寝すぎ10 映画のワンシーンのようにカッコよく! ……去、れない?
「楽しかったよ。ネルト。名残り惜しいけど、残念ながら時間だ。そろそろ僕たちは行くとしよう」
コゥン、コゥン……!
ハワードのその言葉に応えるように、照りつける病院の屋上に影がさした。
魔導飛空艇――〈果ての先〉の時代の魔導文明の極致とも言える人類の夢、空を渡る船。
それも、都市や各国の間を運行する貨物運搬型や大型旅客型ではない――多彩な作戦行動をとれるよう少人数での運用を想定した、最新鋭の小型高速飛空艇。
いまや大国に匹敵する影響力を持つ世界的一大組織となった冒険者協会が所有し、現在は幹部のみがその運用を許される、その名を〈ネオフロンティア〉号。
ジャラララララッ……!
「フィーリアっ!」
「はい……! ハワード……!」
いっこうに降りてくる気配のない〈ネオフロンティア〉号にどうやって乗りこむのかと思えば、底から降りてきたのは一本の太い鎖。
跳び上がり、それを片手でガシッと握りしめたかと思うと、もう片腕で飛びついてきた旅装の妻フィーリアをハワードはしっかと抱きとめる。
そして、そのまま二人つかんだ鎖に揺られ、仲睦まじく寄り添うように高く高く青々とした空へと昇っていくさまは、まるで映画のワンシーンのようだった。
「もう……! パパったら、あれを自然にやってるんだから、すごいわよね……!」
「ん。ハワぱぱとフィーまま、いつもカッコいい。いつもらぶらぶ」
「かーっ! 見せつけてくれるぜ! ……あー。そういや、まだ言ってなかったっけな?」
どこか、少しまぶしそうに、手の届かないものを見るようにネルトは目を細めた。
それから、吹っ切れたようにカッと目をおもいきり見開くと、手を口もとにあて、声の、力のかぎりに空に向かって、叫ぶ。
「ハワードっ! フィーリアっ! 10年以上も遅れて悪ぃっ! 結婚おめでとうっ! 心からっ! 祝福するぜっ!」
そのネルトの言葉に、ハワードとフィーリアは、感極まったように、しばし顔を見合わせた。
「……ああ! ありがとうっ! ネルトっ! 僕の最高の親友っ! 君なら、僕の大切な娘たちを安心して託せるっ! ふたりを頼んだっ!」
「ネルトさんっ! ありがとうございますっ! パフとスピーを、どうか……!」
それから、落ちないようにフィーリアにもう一度しっかと抱きつかせると、鎖をつかんだ手とは逆の腕を離し、地上に向かって、ハワードは親指を立てる。
「ネルト! パフ! スピー! 僕は、ずっと待っているよ! 君たちが見事〈果ての塔〉の試練を越えて、〈第一の果て〉の先へ――僕たちのいる〈人類の最前線〉へと到達するのを!」
――それは、20年眠り続けていたネルトにとって、実感のない聞きかじっただけの知識。
まだ、そこに至る困難も努力もまったく想像できない――
「ああっ! ハワードっ! 必ず、行くぜっ! パフと、スピーと、いっしょによっ!」
――それでも、ネルトは誓いを立てる。かたわらに寄り添う頬を少しだけ赤く染める姉妹の肩にポンと手を置きながら、渾身のドヤ笑顔で。
ふふっ、とそれを見て夫婦それぞれに笑顔をこぼすと、鎖で上に引っぱり上げられ、ハワードたちは〈ネオフロンティア〉号の中へと入っていった。
ジャララッ……!
と思ったら、直後すぐに降りてきた。
「それはそれとして! また休みには、フィーリアといっしょに帰るから! 愛してる! パフ! スピー!」
それだけ言うと、ふたたび引っぱり上げられ、今度こそコゥン、コゥン……! と静かな音を立て、〈ネオフロンティア〉号は去っていった。
「も、もう……! パパったら……!」
「ふふ。ハワぱぱらしい」
そんな、どこかいまいちしまりのない去り方をする父と母が向かって行った――彼方に〈人類の最前線〉がある方角を娘姉妹はしばし見つめているのだった。
――愛おしそうに、まぶしそうに。いつか必ず自分たちの力で、とかたく決意をこめたように。
これで一つ目の区切りとなります。
次回、パフィールが呼んだ、思わぬ迎えにネルトは……!?
明日投稿! 場合によっては今日かもです!
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