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第三十三話 初めての謝罪

「あたしが怒ってるの、それだけだと思ってる?」


 叶衣さんの言葉に、男子一同は無言になる。

 全員特に心当たりがないって感じの顔だ。

 そしてそれは俺も同じだった。


 叶衣さんはじろっと藤咲を睨みつけた。


「あたしと櫻田君の放課後のやり取り、盗み見してたんでしょ?」

「あ、あぁ。たまたまな」

「それをネタに櫻田君に散々嫌がらせしてたって聞いたけど」


 そのままゆっくりと佐野を見た叶衣さんによって、こっちの裏事情もばらしていたことが判明する。

 というか、その話だったんだ。

 なんか情けなくて恥ずかしくて、笑えてくる。


「そ、それはさ。だって隣の席になってちょっと話したくらいで勘違いする櫻田君きめーじゃん」

「人のそういう話をネタにする方がキモいけど?」

「……」


 叶衣さんはキレていた。

 先程まで自分への噂については特に口を挟まなかったのに、今度は隠そうともせずに怒りをぶつける。


 そんな彼女に続いて、女子達の怒りのポイントも徐々にずれていった。

 叶衣さんはさらに続けた。


「人の告白を馬鹿にするとかありえないんだけど」

「お、お前だって迷惑だっただろ」

「は? 勝手に決めつけないで。別にそんなことないし」

「でも櫻田君は月菜に嫌われてるって言ってたぞ……?」

「それはこの人が何か勘違いしてただけ。そりゃ告白された時は驚いたよ。でも別に元から嫌ってもなかったし、迷惑だなんて思ったことはない。……嬉しかった」


 そう言った叶衣さんは若干顔が赤い。

 俺を含めた男子諸君は全員口をあんぐり開けた。

 お、俺の告白をそんな風に受け取ってくれていただなんて。

 初めて聞く彼女の本心にドキッとした。


「櫻田君にも謝ってよ」

「……ふざけんな。誰がこんな陰キャに」


 さっきと違って簡単に頭は下げない藤咲。

 続いて山野も口を開く。


「そうだ。これは俺達の問題だから月菜は関係ないだろ」

「あたしがその話に関係あるとかどうのこうのはさて置き、人間として倫理的にどうなの? あたしが言いたいのはあんた達がキモいってこと」


 しかし、すぐにぴしゃりと言われて黙らざるを得なかったみたいだ。

 すぐに女子達から追加攻撃をくらい、男子達は再び黙る。


 これは仕方がない。

 当事者たる俺が黙ったままなのも良くないし、話に加わろう。


「まぁ別に、俺に謝ることはしなくていいよ。この前やり返したし、お互い様だから」

「櫻田君いいの?」

「うん。そんなことより、二度と叶衣さんの噂を流さないことと、過去の話は嘘だったとみんなに訂正することを約束して欲しい」


 真っ直ぐ見据えて言ったところ、藤咲と山野は不服そうに顔をしかめた。

 思う所はあるだろう。


 と、不服だったのは男子だけではなかった。


「……なにそれ。馬鹿みたい」

「はは、まぁいいんだよ。俺のせいでもあるし。あんな場所で告白してしまった俺が悪いから」

「そんなわけ、ないじゃん」

「そうかな」


 叶衣さんの噂自体は俺が告白する前から流されていたみたいだけど、俺の件は正直自業自得も良いところだからね。

 確かに複数人で寄ってたかっていじめられるのは堪えたけど、それだって原因は俺が告白したからだけではない。

 つなちゃんとのキスの影響も少なからずあるはずだ。


 何て言いながら頬を掻いていた時だった。


「あたし、好きだよ」

「え?」

「あたし、櫻田君のこと、好きだよ」


 目の前で呟いた叶衣さんに、俺はゆっくり瞬きする。

 そして首を傾げた。


「え?」

「最初は別に意識してなかったけど、告白されてからあたしも櫻田君の事気になってたの。それで、優しくて、案外男らしいところもある櫻田君に惹かれたって言うか」

「えぇっ!?」


 大声が出た。

 俺だけでなく、クラスの男子達からも似たような声が上がった。

 女子はニヤニヤしているだけだし、知っていたのかもしれない。

 え、嘘でしょ。

 なにその話……!?


「だからごめん、あたしの中で終わらせられないから、ちゃんと謝らせたい」


 叶衣さんは自分の告白なんて大して気に留めず、再び俺の背後にいる男子達に目を向けた。


 その日、俺は初めて男子達から謝罪を受けた。

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