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第三十話 家にサキュバス

「ただいまー」


 帰宅したので挨拶をしたけど、いつもの姉の声は返ってこない。

 鍵が開いているだけで帰宅はしていないのだろうか。

 不用心すぎる。

 それともトイレかな。


 不安に思って玄関に目を落とすと、姉の靴ともう一つ女性モノの靴が並んでいた。

 どこかで見たような靴だ。


 恐る恐るリビングの扉を開けると、中には二人の女の子がいた。

 姉とつなちゃんである。


「つ、つなちゃん?」

「瑛大君おかえりー」

「た、ただいまです」

「あれ、もう帰ってきたんだ。音聞こえなかった」


 姉はイヤホンをつけていた。

 俺の挨拶に返事がなかったのも納得。

 だけど、そんなことより俺は家にいるもう一人の女子大生が気になって仕方がない。

 つなちゃんは苦笑しながら俺に視線を送ってくる。

 どうやら成り行きで来ざるを得なかったみたいだ。


「今日弓川先輩とたまたま会ったから、そのまま家に招いたの。瑛ちゃんとも仲良さそうだし」

「そ、そっか」

「今はおすすめの音楽聞かせてもらってたの」


 姉は恐らく、つなちゃんがサキュバスであることを知らない。

 そんな状態で家に上がり込むのは非常にリスキーだ。

 断っても不自然だし、姉と知り合ってしまった以上、つなちゃんには大変な思いをさせてしまったらしい。

 この前不用意に家に招き、姉に見つかった俺の不手際だ。

 本当に申し訳ない。


「あ、私トイレ行くから二人で話しておいて」


 急に言い残して部屋を去る姉。

 俺とつなちゃんの二人きりの空間が生まれてしまった。


「……久しぶりだね」

「そ、そうだね」

「週末はデートだったんでしょ? 楽しかった?」

「ま、まぁ。めちゃくちゃ楽しかったです」

「そっか。彼女できちゃったんだね」

「い、いや! 付き合ってないですから!」

「え?」


 俺の否定につなちゃんは目を丸くした。

 勘違いされると困るので、俺は丁寧に説明する。


「デートって言うか、遊びに行ったっていうニュアンスの方が近いですし。え、えっと、だから俺はまだ彼女いない歴が年齢だし、ど、童貞だし」

「あはは。なにそれ。わざわざ顔真っ赤にしてまで言わなくていいのに」


 いつもと変わらず緩い笑みを向けてくるつなちゃんに目を奪われる俺。

 髪を耳にかける仕草なんかも綺麗だ。

 大人の女性って感じがしてドキドキする。

 匂いだって、俺が大好きな落ち着くモノだ。

 この前学校をサボって二人で歩いたのを思い出す。


「ふふ、可愛い」

「だ、だからこれからも、会いたいです」

「ん、いいよ。でもあんまり私に――」


 言いかけたところで姉が帰ってきた。

 さっと口をつぐむつなちゃんから、続きの言葉は聞けなかった。

 何を言おうとしたんだろう。

 なんだか少し切ない雰囲気だったけど。


 と、そんなことはつゆ知らず、姉が話しかけてくる。


「瑛ちゃん今日はサボらなかったね」

「いつもサボってるみたいな言い方しないでよ」

「弓川先輩知ってます? この前この子学校サボってほっつき歩いてたんですよ? 本当に心配しちゃった」

「そ、そうなんだ。瑛大君ダメだよ?」

「……あ、はい」


 姉の前だから口が裂けても言えないけど、つなちゃんも当事者の一人だ。

 あの日、俺はこの人と一緒に出歩いてたんだから。

 つなちゃんも責任を感じてか、気まずそうだ。

 実際、姉は本当に心配してくれた。

 あまり大事にしてくれる家族を悲しませたくはないし、今後は無断で学校をサボるのはやめようと、当たり前だけど再度思った。

 ちなみに両親には言わないでくれている。


「仲良いね」

「ま、まぁ愛されてる自覚はあります」

「優しい自慢の弟ですから。でもたまーに危なっかしいんだよね。物腰も柔らかいし、舐められなきゃいいけど」

「はは、大丈夫だよ……」


 流石俺の姉だ。

 着眼点が鋭いし、的確である。

 恥ずかしいし心配もかけたくないから、学校でいじめられている事は当然言っていない。

 対するつなちゃんはこの情報も知っているため、またもや困っているだろう。

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