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第十六話 ハプニング

「はぁ……」


 激しいキスだった。

 家に帰る前に宣言していた通り、今日のつなちゃんは今までで一番濃厚なキスをしてきた。

 時間も長かったし、色んな意味で濃密。


 横を見ると、つなちゃんは艶のある表情で生き生きしている。

 先程までの溜まっている様子は既にない。

 思う存分発散できたみたいだ。

 いや、補充できたという方が正しいのかな。


「どうしたの瑛大君。ぼーっとして」

「え、いや。刺激的だったので」

「あー……もしかして舌入れられたの初めて?」

「は、はい」

「なんかごめんね」

「いや、大丈夫です!」


 初めてのキスに驚きはしたものの、興奮度や満足感も段違いだ。

 物凄く満たされている。

 紛れもなく今の俺は幸せだった。


 俺の家のリビングにつなちゃんがいるのはおかしな気分になる。

 押さえつけるのが窮屈なのか、ロングスカートを脱いでいるのもヤバい。

 細いけどむっちりした白い太ももがえっちだ。

 目の毒ってのはこういうのを言うんだと思う。


「久々に瑛大君とキスできて幸せ」

「お、俺もです」

「えー、でも他の女の子と仲良くしてるんでしょ?」

「え、いやいや! まだキスとかは全く!」

「まだって言ってるし、今後する気満々じゃん。今日のキスでまたモテちゃうだろうし、このまま童貞じゃなくなる未来も近いんだろうね。なんか悲しいよ」

「ど、童貞じゃなくなる未来……?」


 言われて想像してみる。

 相手として思い浮かぶ顔は千陽ちゃん。

 照れながらも俺を受け止めてくれる千陽ちゃんと、いつかそういう事をする日が来るのかな……?


「そ、そんなのありえないです!」

「あはは、照れちゃって可愛い。瑛大君のそういうとこ変わんないね」

「そ、そうですかね」

「喋るときにちょっとつまるとこも可愛い」


 精気を補充してつなちゃんはいつもの調子に戻った。

 ただの年上のお姉ちゃんって感じで、なんだか落ち着く。

 おかしな感じだ。

 俺には本当の姉もいるに。


「そういえば瑛大君、一人暮らし?」

「いや、姉が」

「え、大丈夫なの?」

「多分大丈夫だと思いますけど……」

「ごめん。興奮し過ぎて全然考えられてなかった」


 興奮しすぎてリスクを考慮できなかったのは俺も一緒だ。

 というか、俺の場合今もめちゃくちゃ興奮している。

 気を抜いたらつい太ももや尻尾の付け根、胸なんかを見てしまう。

 今日のつなちゃんは一段とえっちに見えた。


 と、そんな時だった。

 玄関の鍵を開ける音がする。

 鍵を持っているのは姉だけだ。


「や、ヤバい帰ってきた!」

「うそ!? ちょ、スカートだけでも……!」


 予想外のハプニングに俺とつなちゃんは焦る。

 だけど、そんなのお構いなしに扉は開いた。


「瑛ちゃーん、帰ってるー? って女の子の靴……?」


 玄関先でつなちゃんの靴に声を漏らす姉。

 言い逃れはできそうにない。

 とりあえず俺とつなちゃんは顔を見合わせ、覚悟を決めた。

 なんとかサキュバスである事だけはバレないようにしよう。


「ただいま瑛ちゃ……」

「お、おかえり。まぁ座ってよ」

「お、おかえりなさい」


 俺の後に続いたぎこちないつなちゃんの挨拶に、姉は目を見開く。

 そして聞いてきた。


「瑛ちゃん、この子が今度一緒に遊びに行くって言ってた子?」

「いや……その子じゃないよ」


 言ってすぐ、後悔した。

 姉は千陽ちゃんの事を知らない。

 誤魔化しようはあったのだ。

 なんで否定してしまったんだ俺……。


「え、じゃあ誰?」

「えっと……大学生です」

「大学って、何年生ですか?」

「三年生です」

「せ、先輩じゃないですか……」


 姉は今年大学一年生。

 目を見開きつつ、そのまま俺達の正面に腰を下ろす。


 そこからしばらく話し、驚愕の事実が判明した。


「え、弓川さんって同じ大学の先輩だったんですか!? それも同じ学科!」

「そうみたいだね……」


 まさかの姉との共通点が発覚し、つなちゃんは顔を青くしていた。

 反対に姉は感動したようにテンションが上がっている。

 カオスな状況だ。

 俺は一言も喋っていない。


「で、瑛ちゃんとはどういう関係なんですか?」

「……たまたまこの前公園で会って、仲良くなったんだよね」

「仲良く……?」

「あ、その。心配しなくても全然やましい関係じゃないよ! 瑛大君優しいし面白いから友達になっただけで。ね?」

「は、はい。ちょっとこの前落ち込んで公園のブランコに乗ってる時に相談に乗ってもらって、そこから仲良くなっただけだから」

「そうなんだ」


 上手くかわしてくれたおかげで姉は納得してくれたようだった。

 ため息を吐きながら笑う。


「びっくりしたよ~。瑛ちゃんこの前女の子と遊びに行くとか言ってたから、連れ込んでえっちな事してるのかと」

「そ、そんなわけないじゃんねーちゃん」


 えっちなことをしていたのは事実だけど、言うわけにはいかない。

 冷や汗を流しながら俺は首を振った。


「弓川先輩、これからは大学で私とも仲良くしてくださいね」

「え、あ、うん。……あはは」


 つなちゃんとしては複雑だろう。

 精気補充用人材の姉と繋がってしまうのは、嫌なはずだ。

 俺達の関係を隠すのも大変になるし。


 面倒な事になってしまった。

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