自を伝え仲間になるように誘ってきた敵ロキ・ロキロがいることを察しても今の梅佳は動じない。
「『朱に交われば赤くなる』」
部屋の扉と同じ色に同化した梅佳が部屋の中に溶け込むように入っていく。
中に入ると、壁のあちこちが光り、地上でも見かけない装置やコンピューター、空中モニターがあった。高度な科学技術が伺える部屋だ。
そして、梅佳の予想通り、ロキが待ち構えていた。
「おひさしぶりねぇ~いらっしゃ~い。さすがねぇ~、弥生梅佳。でも助けに来た仲間を殺しちゃダメじゃな~い、キキキキキ」
「戯言はよい。貴様のスキルじゃろう。殺されたくなければ、はよう極月翔也を出せ」
臨戦態勢に入った梅佳が声を荒げる。
──『血眼になる』で探索したいが、その間、他のスキルが使えぬしのぉ……。
「あら~つれないわね~。私の『虚言癖』につきあうくらいの心のゆとりはもたないとぉ~。本物そっくりだったでしょ? 『ウソモツキトオセバマコト』っていうスキルよぉ~キキキキキ」
──殺気立ってるわねぇ~でも、極月翔也の居場所を聞き出すまで手を出せないわよねぇ~キキキキキ。
「戯言はよいと言うたであろう。過日のごとく切り刻んでから心のゆとりをもって聞いてやってもよいのじゃぞ」
──極月翔也の囚われ方が分からぬのが厄介じゃのぉ……。
「前にも言ったけれど、私はあなたと闘う気はないのよ。だって、私、あなたより弱いからねぇ~勝てないバトルはしない主義だって言ったでしょぉ~キキキキキ」
──あと少しで『虚言癖』の完成ねぇ……。
「ならば、早く極月翔也を解放せよ。さすれば、今回も見逃してやろう」
「ウフフ。今日は問答無用で攻撃してこないのねぇ~? ここを突き止めたスキルで極月翔也を探してみたら? キキキキキ」
──もう完成したわね。弥生梅佳ともあろう者が油断しすぎぃ~キキキキキ。
「ならば望み通りにしてやろうぞ」
梅佳がスキルを唱える。
「『血の雨を降らす』っ!」
「ん?」
異変に気付いた梅佳は他のスキルもいくつか唱えてみるが、すべて発動しない。
──ま、まさか……。
「ウフフフフ。私の勝ちよ。この前、我慢した甲斐があったわ~先を見据えて仕掛けた罠にかかってくれた瞬間って、至福の時よねぇ~キキキキキ」
「貴様のスキル、まさか、スキル封じか!?」
──し、しまった……。わらわとしたことが……。
「ご名答! 私の『虚言癖』スキルはあらゆるスキルの発声を虚言とするのよ! すごいでしょ~キキキキキ」
──スキルの完成に時間がかかるのが玉に瑕だけどねぇ~キキキキキ。
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□語句・スキル解説
『嘘も突き通せばまこと』
嘘として話されたことが、人から人に伝えられるうちに本当の話になってしまうことを意味する。ここでは、3Dホログラムを出現させ、変装させるスキル。時間を経るほど又本物の情報を得るほど、実物に近くなる。潜入などで役立つスキルであるが、ロキは狡猾でやらしい使い方をした。




